江ノ電に乗ったら稲村ケ崎で降りろ
2019年12月29日朝、江ノ電に乗っていた。
僕らははじめに江ノ島でも、鎌倉でもなく、稲村ヶ崎で降りた。
朝食を食べる為だ。
鎌倉も江ノ島も行った後に言えることは、稲村ヶ崎が1番だったということ。
江ノ電と聞いて思い浮かべる景色、まさにそれを見ることができたし、少し歩けば海辺にも出られる。片手に持ったサンドイッチめがけてトンビが滑空してきたのもいい思い出だ。
鎌倉や江ノ島のような食べ歩きのできる商店街はないけれど、人通りが少なくて、落ち着いた田舎道。
予定の詰まったこの旅で、1番ゆったり時が流れていたように思う。
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朝食を食べたのは「ヨリドコロ」という店だった。
最近の女子は、観光スポットや飲食店をinstagramで検索するらしい。
卵の白身をメレンゲになるまで泡立てて、ご飯に盛り、その上に卵黄を落とす。
大したことはない。それだけのこと。
それだけのことなのに、とても美味しそうに見えるんだこれが。
店に着いた時、店の前には4組ほどの先客が並んでいた。
これくらいなら、、と行列嫌いの僕も安心した。
そのあと店内から店員さんが出てきた。
見た目は30後半くらいの髭を生やした男性、茶髪に染めていたから実際より若く見えていたかもしれない。
その店員が列の先頭にいたカップルに説明を始めたのを、後ろから聞いていた。
なにやら予約表のようなものを見せ、話した。
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「今お客様の前に、1.2.3.4.5.6.7.8.9組待ちの10番目なんです。」
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僕らは目を丸くして、顔を見合わせた。僕らは14番目ということか。
「諦めよう。」その言葉が喉まできていた。
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「でも目の前に9組いないですよね?実は、お散歩してもらってるんです。時間にすると1時間〜1時間半くらい、あっちにいくと海辺でキャッキャできます、あっちにいくと海街diaryのロケ地があります。この辺りをぐるっとお散歩して戻って来てください。今すぐ飯食わせろという方は申し訳ありません。どうしますか?」
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落ち着いたトーンと速さで喋る人だった。
不思議な雰囲気が流れて、待っていた人は皆それに同意して散り散りに歩き始めた。
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もし、この時店員さんがこの提案をしていなかったら、きっと僕は「諦めて、違うところに行こう」と言っていたと思う。
もっと言えば、並ばずにすんなり店に入っていたなら、「稲村ヶ崎」で散歩しようとは思わなかっただろう。
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仮に、待っている間店の前にいなくていいのだとしても、客から聞かれるまで言わない店員は多いだろう。
土地柄、散歩には向いている場所だったし、1時間という時間もむしろちょうど良い時間だったと思う。
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今思えば、「ヨリドコロ」はあの“お散歩”ありきの朝食だった。
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あの店員さんは、たった一つの提案で、僕らの待ち時間を旅行の思い出の一場面として刻み、稲村ヶ崎の魅力を最大限体感させた。
散歩をしたおかげでお腹も空かせて、最高の状態で食べた“サバ定食”はもちろん絶品だった。
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散歩に行く前、キャリーバッグを預かってくれた。
それも店員さんからの提案だった。
その時にどこからきたのか聞かれ、北海道の札幌だと言うと、うちの妻も札幌出身なんです。それなら、ホッケ定食はやめときましょう。と笑いながら話していた。
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こんな些細な会話すら覚えていることが、僕にとってこの場所、体験が素晴らしいものだったと証明している。
店員さんの「やさしさ」をまとった一声が、
ヨリドコロという【お店】ー稲村ケ崎という【地域】ー旅行客という【ひと】すべてに利を与え、幸せを届けている。
こんな素敵な人がいる、お店があることを知れた。
最高の一日だった、という僕の旅行記でした。
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