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伊坂幸太郎『残り全部バージョン』を布教させてください!!

普段、本を読まない人にお勧めしたしたい本があります。

伊坂幸太郎さんの『残り全部バケーション』です。

一文目からシュールです!

「実はお父さん、浮気をしていました」と食卓で、わたしと向かい合っている父がいった。桜の木を折りました!と告白する少年さながらの爽やかさだ。p8

裏稼業の登場人物が微笑ましいです!

「大丈夫ですかね」助手席に座る俺が言った。「当たり屋」を思いつきでやるのは、利口とは思えない。
「おい、高田、俺の腕、信用できねえのかよ」溝口さんがバックミラーを確認した。~中略~
「あのな、プロってのは仕事じゃなくてもうまくやるんだよ。プロの料理人は家に帰っても、美味い飯をつくる、そうゆうもんだろうが」
「プロの料理人は意外に、家ではやらないらしいですよ。」p204-205

コミカルな会話がページをめくらせていきます!

「そうなんだよ。溝口が骨を折った時、おまえたちが当たり屋をやった相手、確か同じ車種だったろ。それを思い出したんだよ」
「あ、あの車、運転手が銃を持っていました」俺は興奮を隠せない。「トランクに入ったバックにも、銃がいくつも」
「おまえからその話を聞いた時は、つまんねぇ冗談だなと聞き流してたんだけどな。もしかすると実話かもしれなえな」
「そりゃあ、実話にきまってますよ」俺は高い声を出す。「あの時のあの男が、毒島さんを狙っているやつだった、ってことですか?」
「この日本で、銃を持った男がそう、ごろごろしているは思えねえしな。たまたま2人の男が銃を持っていて、偶然、同じ車種に乗ってるなんて、考えにくい」
「ヒットマン減税の対象車種とかじゃなければ」p230

*

残り全部バケーション/伊坂幸太郎/集英社文庫/2015年

悪い仕事で生計を立てる溝口と岡田が登場する連作短編集です。5編収録されています。

①表題作「残り全部バケーション」
裏稼業から抜けたい岡田は、先輩溝口から条件を提示されます。

「メールで友達をつくれ」

適当にメールを送った相手が、中年男性に届き、娘と妻と一緒にドライブに行くことになります。行き当たりばったりだけど、冷たい日がシュールな冒険の一日になり、家族最後の日の思い出になる、シュールで心温まるお話です。

②伏線と回収が見事!「タキオン作戦」
小学生の雄大は帰り道、よくわからない大人に声をかけられます。

「おまえさ、それ殴られた傷だろ。青いし。最近できたんだろ。」

父親から暴力を受けている小学生に出合い、タイムマシンで父親を改心させるお話です。ひとつひとつが謎の行動でも、最後にひとつになるとき、真意が見えてきます。一番好きなお話です。

③悪者がいとおしい!「検問」
溝口と太田が乗る車が検問を受けました。が、不自然なことが起こります。

「だからって、怪しい段ボールの、怪しいバックの、その中の怪しい金を見過ごしてどうすんだよ」

裏稼業中で、若い女性をさらっている途中の車中のお話です。悪党が自分の知っている知識で、アクロバットな謎理論を展開して、なぜ、金を見過ごしたかを推理します。勝手に盛り上がって、納得してしまう悪党にツッコミをいれたくなってしまいます。

④ぼくの誇りと小さな冒険!「小さな兵隊」
小学校の同級生の岡田君が壁を青く塗ったらしい。

「あれ、岡田君がやったんだってよ」

問題児の岡田君は、弓子先生を守るために落書きをしたらしい。すぱいをしているおとうさんのアドバイスで聞き出すことができた。学校の隣のビルにいる謎の人影、落書きの謎、小さな勇気と守りたい気持ちが弓子先生を救う!

⑤伏線回収回!爽やかな結末!「飛べても8分」
溝口さんは入院してしまいます。

「『とんでもないですよ』という時に、『とんでもはっぷん』とか答えるんだよ」

例の当たり屋の仕事中、溝口さんは怪我をしてしまいます。入院先には、ボスの毒島さんがいました。どこか憎めない溝口さんが大活躍!ボスを殺そうとする悪い奴はだれだ。伏線が回収されたときの爽快感を味わってほしい一品です。

*

理路整然としたことを文字にするのは、鍛錬を積めばできることかもしれません。が、謎理論を展開することは鍛錬できるのか。

例えば、4択問題をつくるとき、問題と正解の選択肢をつくることは、知識を積み、論理思考を身に着ければ、難しくないように思います。
しかし、「間違った選択肢」と「不正解の選択肢の解説」をつくることはとても難しいです。

小説家は、正解の選択肢もつくるけど、不正解の選択肢もつくるような職業なのでしょう。しかも、不正解(存在しないこと)を正解(リアルであること)にみせることも必要です。

机上で、文字を自由自在にあつかって、
0、1、3、6、8、13、~
を物語にしてしまうような仕事でしょう。


小説は想像のものです。
別の言い方をすると、うそ、です。


これを小説家さんは書いています。
だから、いいもの側のわるもの、が小説家さんです。

残り全部バケーションで、裏稼業をしていた溝口さんも岡田も、
もしかしたら、
いいもの側のわるものだったかもしれないと思いました。

最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。

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