イキ告はマジでイっている

「負けヒロインが多すぎる!」というアニメを観ました。ライトノベルやラブコメにおける、いわゆる「負けヒロイン」属性の女の子たちに焦点を当てた面白い視点のアニメです。
 その負けヒロインの一人、小鞠知花(こまり・ちか)の告白シーンが印象に残っています。

 小鞠は文芸部が居場所です。そして、部長でもある玉木先輩のことが好き。だけど玉木は、同じく文芸部部員で同級生、幼馴染の月乃木先輩のことが好きで、しかも彼らは両思いです。小鞠は、つっかえながら話す癖があり、人と喋るのが苦手で、クラスでは孤立しているから、部が唯一の居場所。だから、先輩二人のことを仲間として慕ってもいます。彼女を取り巻く人間関係は、こういう複雑な「負け」構造を孕んでいます。

 夏合宿の夜、みんなでする花火とその暴発。助けてくれた部長が、小鞠に、「顔に傷でもついたらどうすんだ」と言います。自分の顔など、傷ついたところで誰も見ていないと言う小鞠。だけど、部長は、「少なくともお前が見るだろ/お前が毎日鏡で自分の顔見て/その度に嫌な思いをするじゃん/俺はそれが嫌なんだ」と答えます。

 小鞠は「私のことちゃんと見てくれて」いる部長のことが好きだった。そこで、思いが爆発して告白する。

 小鞠の告白は明らかに無文脈で唐突、状況的にみて異常、しかも驚かれている、つまりイキ告なんじゃないかと思いました。意外性がある、すなわち、好意が想定される関係値の視野に入っていないということです。

 すごくいいシーンだけど、別に今ではないだろという感じはある。

 イキ告という言葉があります。pixiv百科事典にもページがないので私が見た印象で言うと、いきなり(の?)告白の略で、オタクっぽい目立たず恋愛経験に乏しい男性が、関係がさほど深くない女性に岡惚れして突然告白すること、というように使われているといった感じでしょうか。俗に性的な行為で絶頂を迎えることをいう「イく」とは関係ないです。そういう字面にしか見えないという人が大勢いて、私もです。
 この突然というのは要するに告白された女性の視点だと、相手のことは一定以上の価値を置いた存在として認識していないからいきなりに感じるのであって、それはほぼ全ての失敗する告白が該当するんじゃないかとか思いますが今はその点は脇に置いておきます。

 だけど、つまり、感情が昂って、抑えきれなくて、だから口にしてしまったわけです。これってあれだなと思いました。アニメ「バビロン」です。
 「バビロン」には、会話をすると、話した相手の自殺衝動やタナトス、希死念慮のようなものを刺激して自殺へ仕向けてしまうという、とんでもない能力を持ったキャラクターが登場します。この能力に呑まれて自殺してしまった登場人物が、死ぬ直前に、駆り立てられた衝動についてこう語っています。

正崎(せいざき:主人公の名)さんも分かるでしょう/男ならさ/あの感じですよ/セックスのあの感じ/もっと我慢して/もっと続けてえと思いながら/それと真逆にね/早く/早くだしたいっていうあれ/まさにああいう感じですよ/それはもう気持ちのいいもんでしょう/その先に/例の一線があるんです/そこを超えると溢れちまうっていう最後の防波堤ですよ

アニメ「バビロン」第七話「最悪」

 掻き立てられた自殺への衝動をセックスで射精する直前に例えています。そういう一線の前で、行ったり来たりしていたのが小鞠なのかもしれません。「負けヒロインが多すぎる!」第10話でのセリフも印象深いです。小鞠は、夏合宿のことを振り返り、「月乃木先輩もいた三人の時間が好きだった」、「それを全部壊してもいいくらいに思って」と語っています。

 まさにこれが、イくか、イかないかの瀬戸際なのかもしれません。相手に対する気持ちが、もう今まさに溢れそうなんです。抑圧と解放。告白したら、もう距離感は変わってしまう。気持ちを抑圧して先輩と接する時間も大切にしたいけど、解放しなければ救われない、到達できない感情がある。
 だから、あの夏合宿の日、ついに我慢できなくなった。ああもう言ってしまおう、解放されてしまおうと、そういう防波堤を超えた瞬間だったのではないでしょうか。抑えきれない感情の発露。一瞬の煌めき。ここで花火というモチーフが用いられたのは偶然ではないはず。それは命を散らす覚悟の、一世一代の大一番ではないでしょうか。


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