面白いのに読まれない現代短歌の良さを全力で伝えつつ、好きな歌集を紹介。木下龍也、『きみを嫌いなやつはクズだよ』
現代短歌を読んでいる人をほぼ見かけない。
本を読む人自体が少ないこともあるが、本を読む人の中でも現代短歌を好んで読んでいる人はさらに少ない。
おそらく、日本で普通に育つと初めて「短歌」というものに触れるのが、百人一首のような古典和歌であるが故に、「短歌=古語」のイメージがつき、大人になってからわざわざ読もうとする人はいないのである。粗い目の網でふるいに落とすかのように、一気にごっそりとふるいにかけられ、ほとんどの人たちは短歌を読むことなく生涯を終えるのである。
とは言いつつ、僕自身も「短歌=古典和歌」のイメージだったために、現代短歌には見向きもしなかった(というかそんなジャンルがあることすら知らなかった)が、枡野浩一という歌人の
という短歌をどこかで見て以来、現代短歌というものに興味を持ち、時折現代短歌を読んでは今日に至るのである。
色々と読んできた結果、個人的には「木下龍也」(きのしたたつや)さんが一番好きで、現代短歌を読む人にも読まない人にも、ぜひとも紹介したく思い、歌集を一冊紹介させていただく。
歌集『きみを嫌いなやつはクズだよ』
木下龍也さんは、ユーモアのある歌と「死」がテーマになる歌が多いように感じる。
現代短歌全体に言えることだが、現代短歌は57577の31文字のなかで人の心を動かそうとするために、鋭い切れ味の発想がとにかく多い。
「そんなこと考えもしなかった!」
という素晴らしい着眼がたったの31文字のなかに表されていることに、感心せずにはいられないのだ。
そんな現代短歌の面白さに加えて、ユーモアで笑わされ、「死」でハッとさせられる木下龍也さんの作品を、ぜひ味わっていただけたらと思う。
以下、『きみを嫌いなやつはクズだよ』という歌集から個人的に気に入った歌を引用する。
個人的に一番好きな歌は(わざわざ太字にしたのでお察しかと思うが)
である。
一見、笑える歌で僕も最初はふふふっと笑っていたのだけれど、ふと自分の恋人や愛する人を本当に鮫に食われたとしたら……、と想像していったら、この斎藤の気持ちがわかるような気がしたのだ。
鮫に怨嗟の思いを募りながら、かといって鮫に直接復讐もできないために、有り金が底をついて破産するまでフカヒレを食べ続ける斎藤の姿が、どこか健気に思えてならない。
そして実際に、恋人を鮫に食われた人が世界のどこかにいるかもしれず、大多数の人には笑える短歌であるかもしれないが、その人にとっては心を抉るような短歌でもあるかもしれないのだ。
この「笑える」短歌でありながら、「考えさせられる」短歌でもある二面性が、僕の心を捉えたのか、今でも一番好きな短歌と訊かれれば、この恋人を鮫に食われた斎藤の歌を答えてしまう。
最後に
現代短歌の魅力が伝えきれた気はまるでしない。というのも、結局のところどんな歌が響くのかは千差万別であるからだ。僕が好きな歌を他の人が好きだとは限らないし、他の人が好きな歌を僕が同じように好きとは限らない。
一つだけ確かなのは、
忘れられなくなるような短歌が絶対に一つはある、
ということだ。
57577という語感に、自分の感性に響く内容の歌が重なった時、その人の記憶の中には一つの短歌が、31文字の小さなフレーズが不動となって存在せしめる。
それはたったの31文字だが、人生を生きる上で心の支えにもなりうる31文字なのだ。
皆さんの心に響く短歌をぜひ探してみてください。