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【読書感想文】求めすぎる現代社会への処方箋『求めない』

東洋思想に通じている加島祥造さんの作品。

「求めない……、するとどうなるか」
ということが短い文章で書かれている。
と言われても「どういうこと?」って感じだと思うので、最初の数ページを引用する。

求めない──
すると
簡素な暮らしになる

求めない──
すると
いまじゅうぶんに持っていると気づく

求めない──
すると
いま持っているものが
いきいきとしてくる

求めない──
すると
それでも案外
生きてゆけると知る

このように求めないと具体的にどうなるのか、が書かれていく。後半は「求めない──すると」という文章ではなくなっていく。後半部分の一部を引用する。

いまあるものでじゅうぶんだ、
と知るひとだけが、
生きることの豊かさを知るんだよ。
その豊かさは命の喜びだ。それを
否定して、欲するなと──
言うんじゃないんだ
命の喜びを越えたら、
どこかで止めることさ。それだけさ。
すると
静けさと平和
このふたつが見つかる──

それが豊かさなんだよ。

本書より

現代社会は、求め過ぎている、と僕も思う。

今あるものに感謝する。
今持っているもので充分と思える。

そう思える人が少ない。

広告や宣伝は、人の欲を加速させる。それはあたかも、持っていないことが恥ずかしい、みたいな錯覚さえ起こさせるのだ。

綺麗な格好をしていなければ恥ずかしい。
いい車に乗っていなければ恥ずかしい。
高級な家に住むことが素晴らしいことだ。

でも本当は、そんなことを恥ずかしいと思うことが恥ずかしいのではないだろうか。

綺麗な格好をしたければすればいいのであって、別にどんな格好をしていてもいいのである。
いい車に乗りたい人は乗ればいいのであって、車がなくて不便がなければ免許さえいらないのだ。
高級な家でなくとも雨風が凌げればテント暮らしでもいい。テントさえいらない人は公園で寝ていたっていい。

人と比較するから、持っているか持っていないかが気に障るのだ。大切なのは、「自分が」どう思うか否かなのに、人はいつの間にか「他者にとって自分がどう思われるか」を一つの評価軸にしてしまう。

それが不断なき欲を生むのだと僕は思う。

「他人によく思われたい」という虚栄心だけはなかなかどうして人は捨てきれないものだからだ。

本書はその難しさを、人間が求めてやまない生き物だとわかった上で、「求めない」ことを始めてみよう、という一冊だ。

「求めない」ことは無理かもしれない。
しかし「求めない」とそう口にするだけで、頭のなかで思ってみるだけで、心のどこかに小さな余白ができる。

頭も心も体も「求める」ことに支配されているなかで、たったの一言「求めない」と口に出してみるだけで、100%が「求める」で埋まっていた自分に1%の「求めない」部分ができる。

その1%は、ただの1%ではない。0だったものが1になることは、無から有が生まれるくらいに劇的な出来事なのだ。

「求めない」
求めてやまない燃えるような欲深い世界と自分に落とされた一滴の雫が、いつか平穏をもたらすのかもしれない。

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