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アルファベット順に子供が悲惨な死を遂げる絵本『ギャシュリークラムのちびっ子たち』
今のところ日本語版で出ているエドワード・ゴーリーの作品はすべて所有しているので、これから一つ一つ紹介していこうと思う。
一番始めは僕がエドワード・ゴーリーの作品を収集し始めたきっかけとなった作品『ギャシュリークラムのちびっ子たち』から、紹介したいと思う。
エドワード・ゴーリー(1925 - 2000)は、アメリカのカルト的な絵本作家である。奇人エピソードが多数あり、それらを書いているだけで一つの記事になりかねないので、ここでは割愛させていただく。
「絵本」というと、日本でもアメリカでも世界中のどこであっても基本的には「子供向け」というイメージがある。もちろん、そうではないものも数多く存在するが、一般的には「子供が読むもの」というある種の共通認識がある。
そのために多くの絵本は、子供が楽しめるような、子供が読んでいて楽しい気分になれるようなお話になっているものであり、絵本に出てくる子供が残酷な目に遭うなんてことはあってはならないタブーに相違ない。
しかし、エドワード・ゴーリーは、それが気に入らなかった。
「私の使命は人を不安にさせることだ」とエドワード・ゴーリーは語り、絵本界隈のなかでの暗黙の了解である「子供が読む前提で作る」という不文律を清々しいほどに突き破ったのだ。
本作、『ギャシュリークラムのちびっ子たち』では、アルファベット順に子供達が悲惨な死を遂げる。
Aはエイミー かいだんおちた
A is for AMY who fell down the stairs
という一文と、エイミーが階段から落ちている姿が、モノクロのペン画で描かれているところから始まる。
それ以外には、なんの説明も、なんの文章もない。ただ小さな子供が最期の時を迎える瞬間だけが、あたかもサイレントフィルムの一場面を切り取ったかのように描かれているだけなのだ。
そして次は、
Bはベイジル くまにやられた
B is for BASIL assaulted by bears
という一文と、ベイジルという男の子が二頭の熊に襲われる瞬間が描かれている。
そしてこのようにアルファベットの順番、AからZまでの26人の子供たちが無残にも亡くなる様が淡々と描かれていく……、という作品なのだ。
読んでいる途中も、読み終わってからも、どこか不安な気持ちが自分の中に生まれている。しかしその不安感は、決して悪いものではないのもまた確かなことなのだ。
エドワード・ゴーリーの作品を読み終わった後の、得も言われぬ読後感……。不安の中に満足があるような、暗い穴に落とされた後に暗闇に目が慣れてきて安心するような……、この感覚が病み付きになり作品を収集し始めたのである。
この何とも言えない感じを、ぜひ味わっていただきたいものだ。ちなみに怖い系以外の作風もあるので、怖くはないゴーリーの作品群も楽しんでいただけたらと思う。