雑誌『教育と医学』(2023年9・10月号)「特集にあたって」「編集後記」公開
雑誌『教育と医学』の最新号、2023年9・10号が、8月28日に発売されました。今号の特集は、「発達特性に対応する教師の授業力──特別支援教育と教員養成の新展開」です。
教師が、それぞれの子どもの理解の程度や発達特性に対応できる力は、授業はもちろん、学級づくりや学校づくりにおいても重要です。小・中学校における個々の子どもの違いに応じた学校づくり、学級づくり、授業づくりに必要な教員の資質・能力とは何か、教員養成のあり方、具体的な実践事例とともに、さまざまな角度から考えます。 (責任編集:徳永 豊[福岡大学人文学部教授])
「特集にあたって」と、「編集後記」を公開します。ぜひご一読ください。
●特集にあたって
個の学びを支える授業づくり
徳永 豊
小・中学校等において、特別な教育的支援についての理解が広がり、支援の工夫が充実してきました。本誌では「読み書き支援の最前線」として2020年9・10月号に、また「子どもの聞く・話す・計算を支援する」として2021年9・10月号に、さらに2022年9・10号で、「注意の難しい子、落ち着きのない子への支援」を取り上げてきました。それぞれの発達特性から生じる難しさ、それに困っているのは子ども自身であり、周囲がどのように理解して、どのように支援していくかをまとめました。
そして、小・中学校において学習上または行動上に支援が必要な子どもの割合は、従来は6%程度とされていましたが、最新の文部科学省の調査(2022)では、9%弱というデータが示されています。この割合の増加は、学校の教師や親などが細かく子どもの学習状況や行動特性を捉えるようになった点、またスマホ利用などの拡大で幼少期における大人とのやり取りや会話が減少している点などが指摘されているところです。
これらの子どもについて、それぞれの学習状況や学びの難しさの違い、発達特性を踏まえた支援が重要になっています。そのような違いに応じる対応は、授業づくりにおいては当然ですが、学級づくりや学校づくりにおいても重要なものであり、そのような力はすべての教師が身に着けてほしい資質・能力と考えられます。
しかしながら、小・中学校教師の基礎的資質として、個々の違いや発達の特性の理解及び授業における対応が十分でないとの指摘が、保護者や教育行政から多くあります。教師の資質・能力が、従来からの集団を前提した画一的な授業展開のスタイルを土台としたものであり、個々の子どもの違いに応じつつ最適な学びを積み上げる集団での授業の実現につながるものではありません。また、教員養成のためのカリキュラムが、学校現場の状況に対応していないとの指摘もあります。特別支援学校教員養成のコアカリキュラムが示されましたが、それらは特別支援学校において必要な資質・能力であり、小学校や中学校で必要とされる資質・能力と異なる可能性がありますが、それは詳細に検討されていません。いくつかのガイドはありますが、特性に応じた工夫のみの紹介であり、教育課程を踏まえた基本的な授業づくり、学級づくり、学校づくりの工夫などが検討されていません。
そこで本特集では、小・中学校における個々の違いに応じた学校づくり、学級づくり、授業づくりのために必要となる教員養成のコアカリキュラムとは何か、について検討します。それとともに、子どものそれぞれの体験・理解や学びの難しさの違い、発達特性を踏まえた支援を展開していく教師の資質・能力、すべての教師が身に着けてほしい資質・能力とは何かを考えます。
個々の違いや発達特性などに応じた学校づくり、学級づくり、授業づくりの具体的実践についても紹介します。そして、「令和の学校教育」として、これからの時代の変化、それに柔軟に対応していける免許制度や教員養成のあり方についても考える機会とします。
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●編集後記
子どもを育んでいくことは楽しくも面白くもあると同時に、難しさを感じることもある。複数の子どもたちを同時に対象とする場合においては尚更であろう。一人の教師が一つのクラスで授業や学級をつくっていくことは、そのような教育システムで育ってきた私たちにとっては日常のことであり、全く違和感のないことである。しかし、教師の立場にたち、あらゆる側面に個人差があるといっても過言ではないクラスの子どもたち全員に何かを学んでもらうことを想像すれば、いかに難しいことが日々の教育の中でなされてきたことかと改めて感じる。
ちょうど、教育実習をしてきた学生と話をする機会があった。当たり前ではあるが、実習先で初めて学んだことや実際に授業をやってみないとわからなかったことがあったそうである。また、個々の子どもの違いに応じた授業や対応については特に、授業や学級を作っていくことや子どもの理解のしかたについて経験を積んでいかないと難しい部分があるように感じる、と話していた。
しかし、必ずしも現場での体験やこれからの経験だけが意味を持つというわけではなく、学生は教職科目や子どもに関する専門科目で学んできたことも非常に役に立ったとも教えてくれた。つまり、事前に知識を持っておくことで、実際には初めて遭遇したことであっても、子どもや状況の理解をしやすく、生徒への配慮につながったように感じたことがあったとのことであった。教員養成の在り方によっては、経験が浅くても、子どもに応じた対応や授業が比較的なされやすくなるのかもしれない。
本号では、児童生徒一人一人の違いに応じた学校・学級・授業づくりに必要な教員の資質や能力に焦点を当てた。学校現場で子どもの理解の程度やそ
れぞれの発達特性に合わせた対応をすすめていくには何をどのようにしたらよいのか、本号を通して、読者の皆様と一緒に考えていけたら、と思う。
實藤和佳子(九州大学大学院人間環境学研究院准教授)
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