玉三郎さんの舞踊公演
『一振りの袖に時空の波が立ち 舞いの世界に吸い込まれていく』
今年も、熱海・MOA美術館の能舞台で、坂東玉三郎さん舞踊公演を観てきた。
私が行った日は、5日間公演の最終日だった。
10年前までは、歌舞伎やお能はテレビでしか見たことがなかった私が、古典芸能に興味を持つようになったのは【おばちゃん】のお陰だ。
「新しくなった歌舞伎座に行きたい」
お世話になっている友人のお母様(以下「おばちゃん」と表記)の一言で、私の父が動いた。
彼女は癌を患い、手術をしたが転移していた。
そう長くない自分の時間を分かっていて、若い頃通った歌舞伎座に行きたいと言った。
父が坂東玉三郎さんの「阿古屋」が歌舞伎座であると聞いて、チケットを取ってくれて、
初冬の晴れた日、父と私とおばちゃんと3人で歌舞伎座へ出かけた。
玉三郎さんの「阿古屋」は素晴らしくて、彼の努力と魅力と迫力に圧倒された。
おばちゃんのお陰で、私はすっかり古典芸能に興味を持ち、関連した本を読むようになった。
おばちゃんは3年前に亡くなったけど、
私は玉三郎さんの舞踊公演に出掛けるようになった。
玉三郎さんの舞台に行く朝は
「おばちゃん、一緒に観に行こうね。」
と、声をかける。
玉三郎さんの動き一つ一つに感動し、
「おばちゃん、観て!今年の玉三郎さんもすごいね。」
と、心の中で話しかける。
今年もMOA美術館のロビーから見る熱海の海は、とても美しかった。
ここで、この海をおばちゃんと一緒に眺めたあの時を思い出す。
おばちゃんのおかげで古典芸能の素晴らしさ知ることができた。
おばちゃん、素敵なプレゼントをありがとう。