地方創生で見落とされがち、住民参画まちづくりを実現させるジェネレーターの役割
地方のまちづくりでは、住民のニーズや、潜在欲求としてのインサイトを引き出し、実現可能性を高める企画としてまとめ、建物や空間などの場づくり、政策やプログラムなどのしくみに落とし込んでいくプロセスが重要です。
実現させるために、進行役には参加者の意見を引き出し、円滑に進行するだけではなく、事業の経験則、企画やデザインのスキルが求められます。
さらに、自ら中に入り込み、参加者とともに、自ら主観的なアイデアも出して、住民を焚き付けながら、巻きこんでいく役割がジェネレーターです。
ジェネレーターについては、以前にnoteでも書きましたが、その後の実践事例を踏まえてアップデートしました。
1.住民参画のまちづくりは難しい?
人口減少・少子高齢化が加速する地方においては、まちの存亡をかけて、移住者や関係人口の誘致、定住促進など複数のまちづくり施策が実施されています。
地方にはまちづくりに必要な事業や不動産・建築、デジタルなどの実務経験・専門スキルを持つ人は少なく、都市部の民間企業に委託。
結果的に地元住民の意向が反映されないまちづくりに陥ることが多いのではないでしょうか?
そんな問題意識をもって、ぼく自身は地方の町に移住し、地元住民という立場ももったまちづくりを実践するために人口1万人の過疎地、宮崎県都農町(つのちょう)に移住、まちづくり会社を起業して現在に至ってます。
町役場職員や住民にまちづくりの経験・スキルが少ない中で、いかにして住民参画・主導のまちづくりをしていくか、官民連携を進めていくのか、4年間の実践を踏まえて、課題と解決策を考えます。
2.地方のまちづくりの課題と解決策
まちづくりにおいては、住民の不満や要望を抽出することと、そうした不満や要望を解決する環境(建物など)や仕組み(政策など)を作ることが必要となります。
住民に建築や政策立案のプロはほぼいないため、アイデアといっても、単なる感想、要望、思いつきの枠は超えません。
ファシリテーターとして、住民に真摯に寄り添い、アイデアを引き出すことは必要ですが、それだけでは、まちづくりのプロセスとしては不十分な結果となってしまいます。
ではどうすればよいのか?
外部の視点から、住民のアイデアを客観的に引き出すだけではなく、内側に入って主観的なアイデアを出して、住民を焚き付け、巻きこんでいくのがジェネレーター。
3.ジェネレーターの定義・果たす役割
ジェネレーターは、市川力さん・井庭崇さんによって提唱された概念で、「生成する(ジェネレート)」を語源とした造語です。
ジェネレーターは、ファシリテーターに求められる「聞き出す力」「合意形成する力」に加え、話を聞くだけでなく、自らが参加者として積極的にアイデアを出し「創造する力」を保有すべきと考えています。
「創造する力」を発揮するために3つの切り口を考えました。
このような言動を可能にするために、ファシリテーターとしてのスキルに加えて、実務者として事業や企画を実現させた経験則があると理想的です。
4.ジェネレーターの実践事例
①つの未来学
2021年4月より、都農町唯一の中学校、都農中学校で各学年、年間15時間の総合学習の時間をオリジナルのプログラム「つの未来学」として授業を実施しています。
まちづくりを共通テーマにおき、中学生が自分ごととして、自分のまちをよくしていくアイデアや具体的な方法を考え、町長、教育長に提言、実現に向けて共創していくことを目指しています。
ジェネレーターとして最初に必要なことは、
今年度、2年生のテーマは、全員が知っている商店街の空き地を広場にするとしたら、なにがあったら自分たちは行きたくなるか?としました。
「農と食」「デジタル」「観光」など中学生が想像のつく10のチームに分けて、自分が興味のある分野を選び、課題の解決策を探究しました。
中学生だけで考えると、狭い日常生活の範囲で見えていることしかアイデアが出てこないため限界が生じます。
ぼくらはジェネレーターとして、中学生の視点を高め、視野が広がり、なによりも面白がれる国内外の事例を紹介することにつとめました。
一人一台持っているタブレットを活用し、検索キーワードのヒントを伝えて、自分で新しい情報、事実に辿り着けるよう伴走。
ジェネレーターは中学生と同じ方向を見て切磋琢磨しながらアイデアを出していくスタンス
上下の関係や教える、教えられるの構図はなく、あくまでもフラットです。
アイデアを絞り込んで企画にまとめていくプロセスでは、国内外のトレンドや、世の中の成功事例、まちづくり実務の経験則を活用し、選択基準を提示、中学生が実現性の高い選択肢を選べるようサポート。
企画がかたまってきたあとは、人に伝えて、共感を呼び込むためのことばづくり、プレゼンテーションのコツを伝えてリハーサルを重ねました。
このプロセスを重ねることで、中学生が自分たちだけでは発想できず、知ることのできなかった情報をもとに、自らのことばで、町長や教育長へ自信を持ってプレゼンテーションができると考えました。
10の分野ごとに町長・教育長に提案。経済チームは「無人古着屋」、スポーツチームは「3on3バスケコート」、ゼロカーボンチームは「おもしろいゴミ箱」など町の特性を踏まえつつ自分たちもほしいものを提案。
この中で、観光チームの「廃棄花を使ったフローティングフラワー畑」と、学びチームの「巨大すごろく」は、先生たちと協議し、彼らが3年生になる来年の「つの未来学」で具現化させていくことになっています。
②延岡ワークショップ
延岡市では、市が主催する34歳以下の若者を対象に、まちづくりについて市長への提案を行うワークショップを開催、私たちがジェネレーターとして伴走しました。
基本的なプロセスは上述の「つの未来学」と同様に、参加者にない情報や発想のヒントを提示し、企画をまとめあげるうえでは、世の中のトレンドに着目し、実現性の高い選択肢をつくれるよう伴走。
市長に提言した3つの提案
市長からは「植物園でいやし」は来年度、基本構想をつくる予算検討をしたいとのコメントもありました。
5.まとめ
ここ最近、特に文系出身の学生や20代の若者が地方・まちづくりに関心を持つようになっている実感があります。
ただ、地方やまちづくりに携わる職業はぼんやりしがちで、必要なスキルも不鮮明になりがちです。
将来的に、ジェネレーターを養成するスクールや認証制度をつくって、全国各地にジェネレーターを配置していけば、子どもを含めた地元の住民が主体的にまちづくりへ参画していく事例が増やせるんではと思索中です。