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「殿、利息でござる!」の原作本読みました

よかったです。映画と同じくらい。
「殿、利息でござる!」は、邦画のうち、私の中で少なくともベスト5には入る。
貧しい吉岡宿を救うため、立ち上がった旦那衆…私財を投げ打ち資金を作り、それを貧乏な仙台藩にお金を貸し利息を取り立てる計画。しかし、その話を通すのは容易ではなく…。めーったに映画で泣かない私が、後半思わず涙ぐんでしまった…妻夫木聡演じる浅野屋さんと阿部サダヲ演じる穀田屋さんが対峙する“あの”場面にじーんとこない人はいないかと。ラストで、国民的人気者のある方の演技も、微笑ましいしね。幸せな気持ちになる。この素敵な物語が、史実に基づくというのが素敵すぎる。
先日、ようやく原作を読み、感動再びの心境です。
文春文庫磯田道史著『無私の日本人』に収められている「穀田屋十三郎」。文章のリズム感が司馬遼太郎と同じだ、と感じて懐かしい(40年くらい前すごくはまっていた…“竜馬がゆく”とか)。人物が生き生きと活躍し、気持ちよくこの世界に浸れてしまう。
“奇妙な自治の時代”と筆者が語る当時の社会の様子が、平易な言葉で説明され、大いに知識欲が満たされる。当時庄屋は全国に50万人いたとか。この人々のわきまえがすばらしかったと筆者は述べています。
庄屋のことを仙台藩内では肝煎といい、約10ケ村ごとに大肝煎が置かれた。奉行や代官がいても、徴税と民政の仕事を実際に請け負うのは彼らです。
映画で大肝煎千坂を演じたのは千葉雄大さん。吉岡宿を救うため骨を折る。でも、身分は農民ではあっても、武士文化に近い位置にいる人。武士世界に共感する心持もあって…。大雨になっても蓑しか着られない農民の中で、大肝煎は傘がさせる特権的な農民。権力者が庶民をすみずみまで支配する、その巧妙さに改めて舌を巻きます。
組織の在り方、中央と地方の関係、経済の仕組み、そしてそれに基づく人々の意識…。この時代形成されたものの多くが、今の日本の礎となってきたんだなあ。
権力ある者にもの申すときは、用心に用心を重ね根回ししなきゃいけない。分相応を超えた振る舞いや徒党を組むことはご法度…。硬直化した支配関係の中、辛抱強く、穀田屋たちは行動する。応援せずにはいられません。
とりわけ心に残ったのは、史料がほとんどないという橋本代官。この人の優しい心と勇気が、大きく扉を開けたのです。この人なしには、大願成就はなかった。
『無私の日本人』には、このお話以外に2作品収められ、いすれも、歴史に埋もれてきた無私の人を取り上げていて、その崇高な生き方に胸を打たれます。

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