涙の接吻
おじいさんとおばあさんは
目を合わせても
あまりしゃべらない
寄り添ってきた月日の中
ただ幸せなことばかりじゃ
なかったんだろう
分厚い底の眼鏡
手のひらのシワ
写真には写らない思い出に
目を細める2人
出逢った日 恋に落ちた日
結婚した日
別れたいと思った日
子供を初めて抱いた日
子供が手を離れた日
溢れる涙よ
これは全て幸せな日々よ
おじいさんはおばあさんを
呼ぶ時も名前では呼ばない
怒ったときは普通の顔
機嫌の良いときは
なぜか口笛を吹いていた
おばあさんが編んだ
お気に入りのセーター
若いときのように
「ありがとう」
と素直に言えない
でも毎年冬になると着ていたね
泣かせた日 喧嘩をした日
抱き合った日
背を向けて眠った日
たくさんの日々を乗り越えて来た
おじいさんは身体を壊して
おばあさんはひとり…
… 泣いた
言い合いした日
一緒に笑いあった日
孫に囲まれた日
夏の忘れ物の花火をした日
どれもこれもが幸せだった
棺に入ったおじいさんの
頬に手を当てて
「今までありがとう…」
と優しく呟いたおばあさん
そしておじいさんがお気に入りだったセーターを棺に入れようとした時
花柄の封筒が…
“おばあさん
今日まで本当にありがとう
先に逝く 待ってる”
おばあさんがおじいさんに
そっと接吻をした