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2024年2月の記事一覧
『この梅生ずべし』 安立スハル(1923〜2006)
常(とこ)臥しのわれの周囲の掃かるると風呂敷を顔に被せられたり
仰臥しに天井の蠅を目守る吾かくてひたすら時を逝かしむ
手を執り合ひ醜男醜女行けり着替へして出で来しのみに疲るるわが前
馬鹿げたる考へがぐんぐん大きくなりキャベツなどが大きくなりゆくに似る
何とはなく部屋に立ちをり灯をつけし汽車が視野より見えずなるまで
階下(した)のひとは二階に一人居る吾を餘りに寂けしと言ひて覗きぬ
自動扉
『壺中詠草』 二宮冬鳥(1913〜1996)
医学用独逸語が英語にかはりにしかの迅速をまた思ひをり
あるときに幸福の感おとづれてをりたれどまた去りてゆきたり
われはいま理想的なるすがたにて横たはりをり眠ることなく
うつし身に何が起こるといふならむ上腿の皮膚が過敏になつてゐる
あすの昼すぎは雨ふるといふ予報おもひてけふの目をつぶりたり
老齢にちかづく犬が部屋みゆるところに長く立つことのあり
今日も来て坐れる椅子に空想はもはや育たず髪
森岡貞香の時間を取り扱った歌を集める(すべて時間といえば時間だが) ※気まぐれに追加
いきいきと部屋に入り来し少年にて今後の速くなる感じしたりき
長き列に附着してゐる影あまた時間の中に影法師あまた
きのふの夜となりし石垣の濠のうへ白鳥ねむる波のありけり
きのふの日過ぎててーぶるに散らばれるイラン産干葡萄ちひさき赤の粒
夜の雲の白の明るさの近づきく寝部屋に眠りはじむる者に
おのづから朝へすすみて箱と本のかさなる影のあらはれいづる
椅子に居てまどろめるまを何も見ず覚めてのの
『忘路集』二宮冬鳥 好きな歌を抜書き
二宮冬鳥(1913〜1996)
片頬を布団にあてて寝てゐるはこころよしこころよきことは少なし
頭の上に腕おきて寝なば楽と姉いひき考へてみれば六十年まへに
コンタクトレンズつけたる現身のなきがらをときに思ふことあり
よろこびて赤きメロンを日日たべてをればことしの梅雨も過ぎたり
眼鏡かけてをらざるわれに叩かるるごぎぶり一つ今日の夜の果て
九州に最も早くもず鳴くは五島といふ五島とは五島列