森岡貞香の時間を取り扱った歌を集める(すべて時間といえば時間だが) ※気まぐれに追加
いきいきと部屋に入り来し少年にて今後の速くなる感じしたりき
長き列に附着してゐる影あまた時間の中に影法師あまた
きのふの夜となりし石垣の濠のうへ白鳥ねむる波のありけり
きのふの日過ぎててーぶるに散らばれるイラン産干葡萄ちひさき赤の粒
夜の雲の白の明るさの近づきく寝部屋に眠りはじむる者に
おのづから朝へすすみて箱と本のかさなる影のあらはれいづる
椅子に居てまどろめるまを何も見ず覚めてののちに厨に出でぬ
夜をくぐり目さめるときに夜をくぐりきれざるときのいつともしらず
あとすこし先きの日として見えながら別れのきはの急に見えざり
後日なるけふに思ひ出でぬ庭の柿の赤き日に父は汗みどろなりしを
空池になにがなし雨水たまりつつすぐにも夕べに入らむとすなり
急ぎ出でて早く戻れるこのからだわが部屋にあるもとよりのことに
きのふまたけふ厨の方へ行かむとし尻尾のごときを曳きてをりけり