【読書メモ】アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方
アオアシ、本当に魅力的なマンガです。
選手としての成長、葛藤を乗り越えて勝利する喜び、チームメイトとの絆、ちょっとしたラブコメ要素。そしてなにより、知的刺激にあふれています。
身体知や感覚的な要素が多いのがスポーツですが、あえて「言語化」をすることで、より高いところへ到達する、それがアオアシの主題のひとつです。
そのアオアシを題材にしたのがこちらの本です。
この本のテーマは、「自ら考えて動ける人材」のヒントを「サッカー的思考法」から得よう、というものです。
サッカー的思考法とは、例えば以下のようなものです。
これは、著者の仲山さんが紹介しています。
育成に定評があるオランダの名門クラブ・アヤックスが、かつて提唱していたものだそうです。
これをもう少し、仕事と結び付けやすくするために仲山さんは
「観察→判断→実行」ループ
という風に「自ら考えて動ける」を定義して話を展開しています。
本書は、この3つに「才能」という章を加えた4章で構成されています。
「なるほど~」と思わずうなってしまう内容が盛りだくさんです。なかでも印象に残ったふたつをここでは書きたいと思います。
相手の視点に立って考えるとは?
ひとつは「視点・視野・視座」です。この3つ自体はよく知られた概念です。
仲山さんが本書で言っているのは、「視点」という言葉の使われ方です。私たちが「相手の視点に立って考えろ」というとき、実は2つの捉え方があるとしています。
それは、「相手がどこを見ているか」ということと「相手の立場になる」ということです。
確かに「お客さまの視点で考えよう」とよく言います。このとき、お客さまの見ている物に着目することが多いのではないかと思います。これは、よく考えると、自分の立場でお客さまが見ている物を見ているのに過ぎません。本当の意味で相手の視点に立って考えてはいないのです。
これでは、良い判断をするための選択肢が広がりません。
良い判断をするために選択肢を増やす
サッカーでも仕事でも良い判断をするには、多くの有用な選択肢が必要です。選択肢を広げるとは「視野」を広げるということです。
アオアシの主人公「アシト」の特徴は、グランドを鳥の目で俯瞰しているかのような視野の広さです。アオアシでは、アシトがこの武器を自覚的に使えるようになっていく様子が描かれています。
では、視野を広げるにはどうしたら良いのでしょうか。
その方法として、本書では、
①視点を増やす
②視座を離す
をあげています。
①については、視点、つまり見る対象を増やせば、見える範囲である「視野」が広がるということです。アオアシの中でもプレー中に「首を振る」大切さが語られています。例えば、パスを受ける前に首を振って状況を確認することで次のプレーの選択肢を増やすのです。
②の「視座を離す」とは、対象物を離れたところから見るということです。俯瞰してみたり、他の何かと比べてみたりすることで、視野が広がります。自分の役職より高い視座で考えたり、他の部署の立場に立つことが仕事でも大切ですよね。違う視座に座ってはじめて見えることがあるのです。
良い価値基準を持つ「1.1力」
しかし、選択肢を増やしたとしても良い判断ができるとは限りません。
そこで、印象に残ったことのふたつめです。
それは、「1.1力」です。
これは、大変示唆に富んでいますね。興味深いのは、価値基準を高める前提がチームで考えるということになっている点です。
例えば、相手と考えが合わないとします。サッカーで言えば、「なんで今パスしてくれなかったんだよ」という状況です。そうやって責め続けると、相手の心は0.9になってしまいます。
こういう時は、気持ちをコントロールすることが大切です。起こったことを受け留めて、わずか0.1で良いから、ポジティブに相手に接することでチームを元気にすることができます。
「自ら考えて動ける」力は、チームによって育つ
ここでいう価値基準とは、ロジカルな判断基準のことを言っているのではありません。チームにとっての「価値」を明確に共有できているかということです。すなわち、「私たちは何のために勝とうとしているのか」という目的をお互いに共有できていれば、行動にぶれがありません。
チームで仕事をしていれば、意見が異なるのは当然です。
それをチャンスにできるかどうか。「どうせ分かってくれない」とか「いや、それは間違っている」という風に、みんなが0.9になってしまったら、チームは崩壊してしまいます。
0.1を足すか、引くかは自分の選択次第です。
メンバー全員が、葛藤しながらも0.1を足せるようなリーダーシップを発揮できるチームは間違いなく強いでしょう。
そして、そのようなリーダシップは、個人で動いている限りは発揮されようがありません。一見、矛盾するようですが、「自ら考えて動ける」力は、チームによって育つのではないか、そんなことを考えさせられる1冊でした。