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フィードバックはギフトといわれるが、センスがなければ迷惑だという話

フィードバックはギフトである(feedback is a gift)」という言葉があります。ウォーレン・バフェットも“誠実さは高価な贈り物であり、ケチな人には期待してはいけない”と述べているように、誠実にあなたに向き合ってくれているものを大切に受け取りなさい、と言う言説は確からしいものを感じます。フィードバックは重要な機会であるから伝えよう、という記事も目にするようになりました。

でも、フィードバックって嫌じゃないですか?

フィードバックが成長に繋がるのはわかります。わかっていても他人から改善を求めるフィードバックを伝えられると少しモヤモヤします。

実は、私もフィードバックのやり方にセンスがなくて、デリカシーなく傷つけてしまったり、メンタル的にきつい思いをさせてしまったことがあります。

余裕がないときに課題を指摘されると気持ちが乱れてしまったり、ダメだと指摘されてもどうやって改善したら良いのか打ち手が見えないとネガティブな感情だけが残ってしまうこともあります。これではパフォーマンスは上がりませんし、改善もできないのでむしろ害悪だと感じてしまいます。

私はそう感じてしまうことが多かったので、心理的リアクタンスを避けるために「自分からフィードバックを求めにいく」ようにしています。上司に対して「自分のパフォーマンスは期待に応えられていますか?」「(特定のテーマ)を向上させたいと思っていますが、課題はどこにありますか?」など聞きに行けば、厳しいフィードバックを前向きに受け止められるようになるのでおすすめです。

とはいえ、外部からのフィードバックを「嫌だ」と切り捨ててしまっては身もふたもないですし、仕事柄、マネージャー陣にメンバーへフィードバックをするように求めているわけですから、フィードバックをギフト化する方法について考えていきましょう。

嫌ではないフィードバック

今までの経験をふり返ってみると、抵抗なく受け止められたフィードバックもありましたし、成長に繋がった機会もありました。このような嫌ではないフィードバックをくれる人は、概ね一貫したフィードバックの伝え方を実践していたと感じます。

そうした上司や同僚は、思い返してみると人間的に尊敬や信頼ができる人であったり、こちらを向上させたいという意図が見える人たちでした。

このような良いフィードバックを送ってくれる人たちのことを、ここではフィードバックを送る「センス」がある人たちであると捉えてみましょう。

ここでいう「センス」とは、知識や感覚、体験の積み重ねによって状況を適切に判断したり、勘所を抑える能力を表しています。生まれながらの性質だけではなく、後天的に身につけられるものと捉えています。こうした「フィードバックのセンスとは何か」を掘り下げてみたいと思います。

1. フィードバックのセンスが問われる場面

まず、フィードバックのプロセスをイメージしてみると3つの「センス」が問われるシーンが思い浮かびます。

  1. フィードバック事項が発生したタイミング

  2. フィードバックのシチュエーションを決めるタイミング

  3. フィードバックを伝えているタイミング

まずは、フィードバックすべき事項が発生したタイミングです。この時にフィードバックがどういった性質のものなのか「分類」を見極め、「適切なフィードバックの取り扱い方を選べるか」にひとつめのセンスが問われます。

続いて、フィードバックを送るシチュエーションを決めるタイミングです。相手がフィードバック内容を狙い通りに受け止めてもらえるような「シチュエーションを用意できるか」にふたつめのセンスが見出せます。

最後は、フィードバックを実際に伝えている最中です。フィードバックの伝え方を工夫することによって、同じ改善要望であっても影響が変化します。「狙い通りに相手を動かすための表現方法を用いられるか」という最後のセンスが垣間見えます。

それぞれについて掘り下げてみてみましょう。

2. フィードバック事項が発生したタイミング

フィードバックのセンスがある人は、フィードバックの性質によって「分類」を見極めて以下のような適切な取り扱い方を選択しています。

  • 誉めるフィードバック

    • 即時、多くの人に見える形で、大げさに、些細なことでも

  • 向上させるためのフィードバック

    • 1対1、相手のやる気を削がないように、期待を込めて

  • 逸脱行為に対するフィードバック

    • 即時、公式フォーマットで、厳格に、絶対に記録に残す

  • 感情的なフィードバック

    • 黙っておく

2.1 誉めるフィードバック

賞賛したり感謝を伝えるフィードバックは、送るべきだと感じた直後に送りましょう。

ビロンギング(居場所感)を生み出すためには、何度も賞賛をうけるという「頻度」が重要です。もったいぶって賞賛や感謝を控えるのではなく、できるだけ職場に賞賛や感謝があふれている状況を目指すべきです。

ですから、賞賛や感謝は即時に、多くの人が目にする場所で、大げさなくらい状況や感情を説明しながら、そして些細なことでも伝えるという扱いをするべきフィードバックです。

2.2 向上させるためのフィードバック

相手の「もったいない部分を修正したい」「より向上させたい」というフィードバックは、4つのフィードバックの中で扱いが難しく、最もセンスが問われます。この種類のフィードバックこそ「ギフト」とするべき性質のものです。

ポジティブな意図が含まれているのに、途中から相手の問題点を指摘することに集中してしまったり、相手側がうまく受け取れずに辛くなってしまったりします。「相手のやる気を引き出せなければ失敗である」という心構えで扱うべきフィードバックです。

このnoteで「センス」が必要だと述べているのは、主に向上させるためのフィードバックを活用できるようにするためであり、これ以降の説明でも向上させるためのフィードバックに関する内容を中心的に説明するつもりです。

2.3 逸脱行為に対するフィードバック

無断欠勤やセキュリティ違反、犯罪といった逸脱行為に対するフィードバックは厳密に対処しなければなりません。

就業規則に則った形式で、正式な文書として通達し、記録に残す必要があります。こうした行為に関しては、相手を配慮して曖昧な表現を用いたり、察してくれるように扱ってはなりません。

2.4 感情的なフィードバック

相手を向上させる必要もなく、就業規則にも反していない行為に対するフィードバック。つまり、自分の好みとは違うものに対しては黙っておきましょう。目の前でそうした行為を見つけたら、目で語るに留めておきます。

相手と関係性を深めるうえで、その行為を容認できない場合には、相手にその意図を伝えて向上させるためのフィードバックとして扱うのが良いでしょう。

以上のように、フィードバック事項が発生した時に適切に分類して対応できるのがひとつめのセンスです。

2.5 分類して適切に扱うセンスを磨く

よくあるセンスのないケースが「向上させるためのフィードバック」をひたすら冷たく伝えてしまうパターンです。また、「逸脱行為に対するフィードバック」を曖昧に伝えてしまうケースもよく見かけます。

「適切なフィードバックの取り扱い方を選べるか」を意識することでこのタイミングのセンスを磨くことができるはずです。

3. フィードバックのシチュエーションを決めるタイミング

あなたが体調不良で寝込んでいたり、家族が病の淵で苦しんでいるときに「もっと気合を入れて頑張れ」とフィードバックされたらどう感じるでしょう。または、明日までの締め切りに間に合わせるために必死で追い込んでいる時に、フィードバックをされても受け止められるでしょうか。

向上を求めるフィードバックは、一般的には受け取った側に努力を強いることになります。ですから、受け止める側が精神的・工数的に余裕がなくては前向きに取り組むことが困難です。

3.1 シチュエーションを用意する

センスがある人は、相手にフィードバックを受け止めるだけのシチュエーションを整えてあげることができます。
相手に余裕がなければ受け止める余裕ができるまで待ちますし、相手がフィードバックに向き合う心構えができていないのであればフィードバックに向き合えるようにマインドセットを整えます。

具体的な方法としては、シンプルに「あなたがより良くなるために努力してほしいことがあるのだが、あなたは今それを伝えてほしいだろうか?」と尋ねます。その時に余裕がないようであれば時期を改めて再度聞いてみましょう。
大抵の場合は、少しくらい忙しくても教えてほしいと答えるはずです。多少の労力よりも「自分についてどう思っているのか知りたい」という好奇心は止められないものだからです。
そうして自分から改善点を教えてほしいと言った瞬間に、フィードバックは「与えられるもの」から自分主導で「求めるもの」に変わります。受ける側が選択の自律性を獲得するのです。

3.2 フィードバックを求めさせるセンスを磨く

センスがある人は、このようにフィードバックを「押し付けるもの」から「欲しがるもの」に変えることができます。相手がフィードバックに関心を示す「シチュエーションを用意できるか」を意識して取り組んでみましょう。

4. フィードバックを伝えているタイミング

フィードバックを実際に伝えている最中、センスのある人は相手がフィードバックを前向きに受け取れるように表現を工夫しています。相手の感情を想定して表現を工夫することによって、相手に影響力を及ぼすことができるようになります。

4.1 感情によって受け取る価値が変化する

受け取った側がフィードバックに価値を見いだすかは感情によって左右されます。どういうことかを見ていきましょう。

例として、同僚が旅行に行ってご当地キットカットをお土産に買ってきたとします。次のどちらのキットカットに価値を感じるでしょうか。

  1. 休憩ブースに「自由にお取りください」とキットカットが置いてある

  2. 「旅先であなたが好きだと言っていたフレーバーを見つけたので買ってきました」と手渡しでキットカットを渡してくれる

キットカットの味や値段は変わらないのに、後者のほうが価値があり美味しそうに感じませんか。好きな人から貰ったものや特別感を感じるものなど、私たちは感情的な意味付けによって受け取るものの価値を変化させます。

感じる価値 = そのものの価値 + 感情的な意味付け

4.2 向上を求めるフィードバックそのものはマイナス価値

向上を求めるフィードバックは、送る側としては良かれと思って送っています。その一方で、受け取る側としては「あなたには問題がある」という指摘と「努力をしなさい」という要求をされるわけですから、ベースとしてはネガティブな感情にしかつながりません。

それを理解せずに問題点を次々と指摘して、相手のためだと厳しく振舞ったとしたら、ネガティブ感情が重なって、ギフトとして受け取ってもらうことは困難になってしまうでしょう。

つまり、ギフト化するためには「感情的な意味付け」によって、そのネガティブな感情を上回るポジティブな感情にシフトさせる必要があります。トータルの感情が相手にとってポジティブになるかネガティブになるかによって、成長機会となるかストレッサーになるかが決定します。

たまに、どんなに厳しい指摘であっても喜ぶラーニングモンスターのような人も存在しますが、その人の中では「指摘はすべて成長機会である」というマインドセットができているため感情的な意味付けを自分で補完しているのです。

4.3 感情的な意味付けで意識すること

「あなたには問題がある」と指摘されることでネガティブな感情がなぜ引き起こされるのか考えてみましょう。

「問題点がある」「能力が低い」という言説を認めることは、組織内での自分の立場を危うくします。所属している組織内から排他されたり、立場が危うくなる可能性を感じると攻撃的・逃避的になったり、フリーズしてしまうという説があります。

ビロンギングの醸成や賞賛のカルチャーが大事だと述べているのも、社会的に安全だと感じてもらうためです。立場が危ういと感じている状況では失点を避けるためにリスクを取ることを避け、隠蔽や逃避に繋がります。自分の居場所が存在している安全な場所だと感じていれば、健全なフィードバックを受け止める余裕が生まれます。

こうした観点で感情的な意味付けを読み解いてみると「組織内での評判」という視点が重要であることがわかります。

「このスキルを身につけて業務をこなせる様になったら、評価を上げる or 昇格させる」と言われたら、能力を高めるために努力すること自体は変わらないのにネガティブな感情は持ちづらいはずです(その組織に帰属することを望まないのであれば話は変わってくるでしょうが)。

つまり、感情的な意味付けにおいて重要なことは、「組織内での立場を危うくするものではない」し、改善することでむしろ「立場を強化させるもの」であるというメッセージに転換させることでしょう。

センスのある人が実行している具体的なフィードバックでは「私たちは素晴らしいチームを目指していて、あなたもその高い水準を達成できる人材だと信じているので、期待しているから伝えるのだが…」とか「あなたのような優秀な人が気づいていないとは思えないので時間の問題だとは思うが、より高いレベルに挑戦できると考えて伝えるのだが…」といった「信頼している+より向上させたい」というメッセージを発信しています。

また、こうしたメッセージを伝える際にはふるまいも重要です。人はメッセージだけではなく、声のトーンや表情、態度などから感情的な意味付けを読み取ります。口では期待していると言いながら滅茶苦茶厳しい表情をしていたり、薄ら笑いを浮かべながら「そんなに重くとらえなくてもいいんだけどね」といった曖昧な態度では異なるメッセージが伝わってしまいます。誠実に、真摯に本気で改善したいという感情を伝えましょう。

最後に、よく言われる内容ですがフィードバックは具体的な事実に基づいて伝えることで改善しやすくなるなど、曖昧な内容にならないよう注意しましょう。「なんとなく悪い」と言われても誰も改善できません。

4.4 フィードバックを受け取ってもらうセンスを磨く

センスのある人は、ネガティブなメッセージをポジティブに転換することができます。改善を求めるフィードバックは、口に苦い良薬のようなものです。工夫をして「前向きにフィードバックを受け取ってもらう」ように意識しましょう。

まとめ

ここまでフィードバックをギフト化するセンスについて説明してきました。
フィードバックのセンスは、以下の3つのポイントを磨き込むことで向上させることが可能です。

  1. フィードバックを分類して適切に扱う

  2. フィードバックに適したシチュエーションを用意する

  3. フィードバックをポジティブに受け取らせる

よろしければぜひ試してみてください。フィードバックに悩む誰かのお役に立てば幸いです。

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