「家族介護者の方へ」⑥「いつまで続くか分からない介護生活のため、希望が持てない虚無期」
いつも、このnoteを読んでくださっている方は、ありがとうございます。おかげで、こうして記事を、書き続けることができています。
初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
私は、臨床心理士/公認心理師の越智誠(おちまこと)と申します。
「家族介護者の方へ」
このnoteでは、これまでの介護者だった私自身の経験や、心理の専門家として見聞きしてきたこと、学んだ事なども統合して、できるだけ一般的な事として、伝えることができれば、と考えて書いてきました。
さらに、家族介護者の当事者というよりは、どちらかといえば、支援者や介護者の助けになりたいと考えている周囲の方々向けを意識してきました。
それは、実際に介護をされている方々は、とても大変な毎日を送っていらっしゃるのは間違いないので、こうしたnoteの記事を読んでいる時間や余裕がないかもしれない、と思っていたからでした。
ただ、実際にnoteを始めてみて、読んでくださるのは、当初に想定していた介護の専門家の方々もいらっしゃっるのですが、それと並んで、実際に今も介護をされている方々が読んでくださり、コメントをいただいたりすることに、気がつきました。とてもありがたいことでした。
家族介護者には、こうしたnoteの記事を読むような時間も余力もないのではないか、という私自身の想定が間違っていたのが分かりました。こんな言い訳のようなことを書いて、失礼で申し訳ないのですが、やはり、実際に家族介護者の方へ直接伝える意識を持った記事も必要だと思うようになりました。
これまでの記事と重複することも少なくないとは思うのですが、「介護の段階」によって、少しでも役に立つような記事を書いていこうと思っています。この「家族介護者の方へ」を新しいシリーズとして始めたいと思いました。
6回目は、「いつまで続くか分からない介護生活のため、希望が持てない虚無期」です。
さまざまな混乱や危機を乗り越え、現在も介護を続けていて、だけど、他のことには何の気力もわかず、気持ちがふさぎがちな介護者の方向けの記事になるか、と思います。
いつまで続くか分からない
介護が突然始まり、そして、その混乱で非常に強いストレスを受けながらも、なんとか少しずつ介護生活に適応し、その日常に慣れてきたといえる頃に、再び、試練ともいえる時期がやってきます。
それは、こんなふうに短くまとめられるようなことでもなく、それこそ、殺したいや、死にたいと言った時期を、やっとの思いで、乗り越えた時になるかもしれません。
今回は、それから先、介護生活へある程度の経験を積んで、おそらく周囲からは、介護に慣れた家族介護者として見られるようになった時のことになります。
最初の混乱期を抜け、その後の危機期もさまざまな助けやご自身の努力によってなんとか通り抜けることができたとしても、その後も、介護者にとっては、介護負担が続くことになります。
「この介護がいつまで続くのか分からない」
そのことが、どれだけ介護を重ねても、慣れることのできない負担感と言われています。
強制収容所
誰もがいつ終るかを知らなかったからです。それが、ひょっとすると、強制収容所のなかで一番気分がふさぐ事実の一つでさえあったかもしれないというのが、仲間たちの一致した証言です。
心理学者であるフランクルが、ナチスによって強制収容所に入れられ、その経験をもとに書いたのが「夜と霧」ですが、そのフランクルが、「一番気分がふさぐ事実の一つ」として、「いつ終わるか知らないこと」をあげています。
介護のことと、この強制収容所のことは、もちろん同じではありませんが、このフランクルの言葉にあるように「いつ終わるか分からない大変さ」というものは、人間にとって、最も辛い状況であるのは間違いないと思います。
ですから、今、介護を続けていて、気持ちがふさいでいたとしても、希望が持てないとしても、それは、介護をしている状況が過酷なだけで、その反応は自然だと思います。
介護うつ
介護者が、気持ちがふさいでいると、すぐに「介護うつ」という言葉が飛んできそうですし、例えば、心理検査で抑うつかどうかを検査すれば、抑うつ傾向が強い、という結果が出そうです。
ただ、いつも、介護うつ(この言葉自体も専門用語としては正式ではないのですが)という言葉を聞くたびに疑問だったのは、「いつまで続くか分からない介護生活」の年月を過ごしているのであれば、それは人の気持ちに最も負担をかけるのは間違いないので、それだけで、抑うつ傾向が強くなって当然ではないだろうか、ということです。
今の、家族介護者を支える社会資本が、それほど整っていない状況では、「いつまで続くか分からない」介護生活を、それもある程度の期間、過ごしていれば、介護うつと言われるような状態になる方が、普通ではないか、とも思います。
もちろん、「死にたい」という気持ちが強い場合は、本当にうつの可能性もあるので、電話相談をしたり、精神科医に診察を受けることを考えてみたほうがいいと思います。
(そうした場合、カウンセリングをご希望の場合は、臨床心理士を探してみるのも一つの方法だと思います)。
ただ、「死にたい」ということまではいかず、気持ちがふさいだり、希望も持てず、もしくは何の気力も持てずに、先のことも考えられず、それでも介護を続けているとすれば、それは、自然なことですし、というよりは、誰もができるわけではない、とても大変ですが、尊い行為だと思います。
ですので、もしも、介護は続けられていても、他のことは一切できず、やる気力もなく、気持ちが沈んでいたとしても、それで、自分がダメだと思ったり、なんとかしなくちゃ、と自分を責めたりすることだけは、できたら、避けていただきたいと考えています。
今の虚無期とも言えそうな時期も、それは介護を続けてきた方なら、おそらくは誰もが通る場所と言ってもいいですし、その生活を続けているだけで、私はすごいことだと思っています。
休養を増やす
介護以外は何もしていない。他のことをやる気力もない。時々、介護をやめたくなるけれど、もしこの状態で放り出すように辞めたら、もっと後悔しそうだから、それもできそうもない。そして、このいつまで続くか分からない生活を、ただ続けている。
つらいけれど、つらさもあまり感じないような気がする。
そんな虚無期を過ごしていたとしたら、まずは、そんなご自分を責めずに、今、できる範囲で構いませんので、意識して休養する時間を、少しでも増やしてもらえないでしょうか。
もし可能であれば、デイサービスやショートステイの利用によって、物理的に、少しでも介護をする時間を減らすだけでも、変わってくると思います。こうした変化に対して、すぐに休養が増やせるわけではないかもしれませんが、しばらくその変化が続くと、心身の緊張が緩んで、少し休養できるようになると思います。
そうした生活の変化が無理であれば、今より5分でも10分でも、細切れでも構わないので、少しでも睡眠を取ったり、横になる時間を増やすのは、どうでしょうか。
そんな小さい変化でも、少しでも負担や負担感を減らすのに、意味があるように思っています。
もしくは、気持ちを少しでも、やわらげる方法を、いくつかあげています。もし、よろしかったら、試してみるのは、いかがでしょうか。
介護とは違うことを考える
ずっと介護のことだけを考え、介護だけをしてきたかもしれません。それで、24時間・365日を過ごされているかもしれません。
他のことも考える余裕もないかもしれませんが、もしも、この生活の中で、ふと「このままでいいのだろうか」と思うような時がありましたら、介護以外で、何か、今の生活でできることを、(ほんの数分でも)考えるだけでも違うかもしれません。
(この記事も参考になるかと思います)。
もしくは、「このままでいいのだろうか」といった思考ができるのは、わずかな余裕ができたのではないか、と自分の力に対して、少し自分自身をほめてもいいのではないか、とも思います。
小さな変化
ほとんどすべての気力がなくなったような気がして、それでも、介護を続けている現在の生活が続いて、今はすっかり慣れてしまったようにも思えるのに、いつもと違う小さな変化に、自分が思った以上にイラッとしたり、場合によっては、意外なほど強い怒りが出てしまうこともあるかもしれません。
介護者として、ぎりぎりの状態で毎日を過ごしていて、だから、全く同じとは言いませんが、ほぼルーティーンのようになっている状況は乗り切ることができたとしても、そこに、本当にささいに見える小さな変化があったとしても、それは、思った以上の負担感になり得ます。
その出来事に対して、怒りが出たとしたら、自分自身の心を守るための反射的な反応と考えたほうがいいような気がします。
自分で考えても、ここまで介護生活を継続してきたのに、小さな変化で、こんなに怒るなんて、と思うよりは、それだけ大変な状況が続いているからこそ、そのささいに変わることが、もしかしたら、気持ちが折れるほどの負担になることもあり得ます。
ややくどくなり申し訳ないのですが、そんな怒りが出て、こんなに介護を続けているのに、自分はまだダメだと思うよりも、それだけ大変な日々は続いていて、負担が減ることはない、だから怒ることもある、といった考えをした方がいいように思うのですが、どうでしょうか。
それから、介護負担感を少しでも減らす工夫をしていただければ、幸いです。
今回は、以上です。
次回は、「⑦介護の終わりが不意に見えて、焦りに突き動かされる時期」の予定です。
(他にも、いろいろと介護のことを書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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