家族介護者の支援について、改めて考える③「家族会」と、「個別支援」。
初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
私は、1999年に家族の介護を始め、いろいろなことが重なり、仕事もやめることになり、介護に専念する年月の中で、家族介護者には心理的な支援が必要ではないか、といったことを思うようになりました。
そのため、微力ながら、自分でも支援が少しでもできれば、と考え、介護を続けながら学校へ通い、臨床心理士の資格をとりました。その後、公認心理師の資格も取得しました。
いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
おかげで、こうして書き続けることが出来ています。
家族介護者の支援について、改めて考える
個人的なことですが、臨床心理士の世界で、介護者の心理的支援については、心理学の学会の大会での発表や、同業者の方々の勉強会でも、できる限り、伝えようとしてきました。
家族介護者への心理的なサポートが、この10年、社会に少しでも広がるように、自分なりに努力はしてきたのですが、それがなかなか広がっていかず、自分の力不足もありながらも、無力感に襲われたことを書いたのが、第1回目の記事でした。
それは、お恥ずかしいことでもあるのですが、それでも、「家族介護者への個別な心理的支援」の必要性については、これまでの繰り返しになるのかもしれませんが、改めて伝えた方がいいのでは、と思うようになりました。
それも、家族介護者支援の「先人」である「家族会」や、「認知症カフェ」や「地域包括支援センター」と、何が違って、どのように個別支援が必要なのか?といったことを再考していこうと思っています。
今回は、主に「家族会」と、「個別支援」のことを考えていきたいと思います。
「認知症カフェ」に関しては、次回「家族介護者の支援について、改めて考える④」で、触れたいと思います。
さらには、「家族介護者の支援について、改めて考える⑤」では、個別で心理的な支援は、具体的に、どのようなことをするのか?を、再考しようと思っています。
(④や、⑤については、投稿の具体的な日程はまだ決まっていません。投稿した時には、ここにもリンクいたします。すみませんが、よろしくお願いいたします)。
「家族会」の必要性
家族介護者の支援の話をして、個別で心理的な支援の必要性の話題になると、支援の専門家の中には、家族会があるから、それで大丈夫ではないでしょうか。といったことを言われることが、何度もありました。
確かに「家族会」という「セルフヘルプグループ」の重要性は疑っていません。
特に、介護の段階や環境が似ている方々が集まり、その上で、お互いに尊重できる「セルフヘルプグループ」としての「家族会」になっていれば、それは、介護者にとっては、これ以上ない「理解してくれる居場所」になると思います。
そのことで、率直に自分の思いを伝え、場合によっては吐き出しても、受け止めてくれる人たちがいる場所があれば、本当に家族介護者にとって力になるのは、間違いありません。
私自身も、緩やかな「家族会」のような「セルフヘルプグループ」(自助グループ)のおかげで、特に厳しい時期も、なんとか乗り切れたので、その存在の重要性と、かけがえのなさは、少しは分かっているつもりです。
それは、母親が入院していた病院で、患者さんに渡す誕生日カードを毎月制作するボランティアでした。私と同じように、家族が入院しているご家族ばかりがボランティアをしていたので、他ではしなくてはいけない気遣いも必要ありませんでした。
そこでは、作業が中心であったので、返って、正直に話ができやすかったですし、気持ちや状況も理解してもらえたので、気持ちが楽になり、支えてもらった、という意識はあり、いまだにありがたい思いもあります。
個別支援の必要性について再考する
ここまで述べてきたように、「家族会」は、とても重要ですが、同時に、家族介護者への個別で心理的なサポート(私が行ってきたような「家族のための介護相談」)も、やはり重要で必要だと思っています。
それは、具体的な経験から感じていることでもあるのですが、どうして個別なサポートが必要なのか、今回は、介護者の人口を含めて、改めて考えていきたいと思います。
おそらくは、介護の支援の専門家向けになり、さらには、数字なども多くなり、読みにくく申し訳ないのですが、読んでくだされば、ありがたく思います。
家族介護者の人口
少し古いデータになりますが、平成30年度の内閣府の発表している統計から考えてみます。
介護保険制度における要介護又は要支援の認定を受けた人(以下「要介護者等」という。)は、平成27(2015)年度末で606.8万人となっており、平成15(2003)年度末(370.4万人)から236.4万人増加している。また、要介護者等は、第1号被保険者の17.9%を占めている
とても、単純すぎる計算になってしまいますが、介護が必要な人は、2015年で、約600万人です。現在の方が増えている可能性が高いですが、まずは600万人として、考えてみます。
要介護者等からみた主な介護者の続柄をみると、6割弱が同居している人が主な介護者となっている。その主な内訳をみると、配偶者が25.2%、子が21.8%、子の配偶者が9.7%となっている。また、性別については、男性が34.0%、女性が66.0%と女性が多くなっている。
要介護者の6割が同居している人が、そして「家族」が介護をしているようです。
(ここで、別居しながら介護をしている家族が10%強存在しているのに、同居でないということで、介護者としての負担が軽いと思われているとしたら、それも少し違うのかも、とは思いますが)
600万人の要介護者には、とても単純すぎる計算ですが、その6割の家族介護者がいると考えられます。そうであれば、360万人の「家族介護者」がいると考えてみます。
「家族会」の参加人数の推計
個人的なことになり、すみませんが、私が住んでいる東京都大田区には、介護者の家族会が、大田区の公式な印刷物によると、2021年現在は、18団体が活動しています。
ここから、もちろん推定に過ぎませんが、家族介護者で、「家族会」に参加している人が、どのくらいなのかを改めて考えてみようと思います。
たとえば、1団体に50人の家族介護者が参加しているとして(これは多めに見積もっていると思いますが)、大田区で、900人になります。
大田区の人口は、約73万人です。
日本の人口は、約1億2000万人です。
(完全に余談で、すみませんが、郷ひろみが、2億4000万の瞳、と歌っていましたが、まだ、その数字はあまり変わっていないようです)。
ここまでの数字から、単純すぎるかもしれませんが、日本全国で、どのくらいの方が、「家族会」に参加されているのかを、推計してみます。
73万:1億2000万=900:X
このXが、日本全国だと、何人が「家族会」に参加しているかという推定値になるのですが、約15万人(147945)になります。
全国の家族介護者数の推定値が、360万人でした。
もちろん、これは過去のデータを元にした、とても大雑把な数字です。ですが、この数字で計算したとしても、約345万人が、家族介護者でありながら、家族会に不参加、ということになります。
どちらにしても、現在の「家族会」の数を20倍以上、という非現実的な増大をさせないと、全部がカバーできません。
また、「認知症カフェ」は、大田区内では、24カ所になります。ここに1カ所50人とすると、1200人になり、家族会と合わせると、参加者は、2000人を数えます。
ただ、先程の計算式の900を、2000としても、日本全国でも、約33万人です。
家族介護者の推定値 360万人には、遥かに及びません。10倍の増大が必要です。
(※なお「認知症カフェ」については、次回、考えていきたいと思います)。
もちろん「家族会」や「認知症カフェ」の重要性は間違いないのですが、大雑把な推定とはいえ、家族介護者の人数を考えても、その支援方法だけに頼るのは難しいのではないか、と思っています。
「家族会」との適合性
私自身が、仕事もやめて、家族介護者として、ただ介護をしていた時に、この大田区の家族会のような組織があったとして、おそらくは参加していなかったと思います。
30代で介護を始めて、周囲には理解してくれる人がいなくて、辛い部分もありましたが、しばらくたつと、自分と同じような環境にいないと、話しても、返って説教に近いことを言われたり、と言ったことが続き、そのうちに、誰にも話したくないし、ほぼ誰にも会いたくないと思うようになりました。
それは、元々、あまり社交的でなかった、という自分の性格のせいもありますが、同じように介護をしていると言っても、男性で30代はほぼいなかったので、話が通じるとも思っていませんでした。
さらには、集団そのものが、介護を始める前から、苦手だったので、自分が気持ち的に追い詰められている時に、今まで知らない人ばかりがいる場所には、とても行こうとは思えませんでした。
誕生日カード作りのボランティアは、作業がメインだったので、参加しやすかったのですが、それがもしも「家族会」が前面に出されていたら、おそらくは参加しなかったのではないか、と想像します。
今でも、良し悪しではなく、向き不向きということで、似たような感覚の人も、少なくないと思います。
さらに、「介護の段階」が違っている場合には、こうした、まだ「これからが大変だから」、という善意のアドバイスもされることがないとはいえません。それは、誰も悪くはないのですが、そのことで傷つく人がいないとも限りません。
現在、家族会は、本当に重要な役割をしていて、数えきれない介護者を救っているのも事実だと思います。
家族会に参加し続けている方にとっては、その場所との相性がよく、本当に力になっているのは間違いありませんが、特に介護の専門家には、少し注意深く振り返れば、1度だけ参加されて、その後に参加されない方。どれだけ勧めても参加されない方もいらっしゃると思います。
そうした人の中には、個別的な支援が適している方々も少なくないと感じています。
個別的な支援の特徴
家族会は、定期的に開かれ、そこに向けての参加になり、その生活のリズム自体が、とてもプラスになると思います。ただ、個別支援の「相談窓口」が設置されていれば、家族介護者が必要な時に、必要なだけ利用することができます。
「家族会」の場合には、利用者の「介護の段階」について考える必要がかなりありますが、個別支援の場合には、相談員の方から合わせるので、どんな段階であっても利用が可能になるのでは、と思います。
また、私のように、集団が苦手な場合には、個別で静かに少しずつ話したり、といった方がスムーズにいく場合もあります。
さらには、とても厳しい介護状況の時には、元々、人に会ったりするのがしんどかったり、もしくは介護以外の時間は、とにかく体を休めたいと思ったりしているので、相談や支援につながるのが難しいのも事実ですが、個別で話ができるならば、と興味を持ってもらえる可能性もあります。もしくは、なかなか、難しいと思うのですが、個別支援であれば、訪問しての支援も考えられます。
「家族会」と、「個別支援」の両方があれば、対応できる幅が広くなりますし、元々、支援というもは、自助グループと、個別支援の両方が揃っている方が望ましいと思います。たとえば子育て支援であっても、「親の会」はありますが、当然のように個別の支援もあります。
家族介護者にも、個別支援は必要だし、これからも重要性が高まるのでは、と思います。
地域包括支援センター
「個別相談」であれば、現在でも「地域包括支援センター」が担っていただいている部分が大きいと思います。その重要性と、必要性については、それも疑う余地はありません。その相談によって、文字通り、救われた家族介護者も、とても膨大な人数になっていると思います。
それでも、「地域包括支援センター」の「個別相談」は、多くの場合は「介護相談」であり、話題の中心は、「これからの介護をどうしていくか?」だと思います。それは、とても重要ですが、「今の家族介護者が、どのようなことで悩んでいるのか?」ということに焦点を当てた「介護者相談」までカバーするのは、相談員の方の負担も増えますし、難しいと感じています。
もちろん、「地域包括支援センター」の「介護相談」は、とても重要ですが、それとともに、「家族介護者の心理」に焦点をあてた「家族介護者相談」も必要ではないか、と思い、こうした記事を書いています。
家族介護者への、「個別の心理的支援」の必要性について、そして「地域包括支援センター」での「介護相談」との役割の違いについては、今回だけでなく、「家族介護者の支援について、改めて考える」の④と⑤にわたって、説明を続けていこうと考えています。
(投稿時期は、未定ですみませんが、投稿した後に、ここにもリンクする予定です)。
今回は以上です。
いろいろと至らない点も多いかと思います。よろしければ、ご意見、疑問点などございましたら、コメント欄などでお伝えいただければ、ありがたく思います。
よろしくお願いいたします。
臨床心理士/公認心理師
越智 誠
(他にも介護について、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでくだされば、うれしいです)。
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