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「介護時間」の光景㉞「オーケストラ」。11.12.

   昔の話で、申し訳ないのですが、前半は、19年前の2001年11月12日の話です。先日の記事(リンクあり)から、12日後のことです。(後半に、2020年11月12日のことを書いています)。

   母親の介護を始めて、自分自身が心房細動の発作を起こしたこともあり、仕事をやめ、義母の介護も始まりつつあり、2000年に母親に、療養のための病院に入ってもらっていました(リンクあり)。その転院から1年がたった頃です。

    当時は、毎日のように病院に通っていました(リンクあり)。
 家から、電車を乗り継ぎ、バスに乗り、片道2時間をかけて、病院に通っていました。

 おそらく毎日、その日のこと、その日の気持ちを書いていました。


2001年11月12日。

『昨日の夜は午前2時半でも、バイクが吠えるようにうるさくて、気になって、眠れなかった。

 今日は、妻がバイトをしている花屋で花を買って、母の病院へ向かう。

 病院には午後4時30分頃に病院に着く。
 着ていたコートを置いたら、母がイスの背にかけてくれる。

 すでに部屋には、花があった。
 いつも、ここでお会いする患者さんのご家族にいただいたらしい。
 御礼を言いに行った。

 部屋に「百合」と書かれた、花の絵があって、テープの使い方が変だけど、それでも、壁に貼ってある。

 今日も、お風呂に入れてもらう時に、この前病院でおこなった運動会で「一等だったんだって、と言われたの」と、母は笑っている。

 廊下を母と歩く。
 壁に「思い出写真館」とあって、そこに入院している人たちの、みんなの昔の写真をコピーをして貼ってある。

 かなり昔の写真で、とても若い頃の写真は、わあって、笑っていられるけれど、わりと最近の写真、ほぼ外見では変わらないような写真は、こんなに普通だったんだ、と勝手に悲しくなるけれど、こんな風に思うのは、失礼だとは思う。

 この前、病院の運動会で、母と一緒に選手宣誓をした人の写真もあって、どうやら子供の結婚式の写真のようで、そんなに昔に見えなかった。
 看護婦長さんに「第2弾、3弾を予定していますので、よかったら」と、母に声をかけたら、「ありませんから」とすぐに母は答えている。

 部屋に戻ると、「今日は、みんなでトランプやったのよ」と、母は話してくれる。「ババ抜きをして、早く上がれたの」。そのあと、最後まで、ババがある人はあって、みたいなことを続けて、なぜか母は笑っている。

 夕食は、30分くらいで終わる。
 すぐにトイレへ行く。

 ここは4階で、3階に移った人の話もしていて、「〇〇さんも、大変ね」という言い方をしているが、たぶん細かいことはわかっていないとは思うけど、その人を、気にかけているのは、入院してから、ずっと近くの病室だったこともあると思う。

 病棟の遠いところから、この前の、ちょっと獣っぽいような声が、また響いている。
 男性の高齢者の患者さんは、にこにこしながら、特に女性患者の部屋を中心に見て回っているのだけど、病院のスタッフに注意されている。

 今日も、帰りたい、と小さめの声で静かに繰り返すメガネをかけた女性の患者さんがいる。

 母の病室で、テレビを見たりして、時間が穏やかに過ぎて、午後7時になって面会時間が終わって、病院を出る。

 もう吐く息も白くなっている』。


オーケストラ


 帰りの京浜東北線。乗り降りのドアをはさんで、どちらも座席の一番端に座っている中年男性がいて、2人が空間をあけて並ぶ形になっている。まったく無関係。

 突然、その2人が、同時に「ゴッホーン」と大きめのセキをして手をあてて、そして終わる。その声の大きさ、少し体を前へ動かした角度、手を当てる時や、動きが終わるタイミングが、ほぼ完全に一致していた。

 オーケストラみたい、と感じていたら、片方の中年男性の隣の若い女性が、さらにセキをすぐにつけたしていた。この人もまったくの他人のようなのに、音のつながりが出来ていた。

                         (2001年11月12日)


 それから、19年がたちました。
 今日は、2020年11月12日です。


 妻が近所に出かける時に、「たんすの上にクフェアと書いてある札があるから、とってきてくれる?」と言われて、何だか、よく分からなかったのですが、そこへ行ったら、確かに、そんな文字が書いてある札が置いてありました。

 妻には、最近、仲良くなったご近所の人がいて、あいさつもするようになり、その人の家の前を通った時に、庭に咲いている小さい可愛い花が気になったようです。ガクが普通の花と違って、ちょっとクインと曲がっていて、それも覚えているポイントの一つでしたが、その家の人は、毎年咲くのだけど、名前は知らないようでした。

 確か、その花の絵も描いた記憶が、妻にはあったので、その人に、名前が分かったら、札をさしてもいいですか、と確認をして、そして家に帰って調べたらやっぱり描いていたし、名前もわかって、その札を書いて、そして、持って行きました。あとで、私が、その前を通ったら、庭に小さい花が咲いている植物のところに「クフェア」と書いた札がさしてありました。

 妻の「植物活動」は、今までは、家の庭とか、自宅近くのイチョウ並木の根元に、生えている雑草を整えたり、気に入った雑草などを植え替えて、そこに名札を立てる、という「雑草の庭」を作るくらいでしたが、その活動範囲が広がっているようでした。

 他のご近所の家には、その実がブルーベリーに似ている植物があって、名前は「ヒメシャリンバイ」ということを、妻は確認して、何年か前に、すでに札を立てたようです。その札があることで、ブルーベリーと間違えやすい植物なので、正しい名称を伝えることができて、便利だと思っているようです。

 地味にすごい活動だと、私は思っています。



(他にも介護のことを、いろいろと書いています↓。読んでいただければ、うれしいです)。


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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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