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『「介護時間」の光景』(80)「赤」。10.29.

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。


 いつも、このnoteを読んでくださっている方は、ありがとうございます。おかげで、こうして記事を、書き続けることができています。

 この『「介護時間」の光景』シリーズは、介護をしていた時間に、どんなことを考えたのか?どんなものを見ていたのか?どんな気持ちでいたのか?を、お伝えしていこうと思っています。個人的な経験にすぎず、細切れの記録になってしまいますが、それでも家族介護の理解の一助になれば、と考えています。


 今回も昔の話で、申し訳ないのですが、前半は、2001年10月29日の話です。(後半に、2021年10月29日のことを書いています)。

 母親の介護を始めて、私自身も心臓発作を起こしたこともあり、仕事をやめ、義母の介護も始まりつつあり、母親に療養のための病院に入ってもらいました。その転院から1年がたった頃です。

2001年の頃

 自分が、母の病院に通っても、医学的にプラスかどうかは分かりませんでした。でも、通わなくなって、二度とコミュニケーションが取れなくなったままになったら、と思うと、怖さもあって、通い続けていたのが2001年の頃でした。


 2000年の入院当初は、それ以前の医療関係者にかなりの負担をかけられていたこともあり、1年経った頃も、まだ、うつむき加減で通い続けていました。周囲は、あまり見えていませんでした。

2001年10月29日

「病院に行って、疲れて帰ってきて、義母の介護をしていました。
 病院に行かない日は、家にいました。

 何かをしようとして、やたらと疲れていました。
 何かをしたという記憶はありません。ただ、義母の介護をしたりしていると、他の時間は、ぐったりしていて、だけど、あまり眠れないまま、時間が過ぎていました。

 何かあると、心臓に負担がかかるような気がして、ちょっと痛みがあるような気もしました。2000年に心房細動の発作を起こしたときは、胸の中で知らない生き物が不規則に暴れていて、それが体を破って出てきそうで、もう死ぬんだ、と冷静に思えました。

「過労死一歩手前です。もう少し無理すると死にますよ」と医師に言われたことを思い出し、ちょっと胸が痛いような気がすると、脈が乱れていないかどうかを、手首に指を当てて、確かめていました。

 毎日、心臓の薬と、発作が起こった時の脳梗塞を防ぐために血液をサラサラにする薬と、それらの薬の負担を柔らげるための胃の薬を一緒に飲んでいました。これから、ずっと一生飲み続けなくてはいけない、といったことを医師から言われていて、なんだか憂うつでした。

 こんなに何もしていないのに、時々、めまいがして、心臓が不安になりました。

 ただ、体重を減らせば、発作の確率は減るかもしれない、と言われていたので、少しずつ減量を始めていました。1ヶ月で、1キロ弱。本当に少しずつ減らそうと思い、何キロは減りましたが、そんなに減った感じはしませんでした。

 家にいても、しっかり休めた気もしなくて、気がついたら、夜になっていることが多かったように思います

 全く先のことが考えられませんでした。
 ただ、介護だけをしていたように思います」。


 深夜1時30分の部屋。
 さっき届いたファクシミリの紙が、ファックス兼用の電話機の上に少しカールしておおいかぶさっている。

 電気を消した暗い室内。

 留守番電話にセットしてある赤く丸い光が、紙を通してにじんでいる。

 紙に書いてある文字もうすく黒く浮かび上がっている。透け具合いも含めて、いい感じだと思う。

                    (2001年10月29日)


  この生活は2007年まで続き、母が病院で亡くなって、終わった。そのあとは、妻と一緒に、義母の在宅介護を続け、その合間に心理学の勉強を始め、大学院に通った後に、臨床心理士の資格をとることができた。家族介護者への相談の仕事も、始められた。その後、2018年には義母が急に亡くなり、介護生活は19年で終わる。体調を整えるのに時間がかかり、回復する頃にコロナ禍になった。もうすぐ介護後、3年がたとうとしていて、何もしていない焦りばかりが強くなっている。

2021年10月29日

 天気がいい。
 起きて、そろそろ、冬に使う布団類の洗濯を始めようと思って、洗濯機に入れた。

 夏の間に洗おうと思っていたのだけど、毎日、たくさん汗をかいて、大量のTシャツを洗い続けていたので、そんな余裕もなく、やっと秋の晴れた日に洗おうと思えるようになった。

 太陽がまぶしい。
 反射的に、ちょっと気持ちが良くなる。

 庭の柿の実は、気がついたら、色が濃くなっている。

アンダーカバー

 毎日のようにメールは来るけれど、その中に、気になるものがあった。

 コロナ禍になって、外出が減り、そういえば、家にいる時間が長くなり、着ている服を見ているのは、自分よりも、一緒に暮らしている妻だと気づく。

 だから、どんな色がいいのか?といったことを聞いて、普段の自分だったら選ばなくて、それで、最初から家で着るための服を買う、という習慣がついた。

 もちろん、そんなに高額なものは買えないけれど、「GU」や「ユニクロ」だと、そんなに高くないし、それまでだったら買わないような、ちょっと新鮮な色やデザインのものを、家で着るから、という理由で買えるようになった。

 そんな中で「アンダーカバー」という、自分には無縁だと思っていたブランドと「GU」とのコラボレーションがあると知って、今年、購入した。20年ほど前、介護している時間の中で、雑誌を読んでいるときに、短距離のトラックの室内練習場で、ファッションショーを行ったブランドがあると知った。何かかっこよく、制限のある状況を逆手に取ったように思え、先が真っ暗にしか思えない自分が少し救われたような気持ちになったのが「アンダーカバー」だった。(もし、記憶違いだったら、すみません)。

「GU」とのコラボレーションであっても、そのテイストみたいなものがあると感じ、色もデザインも、自分では二の足を踏んでしまうようなものもあったけれど、妻と相談して買って、図書館に行く時も、背中に大きめの顔のようなデザインがある青いパーカーを着て、自転車に乗れるようになった。

 いつもと違う服を着ると、少し気持ちも変わる。

注文

 そんな近い記憶がある上に、また「アンダーカバー」とのコラボレーションがある。今日から、販売開始。ということを知って、起きて、洗濯を始めてから、コンピューターの前で注文を始める。

 その中で、買おうとしていたブーツのサイズを再び確認し、妻とも相談し、やはり自分にとっては、細すぎるので、諦め、それでもブルゾンと、スウェットパンツと、ソックスを買えた。以前は、その日のうちに売り切れが続いていたが、焦りながらも、今回は間に合う。

 その後で、気づく。

 確か、バースデークーポン、というものがあったはずだった。
 500円のクーポンを使うのを忘れ、無理だと思いつつも、問い合わせをした。
 
 チャットでの自動回答というものを、初めて使う。
 
 あっさりした回答だった。当たり前だけど、注文後のクーポンは使えません。次回、注文時に使ってくださいといったことだった。

 キッパリとした回答だったけれど、自動回答だと思うと、あっさりと受け入れることもできた。

 次回のバースデークーポンは、来年になる。

 そのてんまつを妻に説明し、しょうがないよ、と言ってもらえる。

歯医者

 今日は月に1回の歯医者の日だった。

 生前は、義母の入れ歯も作ってもらっていた。途中までは、一緒に歯医者に行っていたが、受付の前に階段があり、立てなくなっていた義母を背負って、登っている姿を見てくれたせいもあり、そのうちに訪問で、治療や入れ歯の調整をしてくれた。食欲に直接関わってくることなので、とてもありがたかった。

 私も、妻も、同じ歯医者に今も通っている。

 行くたびに、歯の質の弱さを指摘され、まだ虫歯ができると言われ、治療をしてくれる。それでも、何年か前は、月に一度の治療を上回るように歯や歯茎が傷み、奥歯を抜くしかなくなった。

 歯が減ると、露骨に老いを感じる。
 それでも、これ以上、歯を減らしたくない気持ちもあり、月に一度は通い続けている。

焦りと不安

 介護が終われば時間ができる、と思ったけれど、コロナ禍になり、外出を控えるしかなくなった。

 妻が喘息の持病を持っているから、貯金を崩しながら、感染しないように生活を続けてきた。そのうちに、自分自身が歳をとってきたので、仕事を探したり、続けたりする際の条件は、だんだん厳しくなっているのは感じる。

 介護が終わって、気がついたら、思った以上に歳をとっていて、今度は、老いというものが、覆い被さるように、先を塞いでいるような気持ちになる。もちろん、老いるほど長生きできるのは、幸いなことではあるのだけど、これから先、病気になったり、自分に介護が必要になったりしたら、どうなるのだろう、とちょっとでも想像すると、かなり怖い。

 今週末には、選挙がある。

 家に届いた選挙公報を見て、投票のことや、裁判官の国民審査のことを、妻と色々と話をしたりもする。

 今日はいい天気だった。
 歯医者が終わり、買い物をして帰ってくる頃は、小学生の下校時間と重なった。

 もう夕方の気配が近づいている。

 日が暮れるのが、早くなった。



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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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