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『「介護時間」の光景』(177)「花火」。10.12.

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。おかげで書き続けることができています。

(この『「介護時間」の光景』を、いつも読んでくださってる方は、「2003年10月12日」から読んでいただければ、これまで読んで下さったこととの、繰り返しを避けられるかと思います)。

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。


「介護時間」の光景


 この『「介護時間」の光景』シリーズは、私自身が、介護をしていた時間に、どんなことを考えたのか?どんなものを見ていたのか?どんな気持ちでいたのか?を、お伝えしていこうと思っています。


 それは、とても個人的で、しかも断片的なことに過ぎませんが、それでも家族介護者の気持ちの理解の一助になるのではないかとも思っています。

 今回も、昔の話で申し訳ないのですが、前半は「2003年10月12日」のことです。終盤に、今日、「2023年10月12日」のことを書いています。

(※ この『「介護時間」の光景』シリーズでは、特に前半部分の過去の文章は、その時のメモと、その時の気持ちが書かれています。希望も出口も見えない状況で書いているので、実際に介護をされている方が読まれた場合には、気持ちが滅入ってしまう可能性もありますので、ご注意くだされば幸いです)

2003年の頃

 1999年から介護が始まり、2000年に、母は転院したのですが、私は、ただ病院に毎日のように通い、家に帰ってきてからは、妻と一緒に在宅で、義母の介護を続けていました。

 ただ、それ以前の病院といろいろあったせいで、うつむき加減で、なかなか、医療関係者を信じることができませんでした。それでも、3年がたつ頃には、この病院が、母を大事にしてくれているように感じ、少しずつ信頼が蓄積し、その上で、減額措置なども教えてもらい、かなり病院を信じるようになっていました。

 それでも、同じことの繰り返しの毎日のためか、周囲の違和感や小さな変化にかなり敏感だったような気がします。

 2003年の頃には、母親の症状も安定し、病院への信頼も増し、少し余裕が出てきた頃でした。これまで全く考えられなかった自分の未来のことも、ほんの少しだけ頭をよぎることがありました。

 それでも毎日のように、メモをとっていました。

2003年10月12日

『午後4時頃、病院に着く。
 みんなで集まり、テレビで録画されていた「おしん」を見ているようだった。

 行きのバスの中で、自分の暴力衝動のことについて考えた。
 時々、うわーッという気持ちになる。
 それは、うまく解消しないと危ない、と思う。

 今日は、病室の花をかえようと思って、花を買って行った。

 午後4時40分頃、レクリエーションというか、リハビリが終わって、母は病室へ戻ってくる。

 今日は、屋上に出て、みんなで歌も唄ったそうだ。
 楽しそうで、よかった。

 夕食は35分かかる。

 そばで、患者さんの一人が、難しい語り口で、患者さんの他の家族に、何かもっともらしいことを話し続けている。

 母は、別の女性の患者さんについて、話をしていた。

「月曜日に、院長先生の診察のとき、着替えるのよ。院長先生、かっこいいけどね」。

 そう言って、笑っていた。

 それから、運動会の話になり、「私はいつも準備係でね」と言いながらも、それでも、自分も運動会に、当然参加もしたそうだ。

 日曜日なので、夕食のあと、「ちびまる子ちゃん」と「サザエさん」を続けてみた。

 帰る間際に、急に、弟の話題になり、いつ来るのかしら?といった話になった。当分来る予定はないけれど、でも、そんなにはっきりは答えられないし、なんだか、あいまいな答えになってしまった。

 午後7時に病院を出る』。

花火

 午後7時に病院を出る。

 いつもと同じような夜なのに、少し遠くから、やけに大きい音が聞こえる。
 近くの大学で、花火を上げているらしいと分かったのは、もう少し歩いて、視界が開けてからだった。

 この季節の花火は珍しいけれど、やっぱりうれしい。

 知っていれば、屋上か、もしくは窓からでも、母に見せられたかもしれない、などと思った。

 色も音も空に広がる。

 それでも、10数分で、花火は終わった。

 終わったのが分かったのは、最後の花火から、しばらく経って、もう上がらないのが確認できたからだった。

                        (2003年10月12日)

 
 この生活は、まるで終わらないように続いたのだけど、その翌年、2004年に、母親の肝臓にガンが見つかった。
 手術をして、いったん落ち着いたものの、2005年には再発し、2007年には、母は病院で亡くなった。
 義母の在宅介護は続いていたが、臨床心理学の勉強を始め、2010年に大学院に入学し、2014年には臨床心理士の資格を取得し、その年に、介護者相談も始めることができた。

 2018年12月には、義母が103歳で亡くなり、19年間の介護生活も突然終わった。2019年には、公認心理師の資格も取得した。 
 昼夜逆転のリズムが少し修正できた頃、コロナ禍になった。


2023年10月12日

 昨日は、妻が少し遠いところまで出かけた。

 妻は、ぜんそくを持っているために、今も外出はかなり減らしていて、感染しないように気をつけているため、出かけるだけで、緊張感と不安が高まってしまうようで、こちらも心配だったのだけど、無事に出かけて、昔からの友人に会えて、楽しかった、といって帰ってきたので、ホッともしたし、私もうれしかった。

柿の木

 晴れると、まだ少し暑さが残っているのだけど、空気はすっかり秋の気配になってきている。

 洗濯をしようと思って、外へ出て、空がきれいで、などと思っていたら、まだ午前中なのに近所の高校から学生が帰路について、いろいろと話をしながら歩いていく。

 少し考えて、もしかしたら、今は中間テストのようなものがあって、それで、こうした不規則な時間での帰宅になっているのかも、などと思ったけれど、すぐにわからなかったのは、それだけ学生生活の記憶が遠くなったのかも、と思った。

 同時に、今も、定期テストが行われているとすれば、テストが「学ぶ」ということに対して、本当に有効なのか?という疑問はずっと言われているはずなのに、今も変わらず定期テストが続いているのは、やっぱりいいことばかりではないような気がする。

 上を見ると、柿の木の葉っぱが茂り、あれだけ枝などを伐採したのに、気がついたら、今年は無理だと思っていたのに、柿の実が大きくなり始め、青から少しずつ色づき始めているのが見える。

 天気の良さが、さわやか、という形容詞が似合うようになってきた。

ハチ

 玄関から外へ出ようとしたとき、妻が、やや切羽詰まった声で、ハチが、ということを言った。

 どうやら、すぐそばに、大きめのもしかしたら危険なハチがいるらしい。

 ハチ用の殺虫剤を持って、そっと引き戸を開けたら、すぐそばに飛んでいた。

 色がとても強く、3センチ以上はありそうで大きく、危険なのはわかった。スズメバチの一種なのは間違いない。

 緊張しながら、殺虫剤をむけて、散布する。怖さを感じながらも、何度も何度もレバーを押し続ける。この殺虫剤は、遠くまで届くので、危険なハチには特に有効だった。ただ、その圧力を高めるためには仕方ないのだろうけど、割とすぐになくなってしまうから、かなり生命力も高いので、足りなくなったら、怖いと思いながらも、何度も散布し、まだ飛び続けようとするハチにさらに殺虫剤を向け続け、そのうちに、ハチは庭の土の上で動かなくなった。

 そのままにしておけないので、動かなくなっても刺す、ということを聞いたこともあったので、申し訳ないけれど、慎重に処置させてもらった。

 この前も、こんなようなハチを妻が見たと言っていたから、妻が刺されなくてよかった、とは思った。

ワクチン

 人によっては、もう関係なくなってきているかもしれないが、私は、最近、新型コロナウイルスのワクチンを接種した。

 少しだるい感じがしたけれど、特に発熱したり、体調を崩すこともなく、過ごせている。

 妻がぜん息ということもあり、少しでも感染の可能性を減らしたり、重症化のリスクを減少させることには、とにかく取り組んでいこうと思っている。それは、「5類移行」後も、コロナ感染して重症化リスクがある人に対して医療体制が整った、という安心感がある状況になったように思えないので、何しろ、個人としては感染を気をつけるしかないからだ。

 そのためにはワクチンも接種するし、妻も、これからワクチンを接種する予約をしている。

 厚労省は「希望するすべての人が接種できるようにする」としているが、現時点でコロナワクチンの10月分の予約について、ほとんど埋まっている地域もあり、住民から「予約できない」との声が届いている自治体もある。

 今も、こうしてコロナ対策は十分に整っているように思えないから、これから寒くなって、感染が増大した時に、適切な医療を受けられないかもしれない、という恐怖心はふくらむ。
 
 いろいろあっても、季節は進んでいく。





(他にも介護のことをいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)




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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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