「家族介護者の方へ」⑤「介護の場所がかわる転換期」
いつも、このnoteを読んでくださっている方は、ありがとうございます。おかげで、こうして記事を、書き続けることができています。
初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
私は、臨床心理士/公認心理師の越智誠(おちまこと)と申します。
「家族介護者の方へ」
このnoteでは、これまでの介護者だった私自身の経験や、心理の専門家として見聞きしてきたこと、学んだ事なども統合して、できるだけ一般的な事として、伝えることができれば、と考えて書いてきました。
さらに、家族介護者の当事者というよりは、どちらかといえば、支援者や介護者の助けになりたいと考えている周囲の方々向けを意識してきました。
それは、実際に介護をされている方々は、とても大変な毎日を送っていらっしゃるのは間違いないので、こうしたnoteの記事を読んでいる時間や余裕がないかもしれない、と思っていたからでした。
ただ、実際にnoteを始めてみて、読んでくださるのは、当初に想定していた介護の専門家の方々もいらっしゃっるのですが、それと並んで、実際に今も介護をされている方々が読んでくださり、コメントをいただいたりすることに、気がつきました。とてもありがたいことでした。
家族介護者には、こうしたnoteの記事を読むような時間も余力もないのではないか、という私自身の想定が間違っていたのが分かりました。こんな言い訳のようなことを書いて、失礼で申し訳ないのですが、やはり、実際に家族介護者の方へ直接伝える意識を持った記事も必要だと思うようになりました。
これまでの記事と重複することも少なくないとは思うのですが、「介護の段階」によって、少しでも役に立つような記事を書いていこうと思っています。この「家族介護者の方へ」を新しいシリーズとして始めたいと思いました。
5回目は「介護の場所がかわる転換期」です。
よろしければ、ご自分に必要だと思う項目だけでも読んでいただければ、と思います。
今回は、基本的には、在宅介護から、施設もしくは病院に家族の方(要介護者)を預ける事になった介護者向けの記事になります。
申し訳ないのですが、これ以外の「介護の場所がかわる」パターンは、経験不足だったり、調査や研究不足で、詳細を語る資格がないと思いますので、今回は扱えません。申し訳ありません。
在宅介護
在宅介護は、基本的には介護を必要とするご家族の方(要介護者)が自宅に住みながら、同居、もしくは別居で、介護をするご家族(家族介護者)がいらっしゃる、といった状況だと思います。
もちろん細かい違いはあると考えてはいますし、乱暴に一緒に語ることも失礼とは思いますが、比較するものでもなく、どちらの家族介護者の負担や負担感も、かなり重く、そして継続するだけで大変だと思っています。
その年月の中で、あまりにも負担や負担感が大きくなりすぎると「危機期」となってしまい、家族介護者の心身にも限界が来るような状況になることもあり得ます。
それは、言葉で簡単に表現するのは申し訳ないとは思うのですが、介護者自身が「死にたい」と思ったり、本質的には憎しみではないのに、要介護者に対して「殺したい」などと思ってしまうような時期を「危機期」と呼べると思います。
この時期になると、選択肢の一つとして、場合によっては早急に候補に上がってくるのが、介護を受けている方(要介護者)に施設に入所してもらうか、場合によっては病院に入院してもらうか、という方法です。
そして、ご家族(要介護者)を、施設入所、もしくは病院へ入院してもらうことを決断し、実行された方も少なくないと思います。
施設入所・病院へ入院してもらったとき
もしも、一定期間以上、在宅介護をされていて、介護サービスも利用しながらの介護生活であれば、ケアマネージャーをはじめとして、様々な介護や医療の専門家との関係もあると思いますし、施設入所や入院に関しては、話もされていたはずです。
(もしも、介護サービスを利用されていない場合で、施設入所などを考えていらっしゃる方は、まずは、ご近所の「地域包括支援センター」にご相談に行かれると、対応してもらえると思います)。
その上で、在宅介護から、施設入所や入院へ、介護が必要とされている方(要介護者)を預け、介護をする場所を変えたわけですから、様々な葛藤も、もしくは実務的な作業の負担もあった上での決断であり、実行であったと思います。
こういう場所で分かったようなことを言うのは失礼だとも思うのですが、本当にお疲れ様でした。ここまで介護を継続されただけでも、それは他には代え難い、大げさではなく、尊いことだと思います。
さらに、こうした変化があって、その過程でも、葛藤を持ってしまうのが自然だと思います。そのことで、さらに疲れが増えてしまっても、仕方がないと思います。
ですので、在宅介護という介護負担や負担感が重すぎるといってもいい生活が一区切りついたとしても、しばらく疲労感が抜けなくても、それを前提としていただきたいというか、今まで緊張感が強いために気がつきにくかったご自分の疲労に、やっと心身で理解してきた状況ではないか、と思っていただけないでしょうか。
施設入所や入院などで、介護の場所が変わった直後から数ヶ月は、在宅介護が一区切りがついたのに、こんなに疲れていて情けない、とか、おかしい、というようなことを思ってしまい、もしかしたら、自分自身を責めてしまうかもしれませんが、そういう心身の状態であるのは、この「転換期」の家族介護者にとっては、どちらかと言えば「自然」だと考えていただければ、と思っています。
そう思うことで、少しでも疲労感が減るかもしれません。
自分を責める思い
在宅介護から、要介護者のご家族が施設入所、もしくは入院する事によって、生活が大きく変わったことは、周囲の方から見ても、とても分かりやすい変化のはずです。
そして、家族介護者の方を見守っていた人は、とても大変そうな在宅介護を心配してくださっていたかもしれず、だからこそ、「これで一安心ね」といった言葉をかけられる可能性もあります。
この言葉を発した方には、悪意もなく、それどころか気遣いがあるのだと思いますが、もしかしたら、こうした言葉を聞いて、割り切れない思いや、もやもやした気持ちになるかもしれません。
そうした言葉に対して「ありがとうございます」という答えをしながらも、なんとなく変な感じが残っている場合は、やや乱暴にいえば「一安心」していない、ということなのだと思います。
本当に、預けてよかったのだろうか。預けた先で、不自由ではないだろうか。家でみるべきではなかっただろうか。本当にもっと頑張れなかっただろうか。
あまり勝手に詮索するのは失礼ですが、そんな自分を責める気持ちがかなり強く、苦しく、そして、どうして辛いのかと自問する事によって、さらに気持ちが重くなる場合もあり得ます。
ただ、こうした自分を責める気持ちは、しばらく続く可能性もあります。
それは、もしかしたら数ヶ月以上、続くかもしれません。
介護に対して真剣に取り組んだ方ほど、預けた施設や病院が安心できる場所であったとしても、その自分を責めるような期間は、思ったよりも長くなるかもしれません。ただ、繰り返しで申し訳ないのですが、それは、人として自然なことだと思います。
変わらない気持ち
強めに自分を責める気持ちの時期が去った後に、もしかしたら、在宅介護の時とは違った意味での「不安」が続く時期が来る可能性があります。
気持ちのどこかで、濃淡はあるにしても、常にご家族(要介護者)のことが気になり続け、預けた先もプロなのは分かっていても、今までとは違う環境で、大丈夫だろうか。特に認知症であると、症状が悪くなっていないだろうか、といった恐怖心にも似た気持ちが競り上がり、膨らんで、それに耐えられなくなるように施設や病院に向かい、そして実際に、ご家族(要介護者)の顔を見て、それほど変わりがないことを見て、少しホッとする。
だけど、いったん帰宅すると、また不安や恐怖といっていい気持ちがふくらみ始め、それでたまらなくなって、また病院や施設へ「通って」しまう。頻度だけが問題ではないのですが、週に一度以上は、つい「通って」しまう。
そんな行動に対しては、私は「介護」行為だと思い、「通い介護」と名前をつけるようにしました。それは、私の発見ではなく、家族介護者の方々の行為と気持ちが教えてくれたものでした。
「通い介護」
施設や病院には、とても頻繁に通ってくる家族介護者と、預けたことで一区切りがついたと思われ、ほぼ通ってこない介護者と、かなりはっきりと分かれるのではないか、という体感がありました。
それは良し悪しではなく、それまでの介護や家族関係など、様々な要素が関わってくると思われるのですが、頻繁に通ってこられる方々は一定数いらっしゃって、そして、多く聞かれたのが「預けた後も、気持ちは楽にならなかった」という言葉でした。
ですので、もし、施設入所や病院への入院などで、「介護する場所がかわった」場合、周囲からは、「一安心」と見られたり、介護の専門家との関わりが少なくなったりする変化とは別に、介護者としての不安や怖さが、思った以上に強かったりすることはあり得ます。
私自身は、支援者として、この「転換期」は特に心理的な支援が必要だと考えていますし、その介入によって、介護者のメンタルヘルスの状況がかなり変わってくるとも思うのですが、現在、まだ、そこまでの理解は進んでいません。(これは、こうしたことを伝える私自身の力不足のせいもあります。すみません)。
ただ、この変化した状況に少し慣れて、周囲のことが見られるほど、少し余裕が出てくるまでに、体感としては2年ほどかかる、と考えています。
現在、ご家族(要介護者)の介護が、在宅介護から、施設入所や入院によって一区切りがついたはずなのに、気持ちが楽にならないと感じていらっしゃる方は、それは、ある意味では、自然なことだと考えていただければ、もしかしたら、少し楽になるかもしれません。
さらに、この「転換期」に、その独特の辛さを、今はまだ介護の専門家でも理解してもらえるのは難しいと思いますので、出来たら、同じような状況の方と話をされたり、もし、そういう方がいらっしゃらない時は、公的な電話相談などで、辛さを少しでも聞いてもらえると、わずかでも楽になるのではないかと思います。
そうした相談をするような工夫をされた場合は、「通い介護」に移行してから、周囲が見えるようになるまで、通常は2年ほどかかる期間が、おそらくはもう少し短縮されるのではないかとも思います。
体調管理について
さらに、介護環境が変わった「転換期」に、少し時間の余裕ができた場合には、やっていただきたいことがあります。
もしも、これまで介護の生活で余裕がなく、健康診断なども受けていない場合は、よろしかったら、この変化の時に受けてもらうのは、どうでしょうか。
自分自身の多少の体調の悪さのようなものに対して、やや鈍感になってしまうのが、家族介護者の特徴でもあると思うことも多いのですが、それは目の前の介護を必要とされる方(要介護者)が最優先になり、どうしても、自分のことは後回しになってしまう。そんな気持ちなのだと思います。
ですので、実は体調が悪くても、その事に気が付きにくくなっている可能性があるので、施設入所や入院によって、時間が少しでもできたら、健康診断、もしくは、少し調子が悪い時は病院に出向くのは、どうでしょうか。
そうすることで、自分の心身に意識を向けて、少しずつ自分も大事にする習慣がつけば、それもこれからの生活にプラスではないかと思います。
今回は以上です。
ところで、この「家族介護者の方へ」のシリーズも、5回を終えたのですが、どうしても「限られた状況の方向け」に、お伝えする事になってしまっているかもしれない、と感じています。
もし、「こんな介護状況で、悩んでいる」といったことがございましたら、コメント欄などで、お伝えいただければ、その事に対しても考えさせていただきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
次回は、「⑥いつまで続くか分からない介護生活のため、希望が持てない虚無期」の予定です。
(他にも、介護について、いろいろと書いています。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
#介護相談 #臨床心理士
#公認心理師 #家族介護者への心理的支援 #介護
#心理学 #いま私にできること #相談窓口
#家族介護者 #臨床心理学 #自己紹介