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「介護時間」の光景㉟「影」。11.20。

 いつも昔の話で申し訳ないのですが、5年前の話です。
 2015年11月20日のことです。(後半に、2020年11月20日のことを書いています)。

 私は1999年から介護を始め、仕事もやめ、介護に専念する生活に入りました。その時間の中で、家族介護者にこそ、心理的な支援が必要ではないかと思うようになり、臨床心理士になろうと思いました(リンクあり)。

 2007年に母を亡くし、義母の介護を続けながら、夜中の介護の合間に勉強をして、2013年に大学院を修了しましたが、その一年間は、本当に仕事がなくて、それでも2014年に臨床心理士の資格をとりました。

 同じ年、幸運なことに、家族介護者の相談の仕事を始めることができました。最初はただ必死だったのですが、仕事をすると、家族の心理的支援のための介護相談の必要性は、より感じるようになりました。

 それでも自分の力不足や、義母の介護を続けているために、日常的に疲れがたまっているせいもあり、月に1度か2度の仕事から、増えることも増やすこともできず、焦りを感じ、再び閉塞感を感じていたのが、2015年の頃でした。年末に、義母は満100歳になる年でした。

 その日の記録です。


2015年11月20日。

 起きたら、午後1時前だった。今日はケアマネージャーの人が来る日だから、掃除をしないといけないのに、遅くなった。

 午前11時半くらいに起きて、どうしようかと迷って、また寝たら、この時間になったと、後悔が走ったが、1階に降りて、掃除を始める。30分ほどで、終る。食事をして、妻が10分でも寝たいというので、一人で支度を始める。お茶の準備をする。皿を洗うのは途中になる。

 妻が起きてくる。チャイムが鳴る。いつも、ケアマネージャーの人は、義母にも優しく接してもらっているので、とてもありがたく、義母は急に「肌がきれいね」とほめ、そのあとに服装のこともほめる。

 義母は、耳が聞こえなくなって、もう随分と長くなり、少し込み入った話は筆記ボードを使っているが、こうした挨拶のような言葉は、普通に話しかける。義母なりの社交なのだろうけど、きれいな人が相手だとより愛想がよくなる。認知症とはっきりとは言われていないけど、認知症の薬を処方されてから、半年以上がたった。当初は、あれだけショックだった妻も、今の状態に慣れて来た。それでも、症状は止まっていないし、今の生活を変えられないし、だから、わたしも午前5時に眠る習慣が変えられない。

 それで、出来なくなることはとても多い。仕事の可能性とかも、それでものすごく狭くしているものの、この中で、どうするかは考えないといけない。そして、ケアマネージャーさんと話をして、義母のことになり、認知症の薬は肌にはるので、そこがかゆくなり、義母も医者に連れていけ、ととても何度も言うので、今日、連れていこうと思います、というと、そうですか、という答えがかえってくる。

 ケアマネージャーさんが帰ってから、義母にクルマ椅子に乗ってもらい、皮膚科に向かう。入り口の2段だけの階段がすごく高い。二人で、義母を、荷物を持つように抱えて、階段を上り、ドアをあけ、さらに一段あがって、スリッパをはかせたり、ソファーに座らせるだけで、本当に一仕事になる。待って、よばれて、皮膚科の医師にみてもらったら、ああ、これは保湿剤ではダメですね、といわれ、薬をもらった。義母が気にしていた、ほくろのこともみせたら、これはほくろではないですね。何とかが何とかで汗腺をふさいでできる、なんとかです。といわれ、ほぼ聞き取れなかったが、とるには手術が必要なことだけは分ったので、義母にそのことを伝える。時々、それでも、義母は、とりたがるので、コンシーラーで隠したほうがいいわよ、と義姉に言われたことを、妻が、ここでも伝えていた。

 いったん家に帰ってから、また出かけて、いろいろな用事を済ませてから、河川敷に走りに行った。



 久しぶりに近くの河川敷を走る。
 川向こうのビル群が、行ったこともないけど、マンハッタンみたいだ。
 午後5時半を過ぎると、もう暗い。
 野球部が、明るいサーチライトみたいなものを照らして、ピッチング練習をしている。
 土手を走っていると、その向こうの今は枝だけの桜並木の、春になれば桜が咲いているあたりに、人の影が走っている。
 ライトに照らされた自分の影だけど、枝の凹凸に合わせて、影が、奥に行ったり、手前に寄って来たりして、走っている。

                        (2015年11月20日)


 2018年の年末に義母は103歳で亡くなった。


 今日は、2020年11月20日。

 午後2時くらいから、雨が降るという天気予報を妻が教えてくれた。
 洗濯をして、いつもならば昼ごはんの前に干すのだけど、洗濯機に入れて、なるべく早めに干そうとして、午前10時30分過ぎくらいに、庭に面した場所に、洗濯物を干し始めた。

 今干してあるものは乾いているので、取り込む。この前、洗濯物に小ぶりだけど、スズメバチらしきハチがくっついていて、たたんでくれる妻に危険が及んだりもしたので、以前よりも取り込む時に、洗濯物をよくふるようになった。

 庭には、柿の葉っぱが散っていて、さらに散っている。柿の葉は、落葉する時には、どさっと音がしそうなほど、直線的に落ちてくる。

 妻は、柿の紅葉が、いろいろな色があって、ということに惹きつけられる日々が続いているようで、その葉っぱを集めて写真に撮るという「植物活動」(リンクあり)を、今日も続けている。

 柿の葉は赤くなり、庭に面した道のイチョウ並木も黄色くなってきた。その向こうに、まっすぐ続く狭い路地が見える。

 その路地を、こちらに向かって歩いてくる人影が、小さく見える。

 最初は2人だと思った。若い女性と、その親らしき女性が一緒に歩いてきて、若い女性の体の前に、何かが揺れていると思ったら、抱っこ紐で抱かれて、こちらを向いている小さい赤ちゃんだった。

 母親が歩くと、完全に脱力した小さい足が揺れる。

 こちらに歩いてきて、少し戻って、2人で止まる。

 そこには、近所の幼稚園がある。
 どうやら、そこを見ているようだった。

 歩くと、赤ちゃんの足が揺れる。

 その動きがなんだか面白くて、妻を呼んだら、あ、かわいいね、と言うとともに、あの人たち、さっきから、いるけど、と言った。

 幼稚園の様子を見にきたのかもしれない。

 しばらく幼稚園の園庭の場所で、二人で立ち止まって、見ながら、何か話しているのが見える。

 思ったよりも時間がたってから、さらにこちらに歩いてくる。
 小さい赤ちゃんは、男の子にも見るけれど、違うかもしれない。

 どちらか迷ったら、女の子と言ったほうがいい、というような世間のルールを思い出した。

 昨日と比べると、空は暗く、灰色で、本当にもうすぐ雨が降ってきそうだ。



(他にもいろいろと介護について書いています↓。読んでいただけると、うれしく思います)。


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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
 この記事を読んでくださり、ありがとうございました。もし、お役に立ったり、面白いと感じたりしたとき、よろしかったら、無理のない範囲でサポートをしていただければ、と思っています。この『家族介護者支援note』を書き続けるための力になります。  よろしくお願いいたします。

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