指導者と精神医学(6): カルト教団人民寺院の教祖"ジム・ジョーンズ"の精神医学的診断とカルトを見破る方法(後編)
【ジム・ジョーンズの診断 part 2】
このパートでは、ジム・ジョーンズの3つ目のパーソナリティ障害について、そしてもう一つほぼ確定的と言われる精神疾患について解説いたします。
3.妄想性パーソナリティ障害
妄想性パーソナリティ障害は他人から自分が迫害されると信じ込み疑い深く不信感を抱く傾向をもつ障害です。
小生が 以前「指導者と精神医学(2): アドルフ・ヒトラー(後編)」で紹介いたしましたが、独裁者や教祖はこの妄想性パーソナリティ障害の傾向を持つと言われております。果たしてジム・ジョーンズは、この障害に該当するのでしょうか?
基準Aにおいては7項目中少なくとも5項目が該当。しかし基準Bが該当するかは明確ではない。以上より、ジム・ジョーンズが「妄想性パーソナリティ障害」であった可能性はあるが、「反社会性パーソナリティ障害」「自己愛性パーソナリティ障害」ほどの確実なものではない。
4.薬物依存症 Drug addiction
前項の「妄想性パーソナリティ障害」の項目Bは確証がありません。その理由は、ジム・ジョーンズが薬物依存症であったからです。
ジム・ジョーンズは人民寺院をカリフォルニア州サンフランシスコに移設してから、習慣的に薬物を使用していたそうです。
使用薬物には鎮痛剤や向精神薬だけでなく、アンフェタミンなどの覚醒剤も含まれていました。
アンフェタミンはご存知のように使用すると幻覚や妄想が出現いたします。
このため、彼の妄想的な考えがアンフェタミンの作用によって生じた可能性があります。
余談にはなりますが、ジム・ジョーンズの指導のもと人民寺院は宗教儀式、洗脳、そして邪魔な人間(教団にとって都合の悪い人間)を抹殺するためにさまざまな薬物を使用しております。
特に人民寺院の名を世に知らしめた"革命的自殺"の際には前編でもご紹介したように、ブドウ味のフレーバーエイドと薬物の混合物を900人以上の信者に飲ませ殺害します。
この混合物はのちに「クールエイド(kool-aid)」と呼ばれますが、毒性の高いシアン化合物に加えジアゼパム、プロメタジン、抱水クロラールなど向精神薬が含まれておりました。
これまた余談ですが、米国のスラングで「クールエイドを飲む(Drinking the kool-aid)」は、「盲信する」「無批判に従う」という意味だそうです…。
↓市販のクールエイドはこんな感じの飲みのだそうです…。
【鹿冶の考察】
<カルト教祖とパーソナリティ障害>
以上のように現代の診断基準に照らし合わせると、ジム・ジョーンズが反社会性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害、妄想性パーソナリティ障害の3つのパーソナリティ障害であった可能性が高いと考えられます。
またパーソナリティ障害以外としては薬物依存による妄想状態が鑑別疾患として挙げられます。
ところで「3つもパーソナリティ障害の診断がつくことがあるのか?」と驚く方もいると思いますが、パーソナリティー障害は互いにしばしば併存するため、ジム・ジョーンズが複数のパーソナリティー障害を抱えていたと言うことはそれほど不思議なことではありません。
それに実は指導者とパーソナリティ障害は密接に関係すると言われております。
例えば反社会性パーソナリティ障害はいわゆる「サイコパス」に近い性格傾向であり、「軍人」「社長」など強いリーダーシップを要する職業の人にみられることがあります(場合によっては、非情な判断を要する立場なので…)。
また自己愛性パーソナリティ障害は指導者によっては必要条件ともいえます。
そもそもナルシズム(自己愛)、すなわち「自分大好き!」「俺、最高!」という強い自己肯定感がなければ、「俺について来い」なんてことはいえないですよね?
そして妄想性パーソナリティ障害については、前述の通り「独裁者の病」とも言われ、ヒトラー、スターリン、毛沢東などがこの疾患に該当していたと言われております。
パーソナリティ障害が先か、あるいはその地位が人格を歪めたのか不明ですが、指導者を人格(パーソナリティ)の側面から分析することは、今後多くの被害者を産まないためにも重要なことだと小生は感じます。
<カルト教祖とカリスマ性>
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