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年齢と精神医学: 中学二年はご用心!各精神疾患の発病年齢に関するメタアナリシス研究を精神科医が紹介!

皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

突然ですが、精神疾患って何歳ぐらいにはじまるかご存知ですか?

以前他の記事でも少し触れましたが、精神疾患の75%が24歳以前に発病するそうです(Kessler RC et al., Arch Gen Psychiatry, 2005)。

この事実に基づき小生は「若い人が精神疾患について関心を持てる様に」という思いからnote記事を書いております。

(小生が漫画、アニメ、ゲームを精神疾患の観点から考察している理由です)

今回紹介するnote記事は2年ほど前に発表された「精神疾患の発病年齢」に関するとても興味深い研究です。

この研究は何と192の疫学的研究をまとめた「メタアナリシス」であり、主要な精神疾患の初発時期についてかなり詳細なデータを示しております。

メンタルヘルス対策を考える上でとても重要な文献なので、是非皆様とシェアしたいと思います(今回も短めの記事です😅)!


【研究紹介】

Age at onset of mental disorders worldwide: large-scale meta-analysis of 192 epidemiological studies. Solmi M et al., Mol Psychiatry, 2022

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34079068/

<目的>

精神障害の発症年齢に関する世界的な疫学的推定値を求める。

<方法>

PubMedWeb of Scienceにより「発症年齢」(トピック)および「精神障害」(トピック)、さらに「出生コホート」(トピック)および「精神障害」(トピック)、さらに「発症率」(トピック)および「精神障害」(トピック)を、精神障害の種類に関係なく検索した。

対象とした文献は以下のとおりである。

(i)障害発症時年齢を遡及的に評価したオリジナルの出生コホートまたは横断研究、または前向き発生率研究 、
(ii)一般集団に焦点を当てたもの、
(iii)国際分類疾患(ICD)または診断統計マニュアル(DSM)-いずれかのバージョン基準に従って定義された精神障害の発症時年齢を評価したもの、またはICD/DSM診断カテゴリーを定義する有効なカットオフ値を持つ確立された心理測定尺度によって定義されたもの、
(iv)英語で書かれたもの。
統計解析としては以下を求めた。
(i)精神障害発症年齢の平均値および標準偏差(SD)、百分率、中央値および/または四分位範囲(IQR)、
(ii)精神障害発症年齢が特定の年齢群に属する標本の症例の割合、
(iii)精神障害を発症した偶発症例数

<結果>

対象となったのは192の研究であった(出生コホート研究=15、横断研究=150、発生率研究=27)。

精神障害全体

14歳、18歳、25歳以前に発症した人の割合と発症年齢のピークを示す。
全体として、14歳、18歳、25歳になる前に、34.6%、48.4%、62.5%の人にすでに障害が出現していた。
発病年齢のピークは14.5歳(中2)であった(図1)。

図1: 精神疾患の発病年齢

各疾患の発症年齢

14歳、18歳、25歳以前に各疾患の発病する割合および発病年齢のピークは以下のとおりである。

神経発達障害:61.5%、83.2%、95.8%、5.5歳(中央値=12、IQR=7-16)、

不安/恐怖関連障害: 38.1%、51.8%、73.3%、5.5歳(中央値=17、IQR=9-25)、

強迫性/関連障害:24.6%、45.1%、64.0%、14.5歳(中央値=19、IQR=14-29)、

摂食/摂食障害/問題:15.8%、48.1%、82.4%、15.5歳(中央値=18、IQR=15-23)、

図2: 神経発達障害、不安障害・恐怖症、強迫性障害、摂食障害の発病年齢

ストレス障害と特に関連する状態: 16.9%、27.6%、43.1%、15.5歳(中央値=30、IQR=17-48)、

物質使用障害/嗜癖行動(薬物乱用):2.9%、15.2%、48.8%、19.5歳(中央値=25、IQR=20-41)、

統合失調症スペクトラム障害: 3%、12.3%、47.8%、20.5歳(中央値=25、IQR=20-34)、

パーソナリティ障害/関連特性:1.9%、9.6%、47.7%、20.5歳(中央値=25、IQR=20-33)、

気分障害:2.5%、11.5%、34.5%、20.5歳(中央値=31、IQR=21-46)。


図3: 薬物乱用、パーソナリティ障害、気分障害、統合失調症の発病年齢

<結論>

多くの精神疾患は未成年で発病する。このため小児・成人の垣根を超えた精神保健サービスの提供が求められる。

【鹿冶の考察】

「多くの精神疾患は25歳未満が初発」というのが定説でしたが、初発年齢を詳細に推定するとなんと14.5歳...、すなわち中学2年生に発病のピークがあるとは...。

恥ずかしながらこのことは小生も初耳なので驚いております😳

ただし注意が必要なのは、このデータは神経発達障害のデータに引っ張られているため(神経発達障害が発覚するのは幼少期であるため)、全体の平均が若めにでている可能性があります。

そこでもう一度、各疾患ごとに発病ピーク年齢を確認していきましょう。

<神経発達障害>

発達障害の発病年齢のピークは5.5歳となっております。しかし、発達障害はそもそも「生まれつき」であるため発病のピークは0歳になるはずですが、おそらくこの論文においては「発達障害が発覚する年齢」を意味すると思います。

<不安障害・恐怖症>

これもピークは5.5歳となっておりますが、もう一つのピークは15.5歳ですね。
特に限局性恐怖症(閉所恐怖症や動物恐怖症など)は幼少期に発病しやすいのでこのような分布を示しているのかも知れません。

<強迫性障害>

これは14.5歳、つまり中学2年の頃にピークがあるようですが、これは意外でした。小生は強迫性障害は専門ではないので詳しい疫学は知りませんでしたがイメージ的に20歳前後に発病...と思っておりました。ADHDやチックなどと合併しやすいので発達障害と発病時期と重なる結果かも知れませんね。

<摂食障害>

摂食障害の発病年齢のピークは15.5歳...、これはイメージ通りです。

<薬物乱用>

薬物乱用の発病年齢は19.5歳。これもイメージ通りで、ゲートウェイドラッグに手をだすのって大学生が多いですね。好奇心で薬物を始めると痛い目にあいますので絶対やめましょう。

<パーソナリティ障害>

パーソナリティ障害は"長期"にわたる個人の特性が生きづらさを生じさせる障害であるため、その診断がつくのは青年期以降が多いです。したがって、発病のピークが20.5歳というのも頷けます。

<気分障害>

うつ病や双極性障害の発病年齢は20.5歳だそうです。うーん、これについてはうつ病と双極性障害を別にデータを示して欲しいですね。躁鬱病って、"うつ"症状は共通ですが生物学的には違うものと小生は感じております。

<統合失調症>

この研究によると統合失調症については20.5歳が発病年齢のピークだそうです。教科書的には10-20代と30-40代にピークがある疾患なのですが、統計をとるとこのようなデータになるようですね。


...と簡単ですが、今回の研究報告について雑感を述べました。

紹介した論文は世界各国のデータを集めたものなので、このデータが日本のそれとは若干違う感があっても否めないと思います。

それにしても今回のデータはやはり若者、特に10代へのメンタルヘルス啓発がいかに重要であることを示していると思います。

...ということで、小生は若い人に向けてメンタルヘルスについて情報発信を今後も続けていく所存です!

その一環としてアニメ、漫画、ゲーム等について精神医学の観点から考察しておりますが、他に若者が興味をもつコンテンツって、なにかありますかね?🤔

若者が興味を持つコンテンツについて、「これは!」と思う方がいらっしゃるなら何かアドバイスをくださいな☺️


<余談>

ところで世の中には中二病(別名: 厨二病)という言葉があります。

その意味は、中学二年の思春期に見られる背伸びしがちな言動をする自己愛的空想に浸る傾向を意味するそうです(今回の見出し画像は中二病をイメージしました😅)。

中学2年というのは子供と成人の移行期にあたり、アイデンティティが揺らぐ心身ともに不安定な時期です。

そして今回紹介した論文もこの中学2年という時期が精神的に不安定あることを示唆しております。

中二病とメンタルヘルスの問題...、両者に共通するのがアイデンティティの問題のように見えますが、皆様はどう感じますか?

【まとめ】

・精神障害の発症年齢に関する大規模メタアナリシス研究を紹介しました。
・精神疾患全体としては初発年齢は14.5歳、すなわち中学2年がピークのようです。
・各精神疾患について発病年齢は違いがあるようです。
・やはり若者に対するメンタルヘルス啓発は重要ですね。
・余談ですが中二病と精神疾患の発病年齢ってなんか関係があるかもしれないですね🤔

↓見たことはありませんが、中二病でも恋がしたいですよね!


【参考文献など】

1.Age at onset of mental disorders worldwide: large-scale meta-analysis of 192 epidemiological studies. Solmi M et al., Mol Psychiatry, 2022

2.Lifetime prevalence and age-of-onset distributions of DSM-IV disorders in the National Comorbidity Survey ReplicationKessler RC et al., Arch Gen Psychiatry, 2005

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