音楽と精神医学(5): 偉大なミュージシャンは27歳で死ぬ?〜都市伝説"27 Club(27クラブ)"を科学的に検証した論文を紹介〜
皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。
突然ですが「27 Club」という言葉をご存知でしょうか?
27 Clubとは「27歳で亡くなった有名ミュージシャンのリスト」です。
この言葉を知っている方は伝説のロックバンド「ニルヴァーナ」のファンか、漫画「SHIORI EXPERIENCE」のファンのどちらかだと思いますが、いかがですか?
ちなみに小生の場合、高校時代の友人の影響でニルヴァーナを少し聴いていましたが、27 Clubという言葉を知ったのは「SHIORI EXPERIENCE」がきっかけです😅(まぁニワカです)
有名ミュージシャンの享年が27歳であることが多く、その結果「偉大なミュージシャンは27歳で死ぬ」という俗説が生まれます。
要するに都市伝説ですね。
27歳という若さで才能豊かなミュージシャンが亡くなるということ自体ショッキングなのですが、その多くが事故、薬物中毒、自殺...と不幸な死に方をしております。
彼らがなぜ若くして、しかも不幸な死に方をするのか...。
それは彼らが音楽の悪魔と契約し27歳以降の命と引き換えに音楽の才能を与えられたから...、などというオカルト的噂もながれたそうです。
...が、賢明な皆様ならもうお分かりと思いますが、「たまたま著名人が27歳で亡くなった」という偶然に余計な解釈を加えただけに過ぎません。
... ... ...。
しかし...、本当のところはどうなんでしょうかね?🤔
この手の都市伝説に何らかの根拠はあるのか...、小生はついつい勘繰ってしまうクセがあります。
そんな中、"27 Club"に関して疫学的に調査した貴重な文献を発見いたしました。
この論文は10年以上も前の研究ですが、とても興味深かったので是非皆様とシェアしたいと思います!
↓漫画「SHIORI EXPERIENCE」、超オススメな漫画です!
【27 Clubとは?】
27 Clubとは27歳で亡くなった人気ミュージシャンのリスト。
具体的には、ロバート・ジョンソン、ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、カート・コバーン、エイミー・ワインハウスなどが"主要メンバー"である(27Clubのメンバー65名のリスト: 英語版のみ)。
27 Clubという言葉が生まれたのは、カート・コバーンの母親ウェンディー・コバーンが、「Now he's gone and joined that stupid club(彼は亡くなり、あの愚かなクラブに入ったの).」と"Club"という言葉を使ったのが始まりだそうです。
ちなみにロバート・ジョンソンがめちゃくちゃギターがうまかったため、「十字路で悪魔に魂を売り渡した引き換えにテクニックを身につけた」という噂があったそうです。
この噂から、「27 Clubは悪魔と才能を引き換えに魂を捧げたミュージシャンたち」というオカルト的な都市伝説が生まれたようです。
【研究紹介】
<目的>
著名なミュージシャンは27歳で死亡するリスクが高いという「27クラブ」仮説を検証する。
<方法>
年齢を時間依存性曝露として生存分析を用いたコホート研究である。比較は主にミュージシャン内で行い、二次的に英国の一般人口との相対比較を行った。
対象は 1956年から2007年の間に英国でナンバーワンアルバムを出したミュージシャン(ソロアーティストおよびバンドメンバー)(n=1046名、死亡者数71名: 7%)。尚、死後にアルバムが1位になった場合は除外した。
主要アウトカム評価項目はミュージシャンの年齢別の死亡リスクであり、特に「27歳」時に死亡率が高まるかを検証する。
<結果>
27歳以前にナンバーワンアルバムを出したミュージシャン522人中27歳で死亡したのは3人であり、ミュージシャン100人当たりの年死亡率は0.57人であった(図1)。
27歳前後にリスクのピークはなく、平滑化した死亡率は32歳にピークがあった。20代と30代を通して有名な音楽家の死亡リスクは、英国の一般人口より2~3倍高かった(図2)。
<結論>
「27クラブ」は実在する現象とは考えにくい。
【鹿冶の考察】
<論文の補足>
ちょっと補足です。
まずこの研究では、UKアルバムチャートで1位をとったことのあるミュージシャンのデータをベースに、その中でも"27歳より以前に"アルバムチャート1位をとったことのあるミュージシャンを"リスクのあるミュージシャン"として統計をとった研究です。
また、比較のために、1940年代、1950年代、1960年代、1970年代生まれのイギリス人について100人あたりの死亡者数を死亡時年齢別に集計して、ミュージシャンの死亡者数と比較しております。
... ...ということで、UKアルバムチャート1位を取る集団と、一般人を比較することに果たして意味があるのか...、と言われるとちょっと無理があることは否定いたしません😅(母集団の質がまったく違いますよね)
それからお示しした図2の青のライン「ミュージシャン」における死亡者数のピークについてですが、これは20-30代における死亡者数の違いを明確化するために、「自然スプライン(natural spline)」という補間によって示した図だそうです。
図をよくみると20歳のところで線が突き出ていますが、これは20歳に死亡したミュージシャンが1名がいたそうですが、そもそも20歳でUKアルバムチャート1位になった方が少ないため(分母が少ないため)、このようなデータになったと考えられます。
<薬物との関係>
論文の考察の段で、"1970-80年代のミュージシャンの死因はヘロインの過剰摂取が影響する"という旨が記載されておりましたが、残念ながら論文中にヘロインとの因果関係を示すデータは見当たりませんでした。
そこで27 Clubのミュージシャンの死因についてちょっと調べてみることにしました。
データソースについては、英語版wikipedia"27 club"に掲載されていた死亡者リストのうち音楽関係の著名人のみをリストアップした結果、27 Clubの死因は...
確かに薬物中毒が3位に入っておりますが、残念ながら摂取薬物の種類までは同定できませんでした。
しかし、このデータをみるとやはり薬物は危険であり、才能ある若者を守るためには薬物乱用が広がらないようにすべきと感じます。
<27 Clubのメンバーは不幸な死に方をしている?>
...、なんだか27Clubの死因を見ると若くして不幸な死に方をしているように見えますね...。
やはり、27 Clubとは悪魔との契約によって魂を差し出した...なんて噂が囁かれるのもわかる気がします。
...んが、ちょっと待ってくださいね!
ここで比較のために一般人口における若者の死因についてもチェックしてみましょう。
2015年のPublic Health Englandのデータによると、20-34歳の男性の死因は...
...だそうです。ちなみに米国疾病予防センター(CDC)によると、15-34歳の死因の第1位は不慮の事故(34452名)、第2位は自殺(8862名)、第3位は殺人(7571名)、第4位はコロナ関連死(6133名)、第5位は心疾患(4155名)、第6位は悪性腫瘍(3615名)...、だそうです。
もちろん比較は容易ではありませんが、27 Clubの死因と大きく違いはないように見えますね。
冒頭で「なぜ若くして、しかも不幸な死に方をするのか...」と問いましたが、要するに先進国では若い人は病気や老衰(当然ですね)で死ぬことが少なく、結果、病死・自然死以外の死因が目立つにすぎないのです...。
<27 Clubはやっぱり嘘?>
...ということで、「統計学的には27 Clubは嘘でーす!」と言って安心したいところですが、ちょっと待った!
論文紹介でお示ししたように確かに有名ミュージシャンの死亡年齢のピークは27歳にはありませんが、32歳に顕著な死亡率の上昇がみられますよね?
つまり、「27 Clubはないけど、32 Clubはあるかも...?」ということがこの研究から言えるかもしれません🤔
またこの論文には「20代と30代のミュージシャンは、英国の一般人口に比べて2〜3倍も早死にする可能性が高いことが分かった」と結論づけており(詳細は割愛)、やはり若くして成功したミュージシャンは一般人口よりも死にやすいのかも知れません。
そう考えると「27 Clubなんて嘘」と一笑に付するのも問題と思いますが、皆様はどう感じましたでしょうか?
余談にはなりますが、日本で27歳でなくなった有名人といえば女優の夏目雅子さんがいますね。また歌手の尾崎豊さんも数え年であれば27歳だったそうです(26歳で亡くなっていますが)。
... ...、やっぱり27 Clubってあるのでしょうかね...?😱
【まとめ】
【参考文献など】
1.Is 27 really a dangerous age for famous musicians? Retrospective cohort study. Wolkewitz M et al., BMJ, 2011
2.27 Club; wikipedia
3.National Institute of Mental Health: Leading cause of death in the United States for select age groupus (2021)
4.Public Health England: Chapter 2: major causes of death and how they have changed.