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天気と精神医学: SNSによる"天気と感情"に関する研究
皆様、こんにちは、鹿冶梟介(かやほうすけ)です。
今年は梅雨明けが早くなりそうですが、暑くてジメジメした天気が続きますね…。
ところで、皆様は雨の日は平気ですか?それとも憂鬱になりますか?
私の場合、たまに降る雨は風情があってよいと思いますが、高温多湿な梅雨では、やはりメランコリーな気分になります…。
そんな憂鬱な気分を払拭しようと、"天気と精神医学”について何か面白い研究はないかと探してみました…(面白い文献を読むのが、私の気分転換なのです!)。
実は"天気と感情(気分)”に関する研究自体は、”山のように”あります(pubmedで”weatherとmoodと調べると、2万件以上ヒット!)。
しかし、その内訳は、洪水などの異常気象・地球温暖化などのグローバルなもの、「アンケート」ベースの横断研究(例えば「冬は気分が落ち込みますか?」とか「雨の日は苦手ですか?」といった調査)、心理テストを用いた縦断研究であっても少人数の研究(数十人からせいぜい100人?)…、という感じで、あまり新鮮味がありません。
そんな中、"梅雨の晴れ間"のような興味深い文献を発見しました!
しかもこの研究は、私も最近はじめた"Twitter"を使ったユニークな研究ではありませんか!
面白い研究なのですが、コンピューターサイエンスは門外漢なので、私がわかる範囲で本研究をご紹介したいと思います。
(今回はデータが多いので方法・結果は一部を紹介します)
【論文紹介】
Weather impacts expressed sentiment, Baylis P, PLOSONE, 2018
<目的>
天気と人の感情表出の傾向の相関をSNSを用いて調べる。
<方法>
対象: FacebookとTwitterにおける35億件の投稿内容(Facebook24億件: 2009年1月-2012年3月、Twitter11億件: 2013年11月-2016年6月)。言語は英語を対象。なおアカウントは公開および非公開アカウント両方を含む。
天候情報:毎日の最高気温、気温範囲、降水量はPRISM Climate Groupから気象データを利用。雲の量と湿度データは国立環境予想センターから入手。
SNSにおける感情測定: SNSに投稿された内容が、肯定的あるいは否定的感情を表すか調べる為、Linguistic Inquiry Word Count (LIWC)感情分析ツールを用いた。
対象地域: 米国において最も人口が多い都市上位75市(投稿はIPアドレスで地域を特定)。
従属変数の集計: 各日の投稿を解析して、各ユーザーの「ポジティブな感情表現の割合」と「ネガティブな感情表現の割合」を計算。さらに都市ごとのユーザーの値を平均し、各都市の従属変数を計算。
都市単位の感情: 天候が都市単位の感情を変化させるかどうかを調べるため、都市毎で集計された「ポジティブな感情表現の割合」「ネガティブな感情表現の割合」と気象理論データを組み合わせた(詳しいアルゴリズムは割愛…私の知識では説明できません)。
<結果>
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Facebook (図1)
・気温、降水量、湿度、雲量のそれぞれは、感情表現と有意に関連することがわかった。
・肯定的な表現については、最高気温が20℃までは増加し、30℃を超えると減少する。
・否定的な表現については、肯定的な表現と逆の関係ではあるが、肯定的表現よりも影響は小さい。
・日中の気温が15℃を超えると肯定的な表現が有意に増加し、否定的な表現は有意に低下する。
・相対湿度が80%を超えると、肯定的な表現は減少し、否定的な表現は増加する。
・雲が多い日も同様に、ポジティブな表現を減らし、ネガティブな表現を増やす。
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Twitter(図2)
・気温と降水量が感情表現に与える影響の傾向は、Facebookデータの関連性と類似しているが、その大きさは弱まっている。
・降水量、気温範囲、雲量、湿度の感情表現に対する効果の大きさは、統計的な有意性を維持しているが、Facebookと比較して減衰している。
<結論>
・天気はSNSにおけるポジティブ表現やネガティブ表現に影響する。
・天気が人間の感情状態に影響する可能性が示唆された。
【鹿冶の考察】
<本研究の新規性>
結果・結論だけを見ると、「まぁ、そうだろうな」と思いますよね。
なぜなら「天気が悪ければ、ネガティブな感情になる」ということは、我々が経験的に知っている「当たり前のこと」だからです。
しかし、天気と感情の関係という「当たり前」について、ここまで大規模かつ科学的検証をおこなった研究は、そうないと思います(億単位の投稿を解析なんて!)。
そしてSNSを使って”感情”を評価するという新しいアイデアも、この研究の強みだと思います。
このようにSNSを用いた大規模メンタル研究は、今後増えていくのではないでしょうか。
<FacebookとTwitterの違い>
本研究ではFacebookとTwitterを用いておりますが、両SNS間で結果が微妙に違っております。
この理由について筆者らは、米国での両SNSのユーザー数の違いで説明しております(2018年時点で、米国では成人ネットユーザーの80%がFacebookユーザーで、Twitterはせいぜい30%)。
米国ではFacebookユーザーのほうがマジョリティなので、Facebookの結果の方が、「より実態に近い」と言えます。
しかし、日本ではTwitterの方がユーザーが多いので、日本で同様の研究をした場合、結果は変わってくるかもしれませんね(日本の場合は、むしろLINEで研究したら、面白いかも?)。
<余談>
ところで余談にはなりますが、「雨が降ると憂鬱」というのは世界共通だと思いますか?
実はスペインの疫学調査では、男性の場合、雨が降る地域の方がうつ病のリスクが減るそうです。
所変われば、天気に対する受け止め方も変わってくるのかも知れません。
参考までに文献を文末に記載しておきますね(参考文献2)。
【まとめ】
・SNSを用いた天気と感情の関係を調べた研究を紹介しました。
・天気が悪くなれば、SNS上ネガティブな表現が増えることが明らかになりました(当たり前ですね)。
・今後SNSを用いた精神医学領域の大規模研究はメジャーになるかも知れません。
・日本でも同様の研究がされたら面白いかも知れません(その場合、やっぱLINEかな?)。
【参考文献】
1.Weather impacts expressed sentiment, Baylis P, PLOSONE, 2018
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29694424/
2.Geographical and climatic factors and depression risk in the SUN project, Henriquez-Sanchez P, et al., Eur J Public Health, 2014
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24567293/
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