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#今昔物語
rewrite続・今昔物語、第六話
出先から戻った遠助は、震える妻の背を見て全てを察しました。
お前‥箱を開けたのか!遠助は恐怖に震える妻の背を見ながら声をかけました。
あの‥えっと‥。妻は恐怖のあまり言葉になりません。
何と言うことをしてくれたのだッ!遠助は箱の中身にぞっとしながら急いで蓋を閉じ、絹の布を包み直しました。
今から馬を飛ばせば唐の郷にある「段の橋」に間に合おう。箱を渡してくる。妻にそう言い、箱を抱え段の橋へ向
rewrite続・今昔物語、第五話
妻は、自分に隠し事をしている遠助に不満を持ちながら押入れにある箱を開ける機会を伺っていました。
そして遠助が一人所用で外出する日が来ました。
まったく、うちの夫と来たらこんな場所に箱を置いて隠したつもりなのかね!
妻は箱に手を伸ばしました。絹で包んである箱。高級な香を燻らせたのでしょうか?箱は良い匂いがしました。
押入れの棚から箱を下ろし、妻はじっと箱を見つめました。箱を包む絹は見たことも
rewrite続・今昔物語、第四話
遠助は箱を抱え、馬に乗ろうとしました。遠助は女の方を見ました。女は遠助を見つめ返し、重ねて申し上げますが、箱を決して開けませぬようお願い致します。と言い、勢田橋から去って行きました。
気味の悪い女‥そう思いながら遠助は故郷の美濃国へ向かいました。久しぶりの故郷へ向かう気持ちで気が急いてしまったのか、例の「段の橋」へ立ち寄るのを忘れてしまいました。
遠助が箱を届ける事を思い出したのは、久しぶりの
rewrite続・今昔物語、第三話
何とかこの依頼、断れないだろうか‥遠助は心の中でそう思いながら女の話を聞きました。
「段の橋」の西側、その隅に女房(家政婦)が一人、この箱を受け取る為に待っております。お侍さまはその者にこの箱を渡してくだされば良いのです。
女は淀みなくスラスラと説明を続ける。遠助は少し後悔し始めていた。何とも正体不明な女。正直言って気味が悪い。この依頼は決して断れないような強い圧力を感じました。
そして‥‥
rewrite続・今昔物語、第二話
もし、お侍さま。これからどちらに向かわれるのですか?
女は遠助に尋ねました。遠助は女をじっと見る。何処かの貴族に仕える女房(家政婦)か?気味の悪さを感じるが、同時に気品のある佇まいもある。
遠助は馬から降りて女に答えました。私はこれから美濃国へ向かうところだ。何か私に御用かな?
女はよく通る声で、ひとつお願いを聞いていただきとうございまして、お侍さま。よろしいでしょうか?と言ってきました。
rewrite続・今昔物語、第一話
今となってはもう昔の話になります。美濃国(みののくに)に藤原孝範という貴族がいてその家来に紀遠助(きのとおすけ)という侍がいました。
大勢の家来のうち、特にこの遠助を大変重宝に使い、自分の出張先に長宿直(ながとのい・長期間の泊まり込みで護衛)として同行させました。
藤原孝範の出張も一段落し、遠助は休暇をもらえる事になりました。そこで、遠助は美濃国に帰る事にしました。
遠助は従者を従え故郷の美
rewrite今昔物語 第六話
ずっと馬を全力で走らせて来たので、馬も限界だ。馬の息は完全に上がっている。もう走れないだろう。七郎は馬で逃げるのを諦め、転げ落ちるように馬から降りた。とりあえず七郎は、橋の下に隠れて鬼をやり過ごすことにした。
鬼に見つからないように息をころす七郎。橋の上からは鬼の足音が聞こえる。‥南無、八幡大菩薩、我を守り給え、そう心の中で呟きながら御守りを握り締めようと胸元を探る‥が肝心の御守りが見当たらない
rewrite今昔物語 第五話
急いで部屋を出た七郎。隣の部屋の藤次を呼ぶ。藤次!藤次!何処にいる?この屋敷は鬼の棲家だ!すぐ逃げるぞ!
隣の部屋にいるはずの藤次の姿がみえない。まさか既に鬼に喰われた‥七郎は絶望した。とにかくいまは自分だけでも鬼の棲家から逃げなければ。
藤次の部屋に置いてあった馬の鞍を手に取り、急いで庭の木に繋いである馬の元に急ぐ。
馬は、いた。七郎は気持ちが焦り馬に鞍をつけられない。焦れば焦る程、鞍が上
rewrite今昔物語 第三話
藤次に馬を任せ、七郎は屋敷の中に入った。日は西に傾いているとはいえ、何故か部屋の中は薄暗い。雨戸も閉め切っているわけでもない。
そして外より空気が冷んやりとしている。むしろ肌寒いくらいだ。七郎は、確かに藤次の言う通りだ、妙な雰囲気の屋敷だ、と思った。
屋敷の中を一通り見て回り、かつてこの屋敷の主人が寝ていたであろうと思われる部屋を今夜の寝所とする事に決めた。
埃っぽい部屋ではあったが、贅沢は
rewrite今昔物語 第四話
ようやく眠りにつこうとしたその時、部屋の隅からカリッカリッ‥と何かを引っ掻くような音が聞こえてきた。七郎は何だ鼠か、と思っていた。
カリッ、カリッ、カリッ‥段々と音が大きくなってきている。
七郎は明かりを持ち、音のする方向を照らしてみる。部屋の片隅に匣(はこ)が見えた。部屋に入ったばかりの時は全く気づかなかった。闇に紛れるように置かれている匣。大きさは馬に付ける鞍が収まるくらいか。しっかりした造
rewrite今昔物語 第二話
七郎達は今夜の寝所を探し街道を進む。完全に日が落ちるまでそんなに猶予も無い。
暫く進んでいると、大きな屋敷が見えてきた。どうやら廃屋らしい。大きな門に沢山茂った樹木が覆い被さっている。
何とかこの屋敷で夜露はしのげそうだな、藤次。ちょっと中に入って様子を見て来てくれないか?と七郎は言った。
分かりました若様、わたくしが調べてまいります。そう答えると藤次は荷物を地面に置き、武器のみを携え屋敷に
rewrite今昔物語 第一話
今となってはもう昔の話になります。ここより遥か東より、京に向かう若者と彼に仕える従者がいました。
名前が無いのも不便なので、若者の名前を七郎(しちろう)、従者を藤次(とうじ)と呼ぶ事にしましょう。
七郎の目的は京への留学。都で多くの事を学ぶ為に従者の藤次と遥々東国から旅をしています。
長い旅も終盤に向かい、やっと近江国(現在の滋賀県辺り)までたどり着いた二人。
東国からの玄関口である勢田橋