rewrite今昔物語 第五話
急いで部屋を出た七郎。隣の部屋の藤次を呼ぶ。藤次!藤次!何処にいる?この屋敷は鬼の棲家だ!すぐ逃げるぞ!
隣の部屋にいるはずの藤次の姿がみえない。まさか既に鬼に喰われた‥七郎は絶望した。とにかくいまは自分だけでも鬼の棲家から逃げなければ。
藤次の部屋に置いてあった馬の鞍を手に取り、急いで庭の木に繋いである馬の元に急ぐ。
馬は、いた。七郎は気持ちが焦り馬に鞍をつけられない。焦れば焦る程、鞍が上手くつかない。
‥と、七郎の背後から声がした。旦那サマ、旦那サマ、わたくしでございマス、こんな夜更けにどうされマシタ?
藤次の声‥だ。藤次は生きていたのか?七郎は安堵のため息を漏らす。
藤次!ここは鬼の棲家だ!今すぐここを出るぞ!
お前も‥と言いかけた七郎だったが、藤次の声に違和感を感じる。
ゆっくりと七郎に近づいてくる藤次。旦那サマ、わたくしが馬の鞍をつけマス。少々お待ちクダサイ。
そうか、では藤次。鞍をつけてくれ。といった瞬間、七郎は馬に飛び乗り、馬に鞭をくれた!驚いて走り出す馬。鞍は既につけ終わっていた。
旦那サマどうしマシタ!藤次らしき者は慌てている。
七郎は言った。お前は藤次ではないッ!藤次は私の事を旦那様などとは呼ばぬッ!そういうと同時に、藤次から貰った短刀を偽物の藤次に投げつけた!
短刀を投げつけた先からギャッ!と声が上がる。
呻き声と共に、おのれぇ!小僧待てぇ〜!鬼が吼える。偽物の藤次は鬼だった!七郎は振り返らず馬に鞭を当てる。全力で走る馬。辺りは暗く、鬼との距離感は分からない。
しかし鬼は確実に七郎を追って来るのはわかる。
ひたすら闇の中、馬を飛ばす。何処に向かって走っているかも分からないが今は全速力で馬を走らせる事に集中した。
やがて橋が見えてきた。どうやら勢田橋(瀬田の唐橋)まで走ってきたようだ。
第六話に続く。