【書評】科学の真実が悩める人を癒す〜『八月の銀の雪』(伊予原新)
こちらも本屋大賞ノミネート作品。直木賞候補にもなりました。伊予原新さんの『八月の銀の雪』。「理系癒し小説」とでもいうべき新ジャンルを開拓した作家さんです。
1、内容・あらすじ
就活がうまくいかず、鬱屈した日々を送る理系の大学生、堀川。
彼がいつも立ち寄るコンビニには、「グエン」というベトナム人のアルバイト店員がいました。
グエンは日本語がよくわからず、不愛想で手際が悪い。堀川はいつも彼女にイライラさせられていました。
ところが、ふとしたきっかけで堀川はグエンの「本当の姿」を知ることになります。
堀川はグエンが研究しているものの話を聞き、その話をきっかけに自分を見つめ直します──。(表題作『八月の銀の雪』)
2、私の感想
最初の数ページを読んで「あ、これはおもしろい小説だ」とわかりました。(なんとなくわかる時があるのです)
5編から成る短編集で、共通しているのは「科学や自然の話題が人々を癒すきっかけになる」という点です。
「理系と物語をつなぐ」と言ったらいいでしょうか。あまりないタイプの小説だと思います。
ただ理系の話が出てくるだけではなく、それがちゃんと登場人物に絡んで、必要な癒しを与えていくのです。
これは話題になった『月まで3キロ』と同じで、しかもレベルアップしています。
理系の話題が出てくると言ってもちっとも堅苦しくなく、むしろとても引き込まれる、静かで落ち着いた文章です。「人間」を書くのが上手なんだと思います。
そういえばあの東野圭吾さんも理系の人でした。
地球の層の話と人間の内面の話はとてもしっくり来ました。
私が最も好きなのは、シングルマザーとクジラの話です。「どうかこの親子が幸せになりますように」と祈らずにはいられませんでした。そしてクジラがすごい。
レースバトの話も神秘的ですらあります。珪藻の話も興味深く、思わず図鑑を買ってしまいました。
3、こんな人にオススメ
・理系の話題が好きな人
理系の方が読むとなお一層面白いと思います。
・理系の話題が苦手な人
今まで興味がなかったものに興味を持つきっかけになります。
・今、何かで落ち込んでいる人
必ず、5篇のうちどれかが心に響くと思います。
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