【書評】伝えたいことを伝えられない苦しみ〜『きよしこ』(重松清)
重松清さんの名作『きよしこ』です。『僕は上手にしゃべれない』→『吃音─伝えられないもどかしさ─』という吃音つながりで読みました。
書評は書いていませんが、この間に『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』というマンガも挟まっています。
1、内容・あらすじ
幼少期から吃音を抱える重松清さんのもとに、同じく吃音の息子を持つ母親から手紙が届き、そのお返しとして自身をモデルにした少年を主人公に小説を書く──という体裁で始まります。(事実なのかもしれません)
少年の名前はきよし。どこにでもいる普通の少年ですが、親の仕事の都合で転校を繰り返し、その度につらい思いをしてきました。
少年はうまくしゃべれません。特に「カ」行、「タ行」、濁音がうまく発音できず、つっかえてしまうのです。
自分の名前「きよし」もカ行で始まるのでうまく言えず、転校の度に自己紹介で笑われ、からかわれ……。
言いたいことを言えない、伝えたいことを伝えられない苦しさを抱えながらも少年は懸命に生き、友だちを作り、成長していきます──。
2、私の感想
少年がかわいそうでかわいそうで泣きました。そして時々出てくる優しい人たちのありがたさにも泣けました。
これを読んで泣かない人などいるのでしょうか……。
重松清さんの小説は名作ばかりなのですが、心の深いところを突くので、胸が「ズン」と痛くなります。この作品もそうでした。
「作り物のようなハッピーエンドは訪れないけど、それでもどこかにある希望を見出しながら、人は生きていくしかない」
という、人生の現実のようなものがしっかりと描かれています。
冒頭で重松さんが語っているように、「救いにはならないかもしれないが寄り添うことはできる」という小説です。
私は吃音の勉強の一環として読んだのですが、吃音を抱える知人が言っていた「言い換えのテクニック」がたくさん出てきて、なるほどこういうことか、と納得しました。
「吃音とはそう簡単に縁が切れない」「吃音とともに生きていく」というような、厳しい現実もこの小説から学び取ることができました。
重松さんの小説は教科書によく載るのですが、この小説もぜひ載せてほしいと思います。
3、こんな人にオススメ
・吃音について知らない人
こういう人がまだ多数なのだと思います。ぜひ読んでほしいです。
・吃音を抱える人
きっと、苦しみに寄り添ってくれる一冊になるはずです。
・学校関係者
一番に学ぶべき立場にあるのは学校関係者です。間違いありません。