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読書記録「ふわふわの泉」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは、野尻抱介さんの「ふわふわの泉」早川書房 (2012) です!

野尻抱介「ふわふわの泉」早川書房

・あらすじ
高校2年生 花の女子高生である浅倉泉のモットーは「努力しないで生きること」である。

かつて見た絵本のように、気球でふわふわ漂うな、全てが最小エネルギー状態に落ち着いた生活に憧れていた。

浜松西高校の化学部部長である泉は、目下文化祭の出し物の準備中である。部長と言っても、西高化学部は他の部員は保科昶と、2人だけの部活である。

当初は「フラーレン分子の合成」の様子をデモンストレーションする予定だったが、突如として落雷が化学準備室に直撃する。

一瞬で過ぎ去った爆音と閃光。高圧電源は焼け焦げ、合成装置として置かれていた中華鍋は溶けて穴が空いていた。

実験失敗…かと思いきや、泉は合成装置の残骸から謎の粒子を発見する。

1粒の直径50マイクロメートル、比重は空気の3分の1。シャボン玉のように膜で覆われた球膜は、1ナノメートルでありながらダイヤモンドよりも硬い硬度を有していた。

後日しかるべき研究機関に調査してもらうと、それは「立方晶窒化炭素」であると判明する。

泉はこの精製方法で出来上がった粒子を「ふわふわ」と名付け、特許取得すれば「一生努力せずに生きれる」と思うのだが…。

先月の東京読書倶楽部は「読書好きがあつまる文学×ボードゲーム会」で紹介された本。

紹介された方が「読み終えた本は差し上げます」と伺い、ちょうど冬木一糸さんの「SF超入門」を読み終えたばかりでSF熱もあり、ありがたく頂戴した次第。

早川書房で文庫化されたのは2012年であるものの、初出は2001年のファミ通文庫。まだ「シンギュラリティとは?」の時代であっただろう。

この作品は「ふわふわ」により発展した人類と、その限界を提示している。


女子高校生 浅倉泉が「ふわふわ」なる窒化炭素を発見、さらに量産化に成功することで、人類の技術や文化レベルは一気に上昇する。

ダイヤモンドよりも硬く、空気よりも軽いとされる「ふわふわ」は、飛行機や建物にも使用される。原料も空気中の成分だけで生成されるため、温室効果ガスの軽減にもつながっているそうだ。

そして、泉はこの素材を活用して「宇宙」を目指す。

人類が本当に国境や領空権に支配されず、「ふわふわ漂うように生きる」ためには、宇宙空間へ旅立つしかないと。


だが、風向きが変わるのは、突如として地球に現れた異星人の存在だ。

彼(彼女)らはかつて有機体であったが、技術の進歩により自己の情報化に成功。肉体を持たないため寿命がなく、何億光年離れた星を自由に渡り歩くことも可能である。

となれば、ロケットや軌道エレベーターで宇宙を目指すよりも、自己の情報化を先に目指すべきという意見も現れる。

肉体を有して危険かつ不経済に宇宙を目指すよりも、情報として宇宙全体を彷徨ったほうが、効率的なのではと。


著者のあとがきにて、人類のシンギュラリティ到達は不可避だと語る。

持続可能な社会の構築を心がけ、テクノロジーの発展をやめない限り、いずれ全人類は不老不死になり、永遠に遊んで暮らせるようになる。そのことを悟ったとき、人はどんな反応をみせるだろうか。

同著 256頁より抜粋

問題は、この作品の異星人のように、不老不死になったらどうなるかでもある。

デビッド・A・シンクレアの「LIFESPAN 老いなき世界」の如く、テクノロジーの進歩により、自己を保ちながら永遠の生命が保証された世界になるかもしれない。

作中の言葉を借りれば、遺伝子の影響を受けず、食と性と他者の支配に関心を向けることなく、個として存在するものに。

そんな社会がいずれ来るかもしれない。その時に私が存在するかは定かではないが、そうなっても不思議ではない現代を生きている。

もしかしたら、案外楽しいかもしれない。死の恐怖を全く感じずに存在できるのは、幸せかもしれない。


だけど、肉体があるからこそ、肌身で感覚を得られるのも事実。

現在紐解いている小川糸さんの「ライオンのおやつ」しかり、アレックス・シアラーの「青空のむこう」しかり。

さわやかな風を顔に感じるって、すてきだと思う。ぼくは今、それを感じたくてたまらない。おかしいけど、生きているときは、そういうささいなことって当たり前だと思って気にしない。だけど、今はそれができなくてすごくさみしい。

「青空のむこう」より抜粋

もちろん、自己の情報化によって、そのような感覚を得られなくなるかは分からない。アップデートで追加されるかもしれない。

すぐに答えを出せるものではないけれども、この身体を持って生きていくのも、案外悪いものではないかもしれないよって。

ただ塵のように「ふわふわ漂うように生きる」よりかはね。それではまた次回!

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