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メンタルヘルス不調者は、怠け者なのか
メンタルヘルス不調になった人をみて、「怠けているだけ」「心が弱い」という人がいる。メンタルヘルス不調は、厚生労働省の指針によると、「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むもの」と定義されているので、確かにその名の通り精神的な問題がある状態ともいえる。
しかし、実態はどうなのか、日頃からメンタルヘルス不調者に携わっている立場から、その実態を紹介したい。
メンタルヘルス不調者は追い詰められている
メンタルヘルス不調になった方は、「仕事が思うように進んでいない」「このところ顔色が悪く、発言も多くない」などの理由で、産業医面談に至ることが多い。面談で彼らの話を聴くと、その理由や背景は様々だが、大きなストレス要因や悩みがあり、もがきにもがいて、すでに動けなくなっている状態であることが多い。夜ベットに横になっても眠ることができず、やっと眠れたと思ってもすぐに目が覚める、気づけば外が明るくなり朝が来る。食事も喉を通らない、同じことを何度も考えるも答えが出ない。やるべきことは山積みになり、一向に片付かない。それでも、職場にとどまり、自分がなんとかやれることをやろうと必死にもがいている。そんな状況でも、家族や周囲に迷惑をかけたくない、少しでもできるところを見せたいという一心で、なんとか平静を装みようとする。その時は周囲からみたら「普通」に見えるが、それが続くことはなく、さらに違和感を感じさせる要因になる。また、そのような状態は、追い詰められている状態なので、感情も大きく動いてしまう。ちょっとしたことでも、自分を制御できずイライラしたり、怒りが爆発することもあるし、焦りを感じたり、悲しくなったり、つらくなったりする。脳神経学的には、神経細胞同士が情報を伝達するセロトニンが枯渇している状態なので、もがいても情報の伝達は思い通りいかず、逆にもがけばもがくほどエネルギーが枯渇しさらに病状を悪化させる。
適切な解釈・評価が難しい
メンタルヘルス不調になっている方の多くは、目の前の出来事を適切に解釈・評価できなくなっていることが多い。ちょっとした失敗も大問題ととらえてしまったり、同僚の何気ない一言から自分を責めてしまったする。特に問題になるのは、自分自身に対する解釈・評価である。朝起きるのが遅れた、挨拶を返さなかった、やろうと思っていたところまで仕事を進められなかった・・・普段でも時々あったり、たまたまそうなっただけもしれない事象でも、過度に悪く評価し、その原因を自分に求め、自分を責めてしまう。そうなると、今までならそれほど気にならなかった日常でも、ストレス要因だらけになってしまうのだ。また、自分に対する解釈・評価が適切でないと、そもそも自分自身と向き合い、受け入れることさえ避けるようになる。自分を受け入れ、自分をコントロールすることを手放せば、自分以外の他人や環境の影響を左右され続け、ストレスは増すばかりだ。
本人の可能性を信じて待つ
メンタルヘルス不調者の実態の一端を紹介したが、改めて彼らを怠け者と言えるだろうか。もがいてもがいて、それでも何とかしようと行動し、自分を責め続けているのだ。そんな彼らを前に周囲に人はどう対応するとよいだろうか。
あるメンタルヘルス不調になった40歳代の男性と面談したとき、「ここまでよく頑張ってきましたね。今は一旦休みましょう。」と声をかけた瞬間に、緊張がとけた表情になりボロボロの涙を流されたことがあった。きっと、これまで必死になってもがいてこられたのだろうと思う。仕事や家事、身の回りのことができなくなっても、その人が日々戦い続けている、今日まで継続してきたことは、間違いなく承認できる。何もしなくても、その人が今ここにいること自体にも価値がある。そんな思いで関わりって頂きたい。
一方で、身近な人が苦しんでいるのを見ると、手を貸したり、アドバイスをしたくなるが、適切な解釈ができない不調者にとっては、さらに自分を責めたり、苦しむきっかけになることもある。だから、いつでも力になれるという姿勢は示しながら、本人を静かに見守って頂くことをお勧めしたい。そして、本人の力で乗り越えいけると信じて待っていて頂きたい。
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<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
日本産業衛生学会 専門医・指導医
労働衛生コンサルタント(保健衛生)
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
日本産業ストレス学会理事
日本産業精神保健学会編集委員
厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの
耳』」作業部会委員長
「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」