アパレル企業の顧客目線と顧客理解
アパレルに限った話ではないが、「顧客目線」「お客様目線」という言葉を本社や店舗で耳にする機会も少なくない。
ただ、この「顧客目線」とは具体的にどういう事か、アパレル企業での顧客目線を私になりに考えてみた。
1.顧客目線
考えてみてほしい。
社内や店舗で顧客目線の言葉を使う時、実は顧客目線=自分目線になっていないか。
例えば、
「お客様の目線で考えると〇〇だと思う」という発言は、
実は「お客様の目線で自分が考える限りは〇〇だと思う」に近い。
このように顧客目線を自分目線にしてマーケティングやコミュニケーションをしてしまうと最大限の効果を出せないどころか顧客の信頼を損なう可能性すらある。
私が定義する顧客目線とは、「定量的顧客理解」と「定性的顧客理解」をした後のステップで初めて顧客目線になることができると考えている。
『顧客理解』した者だけが、顧客目線になれる。
2.定量的顧客理解
定量的顧客理解とは、自社の顧客データを数値化して表し、統計的に顧客を数字で理解する事。
第三機関の保有するリスト(実際に自社購買データはないが同じような属性の認知度や好意度を調査する事)に対して数値化する動きも未だアパレル企業では多い。
1.自社で保有する定量的顧客理解
定量的顧客理解とは、マーケティング部、PR部、CRM部等が担当部署になり、自社の行動データ、購買データ、顧客データ等から流入経路、購買率、年齢層などを分析、さらにはRFM分析、デシル分析、クラスタ分析等グルーピングしてマクロとミクロの視点で定量的顧客理解をする。
2.第三機関が保有するリストの数値化
アパレル大手企業はマス広告等を実施する際、第三機関の調査企業に依頼して、自社ブランドの認知度調査や顧客理解のためのアンケートを実施して数値化。それを元にマーケティング施策やPR施策を実施後(特にマス広告)、どう数値化が変化したかで施策の○×を判断する事がある。
しかし、私はこれらの第三機関が保有するリストの顧客理解は自社で保有する顧客理解より優先順位は低いと考えている。
理由
1.外部の調査企業が保有するリストがどういう形で収集されているか明確でない。(実購買者でない可能性)
2.どういうリストなのかわからないのに、それらのアンケート調査の結果を信用して良いか不信感がある。
3.KPIを認知度向上にする事が多いが、認知度が増えたところで売上拡大できなかったら意味がない。にもかかわらず、認知度上がったら喜ぶ。
4.自社の顧客理解の方が優先にも関わらず、それを理解する前に外部の調査企業に依頼しているので実顧客とギャップが生まれている可能性があるがそれすら認識できていない。
上記理由で、
まずは自社の定量的顧客理解を第一優先にしていくべきと考える。
3.定性的顧客理解
定性的顧客理解とは、自社の顧客の数値化ではなく、顧客の自社ブランドに対する考えや顧客のリアルなライフスタイルの理解を深めるために情報収集・理解することである。
これらは第三機関のリスト活用との違いは、自社が保有するリストに対して行うという実際の購買顧客に対してという部分である。
例えば、自社の顧客にアンケートで質問をして、その情報をどう活用するかを考えてみる。
*実際にどこまで踏み込んだ質問まで可能にするか、どう聞くかは要検討。
しかし、パーソナルな情報なほど、収集が難しいと思うかもしれないが、難しいからこそ重要度が高い情報の可能性もある。
質問1
1人暮らしですか?家族と暮らしていますか?
活用方法:
会員情報が同じ職業・年齢の場合、家族と一緒に住んでいる人の方が可処分所得が高く、毎月ファッションに費やす金額も多い可能性がある。
それが理解できれば、アップセルを狙えたり、リピート促進による購買率が高かったり、購買回数が高い顧客に育成できる可能性がある。
さらに家族と暮らしている人には、同居している家族の誕生日を追加で収集する事で、家族の誰かの誕生日にバースデーメールで接触頻度を増やせる上、ギフト購買も狙える。
余談だが、本人のバースデーメールを誕生日月に送るのはまだ分かるが、家族のバースデーメールを送る際は、誕生日より3週間から1ヶ月前に送る方が良い。当月にすると誕生日プレゼントを既に買っていたり、リードタイムを考えると当日に渡せない可能性があるからだ。
質問2
彼氏・彼女いますか?
活用方法:イベント(クリスマス等)コンテンツを配信する際、自分需要を訴求するか、ギフト需要も訴求するかが変わってくる。
質問3.
何のスポーツを一番応援しますか?
活用方法:どのジャンルのスポーツがニーズあるかを把握することで、コラボ先やタイアップの選定基準にもしやすく、既存顧客に対しても売れる可能性が把握できつつ、さらに新規顧客の獲得も見込める。
これらのようにアンケートは現状把握ではなく、活用ベース(アクション)で考えていく必要があり、定量的顧客理解と定性的顧客理解は2つ一緒に考えていくことで精度高い活用ができる。
「ライフスタイルニーズ」と「マイクロニーズ」を把握する事が重要
4.顧客理解
今後は、顧客の情報、顧客のライフスタイル、顧客の声(SNS、問い合わせ等)をもっと積極的に取りに行き、プロダクトアウトよりマーケットインの商品開発も強化・挑戦していくべきである。
物を買ってもらうため理解ではなく、物を買ってくれた人の理解も深める必要があると思う。
顧客は1つのブランドだけで1ヶ月の全ての可処分所得を使い果たす人は少ない。ほぼいないと思う。
それすらも理解しないで、毎週のように買ってもらうためのコミュニケーションをとって意味があるのか。
5.体制
本社にいる現場出身の担当者だけではなく、現在現場の担当者がプロジェクト参加する事が必須である。
デジタル上でのアンケートという手段があるかもしれないが、EC化率がまだ50%ない企業が多いわけで、会社売上の大半を占める店舗顧客の情報は第一優先である。更に顧客をファン化できれば、重要な情報も普段の会話から聞き出せる可能性もある。
だから、現場の人を必ずプロジェクトに入れる事で、「顧客情報の収集」と「今後やっていこうとする方向性」の認識を強くインプットしていく事ができる。つまりキーパーソンである。
6.まとめ
「顧客理解をして、顧客目線になる」目的はファン化させる事
顧客理解できれば、適切なタイミング、適切なコミュニケーション手段、適切なコンテンツ、適切な商品を提案でき顧客満足度を上げて、ファン化できる可能性が高い。
顧客理解循環(1→2→3を繰り返す)
1.顧客理解できれば適切なコミュニケーションで顧客満足度を上げられる
2.顧客満足度をあげる事でファン化できる。
3.ファン化する事で更に顧客理解の精度が上がる。
4.顧客理解の精度が上がれば顧客と適切なコミュニケーションが取れる。