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「高校生の気持ちを置き去りにしない」 ある失敗から学んだ大切なこと

私は「子どもの居場所」でさまざまな事情を抱える子どもたちをサポートするかたわら、2023年からは「高校生の居場所」事業も担当しています。この事業を進めるうえで私の指針の1つになっているのが、入職当初の苦い失敗経験です。
今日はその出来事についてお話ししたいと思います。

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失敗経験をお話する前に、カタリバとの出会いについて簡単にご説明します。

私は学生時代から教育に関心があり、大学2年生のときに「出張授業カタリ場」のボランティアに参加しました。社会問題に向き合い、かつ楽しみながら仕事ができることに大きな刺激を受け、卒業まで続けました。

卒業後は民間企業に就職したのですが、30歳直前に転職を決意。自分が一番大事にしたいことは何かを考えたとき、カタリバの仕事が一番マッチすると感じて「子どもの居場所」スタッフに応募したのです。

そして入職後すぐに出会ったのが、高校1年の男の子・Aさんでした。
「子どもの居場所」がある地域では当時、高校を中退する生徒の存在が大きな課題となっていました。Aさんも家庭の事情などさまざまな問題から、高校入学後すぐに「中退したい」と言うようになっていました。

Aさんと少しずつ関係をつくり、いろいろな話をするようになってからは、彼も気持ちが落ち着いてきて中退を口にすることが減っていきました。ところが、新型コロナウイルス感染症で休校が続くようになると、再び「高校をやめたいと」と言い出したのです。

「今すぐ仕事をすればお金も稼げるし……」と、彼なりに考えを話してくれたのですが、私にはそれが短絡的な結論に見えました。なぜなら、彼が少しでも誰かに頼ったり学校につながろうとしたりすれば、まだいくらでもやり直せる段階だったからです。

しかし、彼はラクな方に逃げようとしていて、そのことに疑問すら持っていませんでした。それで、2時間くらいかけて中退を思い止まるよう説得しました。
最終的には彼も納得し、「中退届は出さず、先生に相談してみよう」ということになったんですが……。

数日後、彼から「中退届け出してきました」と聞かされ、私は何も言えませんでした。
その後、彼は家族の都合で転居し、結局彼とは詳しい話ができないままとなってしまいました。

これは苦い失敗として、今も私の心に強く残っている出来事です。あのとき、頭ごなしに中退に反対するのではなく、彼の将来を中長期的な視点で考えて寄り添っていたら、対応も結果も違っていたのではないかという後悔があります。

サードプレイスで子どもたちと関わるということは、中退するかどうかといった局所的なことだけではなく、もう少し長いスパンで子どもの人生を捉えてコーディネートする必要があるのではないか。そう思うようになりました。

それから3年後の2023年、カタリバでは高校生へより手厚い支援をするため、自治体と協力して高校生向け居場所事業を立ち上げ、私もその運営に携わるようになりました。

新しい試みであり、多くのステークホルダーの考えや立場の違いもあって、さまざまな意見がぶつかります。ともすると、高校生を置いてけぼりにし、彼らのニーズと離れた形に向かいそうになることも少なくありません。

そういうとき、指針の1つにしているのがあの失敗経験です。すると、一番大事にしたいのは今実際に現場で起きていることと、そこにいる高校生たちなのだと気づくことができます

日々の高校生との関わりのなかで起きる事柄には、次へのヒントや答えが隠れていることが多くあります。それをキャッチできるのは、現場にいる私たちスタッフしかいません。

だからこそ、私たちがしっかり現場のことを伝え、高校生の本当の支援につながるよう考えることを忘れない、絶対あきらめない。高校生の気持ちを置き去りにしない関わりをしていきたいと、改めて思うのです。

今回のコラム担当:前林正洋(まえばやし・まさひろ)/「子どもの居場所」

大学卒業後、発達障害児支援を行う株式会社に入職し、教室長として店舗の管理や人材育成、現場での療育、保護者支援を行う。多様なステークホルダーと連携しながら、若者支援ができることを魅力に感じ、NPOカタリバに転職。困難な環境にある中高生たちの支援に尽力している。また学校や行政ともパートナーシップを築きながら、校内居場所プロジェクトの立ち上げ、行政との協働による居場所事業を運営している。