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『生は彼方に』読書感想。
詩人ヤロミールと母親の近過ぎる関係が印象的な作家ミラン・クンデラの半自伝的小説。
世界を愛し過ぎているが故に世界が許せない。
世界の負の側面を”裏切り“と見なすミラン・クンデラは三島由紀夫とよく似ている。
両方共大好きな作家で、共通点としては主人公やその他登場人物に対する皮肉が微細な所まで効いている所。
細かく掘られた版画版に鮮やかな色の砂粒を撒き振るったときのように人や世界が鮮明に見えてくる。
揺らぐ世界を見つめる繊細な視点は、生きづらさを抱える人間に寄り添う優しさに満ちている。
恐らくそれは作家本人も絶望を抱えながら生きているからなのだろう。
45歳で自ら命を絶った三島由紀夫と、現在93歳、ご健在のミラン・クンデラとは選んだ道は違うけれど、根底に流れているものは同じだと思う。
純粋過ぎるが故のアイロニック、絶望から産まれる救われないものに対する繊細な温かさ。
2人とも何者にもなれない者に対する鎮魂歌とも言える小説を多数生み出せているのはそれ故か。
似ているといえば、このミラン・クンデラの視点は伊集院光とも似ている。
母親と浮気している画家に対する皮肉たっぷりの揶揄は、〝キリスト教も男根崇拝も元を辿れば同じっしょ〝と言わんばかりの清々しさで溢れている。
性欲をさも高尚であるがように語っている画家に対するアイロニー。
その辺を暴き出す手腕、センスの良さが両者とてもよく似ているように思えた。
ミラン・クンデラはよく音楽的と称されているけれど、楽譜も読めないくらい音楽音痴な私にはその辺りは正直よくわからない。
けれど、それでもわかるのが”言葉のリズムと間の取り方の気持ちよさ“。
西永良成さんの素晴らしい翻訳のおかげだろうか。
翻訳でこんなに気持ち良いなら、原文はそれ以上なんだろうな。
この気持ちよさがあるから何遍でも読み返せる。
素晴らしい小説です。