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傘と包帯 第七集

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詩を書いてもらいました。目次からどうぞ。
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目次

2019.08 024+1 ೫ Profile 序文・偶然の中心 / 早乙女まぶた 201906062875 / ひのはらみめい 初夏の寝室 / いいな 非意味の輪郭 / 深井一 回想 / 昭架 マイナー / 煩先生 嫉妬と幽霊 / 珠子 夏痩せて微熱 / 鯨野 九 水 / 末埼鳩 花火 / 清水優輝 非在の翅 / 岩倉文也 remora / 水槽 よいどれ船 / ねはん 集・二 / 諍井寄人 夜總 / 間富 AM 5:15 / 岩崎航

序文・偶然の中心

すべての言葉には意味がない。たとえばぼくの詩には意味がない。 意味のないものが何故そこにあるのか。 そういう目で現実を見つめ直すとき、きっと発見できるはずだ。すべての言葉、すべての出来事はそこにそのようにあること自体が意味なのだ。 意味はつねに逆説的に理解される。それはきみたちの内側に宿っている。 たとえば何もかもうまくいかないで気分が塞ぎこんでいる時、恩寵のように言葉と出会うことがある。前後の文脈も歴史的な経緯も関係なく、そこだけが強烈に照らされているように浮き出て見

201906062875 / ひのはらみめい

発達障害による発達障害のためのパレードが世の中のそこかしこ傍らで行われている かたわのわたしはそれをひたすら見ている 読みにくい本を片目で見るなどしながら 右側はもう動かないんだって自由にならないんだってそれならわたしは左側のカラダだけで動いていくしかない。 左側しか使えないけれど思想はバランスよく右も左も太い脳梁に守られています。 壊して欲しい壊してほしいと望みながら、泣くまで殴られ続けるのは嫌だという強い気持ち。 仕事はドラッグ、体に悪い、 麻雀はできても仕事には行けな

初夏の寝室 / いいな

寝室はしとしとしと、と、 初夏の雨の音でいっぱいだ 隣室からはしゃんしゃんしゃん、と、 家族が聴いてる音楽が 雑音みたいに漏れる ベッドに腰を掛け 煙草に火をつける ちょっとお腹が痛いな 死への憧れと恐怖が からだに満ちていくのを感じて 思わず眼を閉じる ちいさな豆電球ひとつの寝室は まるでぼくのこころみたいだ 雨音も雑音も少しひんやりした空気も それに夜そのものも、ぼくみたいだ 煙草を消して、水を飲み、横たわる 寝室に置いてるものは少ない デスクもハンガーラックも本

非意味の輪郭 / 深井一

「意味」の意味とか 「解釈」の解釈とか そういった種類の言葉遊びが 言語の裡で許されているためには 意味という語の意味や 解釈という語の解釈が 意味や解釈という名辞に先立って 言語の外のどこかあちらの方角から あらかじめ定められている必要があるという (概念という概念が存在することについて) それはつまり わたしたちが普段いうところの 意味や解釈という語の意味は まったくもってそれらの意味ではないということになり 瞬間 あらゆる記述は言語的真空へと吸い出される (だが真空は

回想 / 昭架

足し算と引き算で生活をする 体と心をスライサーにかけ、 眠った間に見つけ集めた灰で 焼いたケーキ、ひとの味がした 軸がないので何処へでも行ける 羽がないので靴を履いている 手元に残った厚紙模型に あの日の雨が染み付いている

マイナー / 煩先生

鉤の乃祖は 能詮に凝って 鴎外で督し 退行を圧した 敷く疲痩で 兵器を僭して 明鑑で令し 林政に魅した 凪の海鼠は 鉱泉に乗って 頭蓋で臆し 愛好を達した 惹く駛走で 清気を偏して 霊感で瞑し 眠性に利した

嫉妬と幽霊 / 珠子

焦燥に追われて帰路に着く この坂道の上 わたしは本当にひとりだった 街明かりのイルミネーションが陽炎に揺れ むせ返るような若草の香りが思考を鈍らせる ここには わたしひとり ひとりしかいない それは 孤独とはまた別のもので 誰しもが抱えて生きている わたしというひとつの生命 腐り落ちた脚を引き摺って帰る 落ちた花の首を拾って捨てる 花が腐っていくことにも 月が痩せていくことにも 気が付かないような生活など 生活などは 浴槽の中 濁り切った感情

夏痩せて微熱 / 鯨野 九

夏の終わりに 熱病は醒めて リハビリのように 老いてゆくだろう 死んだふりで 隠れてみても まどろみのように のたうちまわって 泣きたい想いで 優しい手つきで 痩せた骨を抱く 私に潜む灰色を 夏の終わりに 微熱を繋いだ リハビリのように 憔悴を引きずって 死んだふりで 諦めきれずに まどろみのように 生きてゆくだろう

水 / 末埼鳩

目覚めると頬が濡れていた 水曜は不燃物回収の朝 ガラスの触れ合う音が響く 灰色の街にそぼ降る細かな雨 電車には乗りたくない 生温い肌、生乾きのにおい、真っ黒に開いた口 私は濁った水槽の中 よれたスーツと汗ばんだ制服の隙間から外を見る 水色のあじさいが線路沿いに咲いている 私はそこに意識を注ぐ 深緑の葉の上に落ちて弾ける水になる 水星に行きたいと彼女は言う プールサイドの雑音に声が紛れる ビニール床と揺れる水面 ここは水に恵まれた星 むき出しの肌、カルキのにおい、金具についた赤い錆 あの子たち魚みたい 紺色の水着が描く無数の曲線 波打つスカートの膝の上で指を組む ありふれた鈍い痛みに耐えながら 銀色の鱗を剥いで血を流す 目覚めると頬が濡れていた タオルケットに包まれたまま イメージの断片を反芻する 張り巡らされた管、仄暗い宮殿、温かな水 水底に銀の鱗が降り積もる 真っ白な足、枯れたあじさい、淀んだ水 粉々にされたガラス瓶でできた丘 私は水に戻りたかった でもそれは叶わない 叶うわけない だからただ、視界だけが、水に溺れる

花火 / 清水優輝

 東京に出てから何年も地元へ戻っていなかった。実家の最寄り駅へ向かう電車は高校の頃から何も変わっていない。3両しかないぼろい電車。乗客は少ない。夏期講習にでも行くのであろう中学生が英単語を開いて眠りに落ちた。しわくちゃのおじいさんは着信の止め方が分からず、「木星」を流し続けている。天井には扇風機が設置されており、懸命に首を回して、乗客に温風を送る。汗が額から何度も垂れてくる。  降りた駅のホームにプール帰りなのか髪の毛を濡らしたままの少女がいた。タオルが詰まった透明のビニール

非在の翅 / 岩倉文也

夢の中あるいは街の中で ぼくは頻りに話しかける ぼくの天使はどこへ行きましたか? ぼくの言葉は何をしていましたか? いつだって先に予感があった 未来は庭の椅子に腰掛けていた ところどころ欠けたぼくの天井から 洩れ入る光 それは音のない記憶だった 非在の翅をもつ人 非在を生きるやさしい人 ぼくはあなたのようになることはできない 世界はそこで行き止まり ぼくはもう話さなかった 白紙の手紙を いつまでも握りしめたまま

remora / 水槽

(少年少女)は雪のよう、 ちり紙からレタスを創り出した彼は 林檎飴原理主義者の彼女をもう一度産もうと考えた 駅前で、或いは輝く白い目で 花蕾を食べる幼き手指を おもいだす ティッシャーは冬の光を配り終え、聖職者は日陰で休む 口から六角形の泡を飛ばしながら老人が怒鳴る 公園でサラリーマンがにやけているあいだ母子寮に白い犬が留守番し 冷たい土にキャベツが膨らみ 烏が突いたゴミ袋からは生理ナプキンが雪崩れている 道徳を習わない国にも道徳があり南向きのバルコニーからシャツが自殺す

よいどれ船 / ねはん

『ただひとこと ひかり  ただひとこと こころ と  みじかくするどく言えばよい』 『afterward』『松浦寿輝』 私のこころの所在を探していた。 最初の小説を読み始めたきっかけはそのようなものかもしれない。 見つけると安堵して頭の中で呟いた。 宝物のように抱きしめながら。 けれど、一体、それがなんだというのか。 宙に浮いたまま、安堵の快楽を求めて、波に揺られた、船に乗ることもせず、見送った、私の魂を。 貴方は言う。 君は一体何処にいる? 正直に