よいどれ船 / ねはん
『ただひとこと ひかり
ただひとこと こころ と
みじかくするどく言えばよい』
『afterward』『松浦寿輝』
私のこころの所在を探していた。
最初の小説を読み始めたきっかけはそのようなものかもしれない。
見つけると安堵して頭の中で呟いた。
宝物のように抱きしめながら。
けれど、一体、それがなんだというのか。
宙に浮いたまま、安堵の快楽を求めて、波に揺られた、船に乗ることもせず、見送った、私の魂を。
貴方は言う。
君は一体何処にいる? 正直に素直になりなさい。
消えることに慣れてしまった私は言う。
私自身とは貴方が決めることで、私が決めることではない。
すると貴方の嘲笑。左様ですか。旅にでも出たらどうですか、と。
見送った船は海の真ん中で今でも誰にも見られないまま漂っている。
誰もいない線路の上を歩きながら木霊する声と、
続く空間に私はまだ入ったことがない。
その先のひかりの空間、
そこには新鮮な空気が流れているだろうか。
そこに私のこころはあるのか。
いずれ入るのであろうその空間に私の居場所はあるのか。
船が難波しそうになる。
ターナーの絵画のように。
それを遠くから眺めていた。
もう後戻りは出来ない。
私は見送った21gの魂を添えて海岸沿いへと歩いていく。
(愛の欠如)或いは(愛の冒瀆)
未だ私には命の尊さがわからない。
失ってしまえばそれは全てなかったことではないか。
太陽によって渇いた景色、それが私には思い出せないのだ。