kasatohoutai
詩を書いてもらいました。目次からどうぞ。
2021.12 022+1 ೫ Profile 序文 盗まれた天使 / 早乙女まぶた 街 / 白神つや 文明 / 涅槃厨 「元気?」と(注釈) / 橋木正午 散歩 / すこやかありさちゃん ウ / ひのはらみめい 雪の層 / 末埼鳩 おはようまぶた / 水槽 無題 / 大川啓 ムードゥ / 煩先生 ぼくの宿敵 / 岩倉文也 私へ / うなぎ モーゼ / 鯨野 九 誰かを待った / 象徴 機械仕掛けの国 / 深井一 グッバイ・ウィ
<芸術作品というものは、それ自体が美であるわけにはいかない。なぜなら、作品は死んでいるからだ。>*1 人類のすべてが消え去ったとき、芸術作品とはもはやなにものでもない。人類のすべてというのは、「人類のすべて」をなにか実体のあるものとして思い描く君の意識のことだ。他人が何に感動しようと何に拍手を送ろうとそれがなんだというのだろう。ごくシンプルに、頭で考えるよりもシンプルに考えるなら、自分が感じたことが世界のすべてだということが明らかになる。もし芸術作品という物言わぬ死骸に何ら
猫といっしょに それぞれのすてきな死を 待つ日々 人間にあたるところの まつげに触るような街は 白内障だった 白い塔が 今朝も連なっているだろう いくつもの予知は 皿に乗ることはなく どれだけのことが ぼくになるのかを知らない いずれ燃やされる 日のことを期待して、 陽射しに期待されていて トーストを食べ終わると 失透された遺体袋があって ひきずっていって ぼくらしさだけほうわする ほうわする 言葉だけでは 死んでゆくことができないから、 しゃべりつづけている街。 の方角をふ
大昔に永遠になってしまった、もの、ごと。 歴史未満の枝葉、省みられない人たちの 生活。うたかた。 なににもなれなかったちいさな地球。 大きな破壊。何度目かの。 (おおきな、本屋さんの 本棚、に置かれた、粘菌の本。を手に取って、 本屋さんに来る前に買おうと決めていた、 本と一緒にレジに、 持っていった。)神さまはどこに隠れてしまった のだろう。私たちは あなたのことばにしたがって、よく働き、 よく耕し、 そして、繁栄しました。(実に
仕方ないからすべてを望もう ろくでもない色をした靴下の底から だだをこねる君が引きずり出され 日の光の奥に目を細めること (季節なんて関係ないかもしれない) 朝食のスープにうんざりして 外の音ばかり聴いている そのうちなぜだか微笑みが産まれ 膨らんでちいさな幸せになること (胃から戻したブル・ショットのような味) そして身をもたつかせて すべるように、また踊るように駆けていって 遠くまで、どうか遠くまでいってしまって それでも帰ってこれると知ること (地球は丸いのになぜ
夜の病院から 目的地もなく歩く とぼとぼ歩く 街灯に照らされた木 赤の枯葉が ひらりと舞う それを 目でゆっくり追って 地面に落ちた枯葉を バリッと踏み潰す 秋の突き刺す寒さが ぼくの心も容赦なく突き刺す 寒い 病気がどうとか この先がどうとか アイツがどうとか なんだか知らねって感じ 煙草を吸って カルピスを飲んで 道端にゲロを吐いた なんて悔しい人生なんだ 鼻水と涙にまみれて とぼとぼ歩く 今日も明日も この病院から
練馬区で中古のセダンが 大きなウシガエルを轢き殺した 財布に入れていたはずの落ち葉がどうしても見つからずに交番に行っている間に 事件は起きた ウシガエルは山田くんのもので 患った肝臓から代謝できなかった暗い過去がこぼれ出ていたのですぐにわかった 名前がついていたはずだが どんな名前だったかは覚えていない 山田くんは結婚してインドに行ってしまい ウシガエルだけが練馬区で一人暮らしをしていたから せいぜい手紙のやりとりがあるかないかだった 山田くんもウシガエルのほうも、近所では有
空き地に雪が積もっていた。まっさらな雪の表面は柔らかく、細かな結晶の重なりが銀の糸のようにきらきらして見えた。私はその雪へ、背中から倒れこんだ。怖がらずまっすぐ倒れると人型に雪がへこむ。両手両足をワイパーのように動かすと、人型だったへこみが袖と裾の広がった天使のような形に変わる。私は晴れ渡る空を見上げながらそうやって天使をつくり、そのへこみの中でぼうっとしていた。ふと、圧縮された雪が崩れていくようなくぐもった音が耳元で鳴った。私は天使型の穴を通って雪の下へと沈んでいった。
重い瞼をひらくと 外は雨 部屋に漂う 蛍光色の蝿を 詩となづけて以来 、 とにかくおはよう。 外は雨。 おもいだすね。 蝙蝠傘の下で 逆さに降らせたすべての雨が あのくそうつくしい空を打ち鳴らして… それは ちょっと大袈裟だけど また雨が降る。 そんな雨が降る。 たった一度のかすり傷、 洗い流せる雨を待つ。
草を持った少女の傍らで 白い蝶が一匹 香水のようにゆれていた 私はそれを見つめていた じっと見つめていた 私以外に誰もいない 私以外に そんなものを見つめるものは誰もいない そのように私は願っていたかっただけだ 目を閉じても無声映画は進行を続ける そのような寛ぎを私は感じていたかっただけだ ここは広い場所 広い清潔な場所 蝶や少女は美しくも醜くもなく だから私はすっかり安心していた 今日の後ろにおびただしい死があり 今日の前にもおびただしい死があるだろう そのように私は言って
挨の大憲で 逃毀を捺して 告の葉層で 矢視を隠した 礼器の聘で 粃糠を理して 小祠の蜜で 銘仙を節した 戴の愛見で 嘔気を賭して 浴の香草で 嫁資を約した 兵棋の癘で 里堠を比して 妙詩の湿で 精銭を滅した
上ばかり向いていると魂が轢かれる 引き摺られる 飛行機 に 拉致された夢が また ゆめみてるくずおれた塔を 遠目に ぼくの来歴は透かされた影になる から 虚ろをさまよい歩く 在処 を 探している 沼に足を突っ込み こみ上げてくる嘔吐感を堪えながら 降り 雪がふり 振り向けば 真っ白な意志を返して欲しいと叫ぶ んだよぼくは まだ 豆粒のようになって 見下ろされてんだ 鷹の目 高みに立った鴉の 残酷な告解に 恋に 破れたときもあったが 頭が 冷え切ってなにも感じない 何もかもが
終わりの国の物語。誰も知らない滅茶苦茶な話を紡ぐあなたが私? 青い小鳥を白く塗り、ここにあの子はいませんと震える声で嘘をつく。 干涸びたくちびるなでる花びらが私に見せるまぼろしに視界が揺らぐ。私は眠る。 お城があったはずなのに、まばたきをした一瞬の間に月が落っこちて 「あーあ、またいちから作り直さなきゃ」 この声を私は知っている、たぶん。 それは、まだ自分がなんにでもなれる、自分にはほかのだれもが持ってない才能がある、特別な存在だって信じてたはるか昔の私自身。 もう目覚めなく
何千メートルの山頂に立つより あなたが 絞首しようとして登る椅子に 登る一足だって辛いんだ くしゃくしゃ煙草を呑む あなたが 自分に火をつけようとする震えが マントルの炎を凌駕する 死なないでくれって 無責任だろ 最も強固な断崖で 生きようよと無責任に呼ぶ 好きなんかじゃ溺れる海 わたしが いなくなっても あなたを おぼえていたい 林檎を咬みしだいて 青空に吸い込まれそうになって 裸を恥ずかしがって それで、わたしにきづいてほしい 雷鳴、害虫、日照り、嵐、嘔吐 こ
海が波の繰り返しからできているように、私もまた、単純な反復からできている。寄せては返す波のなかで、どの波を憶えていられただろうか。それは目にうつる色彩の一つ一つもそうで、綴った言葉の一つ一つも、匂いも、温度も、声も。どれも汲み尽くすことはできない。いくつもの波を忘れ、そして思い出してきた。海を見るたびに、遠い過去に忘れたものを思い出している。だから海は遠い。目の前にあるものすべてが遠く、そして最も近いものとなる場所だ。いま、遠い過去に誰かが感じ取った、波という、言葉では言い尽
29年前のある冬の日 わたしはこの機械仕掛けの国にやってきた 晴れた夕方の入国だったと伝え聞いているが 当時のわたしは感官の時空的形式に無知であり 記憶を残すことには失敗している 見知らぬ世界で右も左もわからないわたしは 一組の男女のもとに身を寄せて この国の道理を学ぶことになった 機械仕掛けの道理を、つまり のちに父母と呼ぶことになる件の男女や その他の人間たち、馴染みの野良猫 照りつける日差しに、頬を撫でる風 そうした一切の自然の風物が、それぞれ 精巧なる自動機械であり