見出し画像

大きなコバルトブルーの空とおっかない先生

 
「また注意されたの?」

列の後ろに並んだ私に
友人は首を斜めにして少し顎を上げてそう言った。

校舎に隠れたテニスコート。
草木たちが横目で見ている。

順番にボールを打った後に
睨みつけるように見ていた
おっかない、熱血先生に手招きされて
アドバイスを受けた。

うまくいかずに
よく呼びとめられる私は、
友人たちの視線を背中にじんじんと
感じていた。
思春期の頃、人より目立ったり、
人より劣ることを嫌った。

熱心な友人は
私へのアドバイスも自分に活かす
から、後から内容を教えてという。

でも、その時の先生はいつもと違った。
眼鏡の奥でかすかに笑って私に言った。

「よくなってきてるぞ。がんばれ」

中学1年生の夏。
スキップをするような気持ちを抑えて
列の後ろに並んだ。

友人に、私はこう答えた。

「違うの。褒められたの。」

遠くから見てもうきうきしていたのだろう。

「調子にのるなああああああ。 校地1周走ってこい」

おっかない先生の怒鳴り声が、はみだしたコートに響き、
校舎が大きくうなづいた。

皆がくすくす笑う中、
一目散にコートを出ると、
目の前の急な坂道を一気に駆け上がり、
空を見上げた。

嬉しかった。それでも、私は嬉しかった。
おちこぼれだったけど、初めて、テニスに近づけた気がした。

コバルトブルーの空は、眩しくて、とても遠くて、大きかった。
未来という文字さえも飲み込んでしまっていたのだろう。

私は、右手のラケットに力を込めて、速度をあげた。

指導が厳しいと前評判を聞いていても、それこそ青春だと憧れて入ったテニス部。
3年生の先輩たちは辛かったけど、あの先生で良かったと話してくれた。

当然その後私は、褒められることはなかった。
先生の指導はたった1年だった。他校にいくことになってしまった。

「俺がいなくなるから嬉しいだろ。」
へんくつな先生は最後にそう見下ろすように横顔で言った。

「そんなことありません。
3年生まで先生の指導を受けたいのに残念です。」
中学生の私は言葉にはできず、視線を徐々に下に落とし
首をただただ、小さく横にふっただけだった。

長い時を経ても思い出す。
しかし、もう二度とあんなに大きい空を見ることはできない。



読んでいただきありがとうございます^_^ さらにサポートなんてしていだだけたら想像するだけでもありがたく嬉しいです。よろしくお願いします☆彡