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勉強したほうがいいとわかっているのに、なぜ勉強しないのか?
勉強はしたほうがいいということは多くの人が理解しています。私は学生の頃、親や先生に「早く勉強しなさい!!!」と叱られて、「今しようと思ってた!!!」「わかっている!!!」と怒りの感情がこみあげた経験がありますが、みなさんはどうでしょうか。この怒りの感情は、それほど勉強しなければならないとわかっているからこその反応といえます。
双曲割引
勉強しない原因の1つとして双曲割引というものが考えられます。これは行動経済学の用語で
「遠い将来なら待てるが、近い将来ならば待てない」
という意味で、言い換えると目の前の利益のほうが、将来、受けるであろう利益より魅力的に感じてしまう状態のことをいいます。
勉強の場合、勉強をすれば将来的に有益であることはわかっていますが、なかなか近い将来の利益を考えられないので、別の誘惑に負けてしまうという状態です。例えば、
勉強することで受ける利益(遠い将来)
1か月後、定期テストでいい点が取れる
通知表でいい成績がとれる
行きたい学校へ進学できる
知識が身について、社会に役立てることができる
勉強しないことで受ける利益(近い将来)
ゲームがたくさんできて楽しい
友だちと遊ぶ時間がつくれて楽しい
SNSを好きなだけ活用して友だちと良好な関係が築ける
好きな漫画が読める
というようなことが考えられるでしょう。私も含め多くの人が近い将来の利益=誘惑に負けてしまうというような双曲割引が作用して勉強しない原因の1つになっていると考えられます。
そうすると、これを打開するには「将来ではなく、今勉強することの利益」をアピールする必要があるということです。
授業でどのように勉強する動機づけをするか
そこで教員だった私は(各家庭の双曲割引については干渉しにくいので)授業において今勉強することの利益をアピールし、どうすれば生徒たちが自ら勉強する動機づけができるか2つのことを考えました。
1.生徒たちが興味をもつような教材研究をする
興味を持つことが今勉強することの利益と考えます。今、その学習内容に興味をもてば、自ら学習する動機づけになると考えました。これについては多くの教員が日々、試行錯誤をくり返し研究していることと思います。しかし、この研究は非常に難しいのです。
例えば、ゲーム性を取り入れた授業をした場合、生徒たちは授業中、楽しく学習すると思います。その理由は
A:ゲームが楽しいから
B:学習した内容が活用できるから
のいずれかですが、Aが多いのではないでしょうか。私が実践したとき、生徒にその授業の感想を聞くと「ゲームが面白かった」という回答は多かったですが、何を学んだかと聞いたときに学習内容の本質について答えられることは稀でした(私のやり方の問題かもしれませんが…)。ゲームに興味はもちましたが、学習内容に興味をもったとはいえませんので勉強への動機づけには、ならなかったということです。
このことから興味をもつような教材を研究する場合、ゲーム性などを採用したとしても学習内容の本質に興味をもつような教材にしなければ自ら勉強する動機づけにはなりにくいということがわかりました。その際、本質に迫る必要があるため、そのような教材をつくるには教員サイドの学習内容に対する理解の深度が求められます。この教材研究は膨大な時間、勉強、経験を要することになるでしょう。
※私は初任の頃から教材研究をしていましたが、納得いく教材はそんなに
できませんでした。学習内容の本質に興味をもたせる教材は、本当に理
想として追いかけたいものです。
2.取り組めば学力向上につながる教材研究をする
では、今勉強することの利益をよりシンプルかつ現実的なものとしてやればできることとします。さらに「今できる」という即効性を付与すれば、双曲割引の効果で「今できる」という近い将来の利益から生徒が自ら学習する動機づけになるのではと考えました。
そこで「できる授業」を構築し、できるから次の問題に取り組むというループ状態になることを目標としました。極端なことをいえば、「わかる」よりも「できる」を優先する、わからなくても、できるのであれば勉強する動機づけになるということです。できる状態であれば、今わからなくても、いずれわかるときがくる可能性があります。しかし、わからないし、できない状態であれば勉強をする気にはなりませんので、永遠にわかる機会を失うことになってしまいます。
「できる授業」をここ数年、実践しましたが、一定の効果があると実感しています。しかも、1の教材研究にくらべて時間を要しないので、どの教員の方でも考え方を変えるだけで、実践することができるという利点があります。
ただ、今できる即効性を付与するには教員の力量の向上は、欠かせないものといえるでしょう。
勉強以外にも私たちは日々、双曲割引にさらされています。誘惑に負けない心も大切ですが、誘惑に負けないシステムをつくることも同様に大切なのではないでしょうか。