【短編】仮初でなく、愛 テーマ:舟
前回のお話はこちらです↓
湖に浮かぶ小さなボートに、二人の美しい男女が向かい合わせに見つめ合っています。
栗色の髪の美女の名前は、カトリ。スーツを着た背の高いハンサムはレイといいました。
実は、彼らの正体は色仕掛け必殺人(ハニートラッパー)。
色仕掛けっていうのは・・・えーと、とにかく、スパイです。
そして、カトリの今回の任務は、ターゲットとなるレイをお片付けすること。
今日が任務の決行日。レイの背後の林には、スナイパーがいます。
「後ろから俺がやるからあいつをよく見てろよ。目配せが合図だ。そうしたらお前はピストルをやつに向けて、注意をそらすんだ。
お前は低俗なスパイだが、それくらいはできるよな?」
今朝、パワハラスナイパーから言われたことを思い出して、カトリはため息をつきました。
さて、気を取り直してレイに熱っぽく微笑みます。
「ダンスパーティで初めてお会いしてから、今日までがとても短かったわ。レイさん、わたし・・・」
「カトリさん。僕は本当に、いつの間にかあなたを好きになってしまいました。
しかし、僕たちは色仕掛け専門のスパイ。きっと信じてもらえないでしょうから、せめてこんな物語を聞いてくれませんか。」
カトリは疑いました。しかし、今だけでなくレイに惹かれる自分がいることにひそかに気づいていました。
むかしむかし、愛を知らない孤独な王女がいました。
可憐な王女は多くの王子から求婚されましたが、誰にも心をひらきませんでした。
しかし、ただ一人彼女を諦めなかった王子がいました。
王女は彼に尋ねます。「あたしのどこが好きなの?」
「それはね、きみの強くてかっこいいところを尊敬しているからだよ。」
カトリは、生まれて初めて向けられた親愛を感じました。目を閉じ、覚悟を決めます。
カトリはコートの中からピストルを取り出してレイに向けました。スナイパーと目を合わせます。
風がゆがみ、鳩たちは驚いて飛び立ちました。
「あたしなんて、そんな。」
「きみが愛を知らないのは、いつも戦っていたからじゃないのかい?きみの力は一流だ。だって、君の計らいで今までどれだけの町や人が救われてきたか。それは、同じく一流の僕だけが知っている。」
さあここを抜け出して僕と遠くへ行こう!と言い、王子はバルコニーに足をかけると、つるりと滑りそのまま落下しました。
王女は叫び、すぐにバルコニーから飛び降りて背の高い王子を捕まえると、姫抱きして軽やかに着地しました。
王子はどきまぎしながら笑いかけました。「ほらね、きみは強くてかっこいい女の子なんだ!」
「どうやら、そうみたいね。」
彼女もふっと微笑むと、そのまま森を走り抜けて遠くへ旅立ちました。
放たれた銃弾はレイの目元を掠め、スナイパーの手元の銃を撃ち抜きました。
スナイパーは呆気に取られています。
カトリは何が起こったかわかっていないレイの手をとり、ふっと笑うとそのまま都会の中へ、外国へと消えていきました。
走る途中、レイは嬉しそうに言いました。「ほらね、きみはやっぱり強くてかっこいい女の子だ!」
めでたし、めでたし。
花音を見ると、安らかな寝息を立てていた。
あたしったら、夢中になっちゃって。
お話作り、おもしろかったな。なこちゃんママには足元にも及ばないだろうけど。でも、またこういうの、話すの良いかも。
玄関の開く音が聞こえた。あの人を迎えに行く。
「おかえり。任務は遂行できた?」
Fin
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
素敵な画像をお借りしました。
スパイファミリー、リスペクト!
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