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【短編】夢で逢えたら

      太陽の光が木立をきらきらと照らす、ある晴れた朝のことだった。

  青年は大切な妹が暮らす村に帰るため、これから歩いて山を越え街を抜けた海沿いの先まで行かなければならない。彼が出発しようと立ち上がると、空から鶏卵ほどの大きさをした桜貝色のたまごが降ってきた。

  たまごはそのまま地面に落ちると、ピシピシと音を立てて桃色のヒナが誕生した。小鳥は青年をまっすぐ見つめると「ピャヒャア」と鳴き、足元に近づいた。

  「えぇ、おれ急いでいるんだけど。参ったな。」

  青年は、落ち葉で小さな布団をつくりそこにヒナを寝かした。その後しばらく歩くと、後ろから緑色の足をちょこちょこ動かしながらヒナがついてきた。戻す、出てくるを繰り返しため息をついた青年は、名も知らぬヒナを上着の胸ポケットに入れ旅立った。

  数日経つと、ヒナはハトくらいの大きさになった。ポケットには入らなくなったが、相変わらず青年の後をひたすらついてくる。

  翼の先は赤く、全体は夢のように美しい東雲色の鳥はどこからか仲間を連れてきたようで、彼らは数え切れないほど多くなった。

  山の動物たちは鮭肉色の集団を大きな獣と恐れ、街の住人は大道芸と勘違いしお菓子や小銭を投げた。

  どこかで自然破壊のテロ組織が集団で逮捕されたと風の噂が流れたが、青年は気にもとめなかった。何羽もいるハトのような鳥たちを気にかけ、後ろを振り返るのに精一杯だったからだ。

  青年は海辺で鳥たちにエサをやりながら言った。
「あの橋を渡れば俺の妹が暮らす村だ。再会を、夢にまで見たんだよ。俺は爆弾を背負って死ななくてよくなったんだ。お前たちも、村に帰ったらそこで一緒に暮らそうな。」

  青年は再び歩き出したが、鳥たちは動かなかった。代わりに、羽をパタパタとさせている。

  やがて、一羽が飛び立ち、もう二羽が空へ舞い上がった。巣立ちの時だ、と青年は驚きながらも切なく悟った。

  最後の一羽がゆっくりと羽ばたき、緑色の足で青年の肩に乗った。あのたまごから孵ったヒナだ。黄金の瞳を瞬かせ、青年をまっすぐ見つめると彼もまた天へ高く飛び立った。

  よく晴れた水色の空に、桃色の翼たちが輪を描くようにくるくると旋回した後鳥の群れは高く高く天へ昇ってゆき見えなくなった。

  青年は、あまりの美しさと寂しさに涙をこぼした。先が赤くなっている東雲色の羽が花びらのように降ってきて、彼を包み込んだ。

   花吹雪の向こうに人が見える。彼女も、はっとした目で青年を見つめていた。

「兄さん?」

  青年は言葉にならない声をあげて妹に駆け寄った。2人はきつく抱きしめあった。
  空は相変わらず青かったが、あの鳥たちの姿はどこにもなかった。

  海辺に散った花びらのような羽が、微笑むように青年の足元をくるくると舞っていた。

Fin

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。「夢で逢えたら」に尊敬と感謝を込めて。

前日談的なやつです。↓


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