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【はがきサイズの短編】 リエの父親 テーマ:落ちぶれる

こんにちは!高木梢です。

さてさて、今回のテーマは!どん!
「落ちぶれる」です!

人間が財産や名誉を失うこと…だそうです。

なんだかおもーいテーマに聞こえますが、この高木梢、バッドエンドは簡単に描きませぬのでご安心を。(その割に裏組織とか出てくるのってどうなの)

ぜひぜひゆるーい気持ちで読んでくださいね。
いつもありがとうございます♡


  とある駅前の裏路地に、小さな安酒の居酒屋「冥土」がある。そこに集うのは、昔を懐かしむ老人たちである。

 今日のお客は2人。名優だったが不倫し芸能界から追放されたトクさんと、宝石商をしていたが会社のお金を着服し続け一度逮捕されたタケさんである。

 2人の昔話はとどまることを知らず、六本木での派手なパーティーや出会った美女、武勇伝など華々しくも今となっては虚しい自慢話であった。

 長年2人を見てきた居酒屋の店主は、

 「毎度毎度、同じ話ばかりしてよく飽きないもんだなあ。」

 と呆れかえるばかりであった。

 その時、扉がガタガタと開き、5つほどの大人びた黒髪の少女が店に入ってきた。ツカツカと主人の前に立つと、

 「こんばんは。わたくし、リエと申します。このお店に、わたくしの実の父親がいると母から伺いました。」

 「父親?ここは普通の居酒屋だよ。迷子かな、歳はいくつなの?」

 「わたくしは母の命に従って参った次第です。歳は今年で5つ、母上のマリエ似でございます。母は六本木の令嬢で、生き別れになった恋人を探しております。」

黙って話を聞いていた欲深いトクさんとタケさんは、ここで父親とうまく名乗ってリエに気に入られれば、再び夢の六本木で暮らせるのではと企んだ。

  「嬢ちゃん、もしかして父親は俺かも知れねえなあ。ほら、俳優のトクさんって知ってるかい?ママも昔夢中になっていたはずさ!」

「知ってるわけねえだろ、何年前の話だ!みろ、リエちゃん!俺が父親だったらいつでも(会社に忍び込んででも)ジュエリーをあげるよ!」

 店主は、2人の必死の誘い文句の裏を見透かしてうんざりした目を向けた。

 しかし、六本木のマリエってどこかで聞いたような名前だ。

 少女はパンパンと手を叩いた。

「よろしい。ここにわたくしの父はいないようです。なぜなら、父は母から逃げるため家を離れたそうなので、母似のわたくしを見たらあなたがたと全く違う反応をすると踏んでいるからです。では、ごきげんよう。」

 少女がガラガラと扉を開けると、そこには柄の悪い男たちが大勢でお辞儀をして待っていた。リエは彼らを率いて夜の闇に消えていった。

 店主は叫んだ。

 「思い出したぞ、六本木のマリエ!闇組織の女帝の名だ!」

 トクさんとタケさんは震え上がった。

 死ぬ前に変な話に関わらなくてよかったと心の底から思った。

居酒屋「冥土」の提灯は、変わらず赤く光っていた。

Fin

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。素敵な画像をお借りしました。




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