【はがきサイズの短編】とにかくサプライズ テーマ:ゲリラ
こんにちは!高木梢です。
今回のテーマは、の前に・・・。
なんと、尊敬するフォロワー様が私の記事を紹介してくださいました!!
とても素敵な言葉をつかう方です。温かい文章で綴ってくださり、ありがとうございます。感動したので、こちらでも紹介させていただきますね。
今回のテーマは、「ゲリラ」です。
百科事典や辞典によって若干ニュアンスが変わるかな?と思いますが、「正規部隊ではない」、「小部隊による奇襲などで敵を混乱させる戦法」だそうです。デジタル大辞泉が、私が持っている国語辞典と一番近いかなと思います。
物語を通して、幸せを届けられますように!
おれは今、ものすごく急いでいる!昨日の夜勤のせいで寝坊して、彼女とのご飯に遅れそうだからだ。よりによって、今晩プロポーズするってときに!
彼女の好きなフレンチレストランの貸し切り、好きなブランドの指輪、フラッシュモブまで張り切って準備した。
初めて一緒に観た映画「ヘアスプレー」のハイテンションな劇中歌「You can't stop the beat」を、20人くらいのダンサーがおれたちを囲って急に踊りだす。その中心で、驚く彼女にプロポーズするのだ。
おれが遅刻したら、全部オジャンだ。彼女の虚無の表情と、ダンサーたちの料金を考えると、ゾッとする。
走ってバス停まで向かってバスに乗り、電車を乗り継ぎ、都内のレストランへと駆け抜ける。
ある意味、運が良かった。
いつも10分以上遅れるバスはすぐ乗れたし、電車も遅延してなかったし、仕事の連絡が来ることも忘れものをすることもなかった。
つまり、想定されるトラブルは何一つ起こらなかったというわけだ。そう、想定されるトラブルなら!
まず、バス停まで走っている途中に、木登りをして降りられなくなった子どもを助けた。バスに乗っている間はばあさんに「具合が悪い」と訴えられ、救急車を呼んだ。駅のコンビニで口臭スプレーを買おうとすると、「グエンくん、誕生日おめでとう!」と人違いのバースデーサプライズを受けた。電車の中では、痴漢に遭っていた女子高生を助け、事情聴取を受けた。
きわめつけは、落ちてきた大きな看板の下敷きになった外国人のじいさんを、その場にいた男たちで救い上げたことだ。
じいさんは何度もお礼を言っていたけど、普段ならいいのになんでこんなときに!と心の中で何度も叫んだ。
そんなこんなで、よれよれになったジャケットをはたき、おれはレストランのドアをバンと開けた。
色とりどりの衣装をまとったダンサーたちが、リフトをしながらノリノリで踊っていた。曲の終盤だ。その中央で、彼女はチベットスナギツネのような目をして座っていた。俺の姿を見ると、ハイヒールをツカツカいわせて近づいてくる。あわわ。シェフや従業員たちは、心配そうに俺たちを見やった。
「あのさあ、どういうこと?」You can't stop the beat……
「違うんだよ、遅れちゃったのは理由があって、その。」You can't stop the beat……
「今日、会うの久々だったじゃん。お互い仕事が忙しくてさ。私楽しみにしていたんだよ。もしかしたらって期待もしていたのに……。」
You can't stop the beat!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「うるさい!」
彼女が叫ぶと、曲は止まった。
「ごめん、本当に。」
彼女を見つめる。
「でも、おれは今日そのつもりだったよ。」
「え?」
彼女は顔を上げると、大きな窓からパンパンと花火が上がったのが見えた。
「ゲリラ花火だ!」
白い帽子のシェフが叫ぶと、ダンサーや従業員たちはわあっと外に出て空を見上げた。おれは彼女に指輪を渡し、ひとこと、言った。彼女は顔をおさえて何度もうなづく。彼女の肩を抱き、おれたちは光が飛び散る美しい花火を眺めた。
スマホを見ていた従業員は、隣にいるシェフに話しかけた。
「さっき、鉄骨で下敷きになっていたインドの貿易商のじいさんを若者たちが助けたんだと。これはそのお礼の花火なんだってさ。すげえよな。そいつらの顔を見てみたいものだよ。」
Fin
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
素敵な画像をお借りしました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?