【短編】やさしさとは、きっと テーマ:そのはず
狩野リサが大嫌い!
と、めらめら考えながらあたしは泣き腫らした目で教室に入った。学校では透明人間だから、誰も気にしない。
青野くんと狩野リサが付き合ったって知ったのは1週間前のこと。失恋したあたしは布団にくるまり続けて、とうとうブチ切れたお母さんに家を追い出されたってわけだ。
だって仕方なくない?青野くん、好きだったんだから!
ダンス部の部長で、笑うと大型犬みたいに目尻が下がって、ギターが上手くて、勉強ができて、とにかくかっこいい人なのだ。それに、ネクラで誰とも話せないあたしと席が隣だった時たくさん話しかけてくれた。
少女漫画の第一巻じゃん!ってずっと期待していたのに、結局顔だけで頭が空っぽなギャルを選ぶのかよ!
狩野リサは、ブリーチした金髪とカラコンが似合う美人で、誰とでもヘラヘラ笑って、バド部で…すごいバカだ。
よく高校入れたなってレベルの計算力で、通知表は先生の温情でほとんど2だ。
青野くんは、もっと賢くて落ち着いた子と付き合うべきなのだ。あたしとは言わないけど。
そして、一日中狩野リサを観察した放課後の今、わかったことは彼女はすごく人気者ってことだ。
廊下を歩けば必ず挨拶する誰かがいて、キモいオタクや怖い先生ともすごく楽しそうに喋る。そこにいるだけで、ふっと雰囲気がゆるむ。
もしかして、あの子すごいんじゃない?
ということは、青野くんとお似合いなんじゃない?
いやいや、そんなことない。もっと観察すれば、バカ以外の欠点が見つかるはずだ。
トイレの個室で考えていたら、クラスのギャルたちの声が聞こえた。多分、狩野リサもいる。
「てかさ、今日めっちゃあいつリサのこと見てきてない?」
「まじキモいよねー。嫉妬してんじゃない?青野のこと、好きだったっぽいじゃん。」
「言えてる。つかさ、青野のこと好きならリサみたいに話しかけたり、がんばれよって思うんだけど。」
あいつらの腕にかみついてやろうかと思っていたら、狩野リサが口を開いた。
「知らんけど、おめーらの思い込みじゃね?あたし全然気づかんかった。つか、むしろうちがあのひと気になってるからかも。超ミステリーで、話しかける勇気ないけどなんか嫌いじゃないわー。」
あはは、リサ天使じゃんうける!とギャルたちは笑いながらトイレを出ていった。
狩野リサが個室に入ろうとしたとき、あたしは勢いよくドアを開けた。
「うわ、びびった。え、全部聞いてたの?」
「か、かかりのさん、あの…」
悔しいよりも悲しいよりも、嬉しかったのだ。悪口を言われることはあっても、庇われたことはなかった。
狩野リサのすごいところは、人を見かけだけで見ないところ。高い壁を作って、人を見下して、そのくせ1人では何も出来ないあたしとは違う。バカはあたしの方だったのだ。
「ありがとう。あたし、」
「ああー、いいって。ごめんね、あの子たちノリいいけど口悪くて。」
「ううん。あのさ…」
あたしは、変わらなきゃいけない。青野くんと付き合うとかそういうことじゃなくて、狩野リサみたいに、優しくなりたい。
「友達に、なってください。」
「へ?…そりゃいいけど、がち漏らすからトイレ行かせて!」
あたしは、個室のドアを乱暴に閉めた音につい笑ってしまった。
あれ、そういえば友達ってなにするんだろう?それに、狩野リサと何を話せばいいんだろう。少し不安になった。
「とりま、今日ラーメンな!」
と狩野リサが叫ぶ声に、あたしはまた笑った。あーあ。青野くんが狩野リサを好きになった理由が、わかった気がした。
Fin
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今回は、はがきサイズのお題に挑戦しよう!と思って作ってみたはいいものの字数的にまったくおさまらなかっただろう物語です。いわゆるボツってやつです。
でも、個人的に結構好きな感じなので載せました。
テーマは「そのはず」。「そうであるのは当然のこと。」という意味だそうです。むしろ、「そうであってほしい」って言いたいときに使うんじゃないかなって考えたらこの話が出来ました。
にしても、好きな人の彼女と仲良くなろうとする主人公も結構すごいですよね。自分で書いてて思いました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
素敵な画像をお借りしました。
みなさまが今晩幸せな夢をみられますように!
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