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実家のレシピの梅干しならぬ「梅漬け (杏漬け)」と、津軽地方の伝統保存食「紫蘇巻梅」を作りたかった

「梅の実を塩漬けにした保存食」と言われれば、日本全国で一般的なものは梅干しだろう。
 梅干しを作った経験がある人はわかると思うが、梅干しはその名の通りに途中で梅を干す工程が入る。そのおかげで適度に水分が無くなり、独特の食感が生まれると共に携行性が増し料理にも使いやすいというメリットが生じる。

 対して秋田県や青森県などの北東北の一部地域では、この「干し」の工程を挟まない梅漬けという保存食が存在する。

 実家では毎年祖母が梅漬けを作っているのだが、実を言うと自分は我が家で唯一の梅干し派である。そのため、数年おきに自分用に別途梅干しを漬けている。
 しかし今年の初夏はたまたまこの梅漬けを仕込む時期に祖母が体調を崩してしまった為、祖母からレシピを聞いて自分が作ることになった。

祖母直筆のメモ。
「すそ」は紫蘇のことである

 前述の通り、梅漬けは梅干しと異なり干す工程を挟まない。
 この理由は諸説あるが、とにかく結果として梅漬けの方が手軽に作ることができる。その為か現在も梅漬けは各家庭で作られることも多く、各家庭ごとに工程や味付けが異なることも多い。
 ある家庭では単純に「干さない梅干し」として塩だけで漬ける。ある家庭では食べやすいように漬ける前の実を割り、種を除いてから漬ける。ある家庭では最初に塩漬けする際に砂糖を一緒に加える。ある家庭では最後に仕上げとして砂糖を加える。
 味付けや細かい工程はまさに千差万別で、今なお「家庭の味」が残っている料理の1つだ。

 実家の場合、梅漬けとは言うが使うものがまずウメではない。使うのは主に青森県南東部から岩手県北部で盛んに栽培されている八助はちすけというアンズの一種だ。
 ややこしくなるので当記事ではこのまま梅漬けと呼称するが、今まで梅漬けと呼んでいたものがそもそも梅漬けですらなかったことを今年になって今更知り衝撃を受けた。

 八助の実は完熟すると痛みやすいこともあり、栽培されている地域の外では生の実を入手することはやや難しい。実家の場合は祖父の知り合いから譲り受けているらしい。面白いことに、家族やこの八助を譲ってくれた知り合い含めて八助のことは飽くまで「ウメ」と認識している。
 ウメよりもアンズの方が寒さに強いため、かつての東北地方では盛んにアンズが栽培されており最近まで明確に区別することもなかったらしい。

親戚の方からいただいた八助。
大きさは8cmほどとかなり大粒。
ウメと比べると表面の毛と香りが少なくお尻が尖っている

 八助の場合、水につけてアク抜きをする工程は挟まない。まずは八助を割り、種を取り除く。
 八助に包丁でぐるりと切れ目を入れて捻ると、種がつるりと取れて片方につく。この実の取れやすさはウメにはないアンズの特徴らしい。このまま種がついている方の身をスプーンでほじくって種を取り除いていく。

ヘタはウメと比べて取りにくいので
残っている場合は半分に割った時に取り除く。
杏仁豆腐はモモの仁でも香りが出ると聞いたことがあったが、アンズの仁が使われることが多いのはこの性質と関係しているのだろうか。
重量比にして10%程度の種が出た

 種を取り除いた八助を、13〜15%の重量の塩と10%の重量の蒸留酒 (35°)と共に保存容器に入れ、塩漬けにする。実家の梅漬けはかなり甘さが強いのだが、この段階で砂糖は加えず最後に甘味をつけるらしい。この状態で3日ほど放置する。こちらの蒸留酒は、実家では果実酒用のホワイトリカーを使っていたが、近所ではバカルディのホワイトラムを使う家庭も多いようだ。
 多めの蒸留酒が入るので元々そこそこの水位があることに加えて、割っているために水分が出やすいらしく梅干しよりも早く梅酢が上がるようだ。

保存容器に詰めた直後の八助
半日程度で水分がかなり上がるので
一番上にクッキングペーパーを敷いて全体が浸るようにする

 下漬けの間、紫蘇を準備する。
 収穫した紫蘇の葉のうち色のいいものを毟って軽く水洗いした後、半日程度陰干しする。

むしった紫蘇。
幅1mほどのパレットいっぱいに入って1kg程度だ

 半日後、紫蘇が乾いたら紫蘇の重量の1割弱程度の塩をかけて揉む。水分が出たらぎゅっと搾り取る。
 ここにもう一度紫蘇の葉の量の1割弱ほどの塩を振り、再び揉んでアクを絞る。

大きなパレットいっぱいにあった紫蘇は
塩揉みすると30cmほどのボウルに収まり
水分を絞れば重さも半分以下になる。
そして塩揉みすることで紫蘇特有の香りも一気に強くなる

 3日後、塩漬けが終わった梅 (アンズ)を今度は3日間瓶ごと (!) 日光に当てる。もちろん水分には漬けたままである。

「こうすることで発色を良くする」と言っていたので、恐らく塩漬けになるまで腐敗防止目的に入れていた焼酎のアルコールを酸化させて酢酸にすることで、より強く酸性に傾けさせるのが目的なのだと思うが、色々と予想外の工程である。

 ここまでは普通の梅干しの作り方と同じだが、一般的にこの作業では発色のために梅酢を使用する一方で、ウメではなくアンズを使う地域では市販の酢やクエン酸などを使うことが多い。
 アンズは酸味が穏やかな分、上がってくる水分の酸性度では十分に紫蘇が発色しないのだろうか。

 そして3日経ったものに紫蘇、砂糖、そして酢と焼酎を加える。焼酎は梅1kgにつき500ml、酢は梅1kgにつき400ml弱、そしてザラメはなんと梅1kgに対して500g。
 この状態で置いておけば完成だ。

紫蘇を入れた直後の写真。
ここからどんどん赤くなっていく

 そしてもう1種類、今回は家族のリクエストで紫蘇巻梅も仕込んだ。
 こちらは青森県の津軽つがる地方で作られている伝統的な加工品で、こちらも家庭や工場ごとに作り方は多様だが大抵は干す工程を挟む。
 ただし、最終的に梅酢に漬けるために梅漬けのようなビジュアルになり、そしてこちらもまたかなり甘いものが多いらしい。

 こちらについてはネットで調べた情報をもとに作ったものを参考に半ば手探りで作ったものだ。

 まず、収穫した紫蘇から大きくて形の良いものを選別しておく。

大きくて虫食いがないものを選んでおく。
1個につき1枚か2枚ほど使った

 これを梅漬けの紫蘇と同様に2回に分けて塩揉みした後、包みやすいように1枚1枚開いてからフリーザーバッグに入れる。また、昨年自分が普通の梅干しを漬けた際に残っていた梅酢が残っていたので、こちらの方には梅酢を注いでおいた。

このブログの常連フリーザーバッグ

 そしてその間に、下漬けした杏を干しておく。
 干す期間は1週間から10日程度と言われているがその期間の天候にも大きく左右されるので、見た目や触り心地で判断したほうが賢明だろう。
 今回は干し始めの時期はやや天候が崩れがちだったことと、初めて作るために不安なのもあり2週間干した。

干し網の中の杏

 2週間後、干し上がった杏を漬けておいた紫蘇で巻くのだがこの際に砂糖と共に巻き込むことが多い。
 今回は1つにつき大さじ1/2ほどを種のあった部分に乗せて巻いていく。

2週間後、干し上がったもの。
少し干しすぎた気がしないでもない
ザラメを大さじ1/2ずつ共に巻く。
今回は初めて作ったこともあり量は少なめで20個ほどにした
そして再びのフリーザーバッグ。
この状態でしばらく熟成させる

 梅漬けの方は一応は1ヶ月ほどで食べられるらしいのだが、梅干しと同様に1年ほど寝かせた方が味が落ち着くらしい。味の方も問題なかったが、まだ祖母の梅漬けが残っているのでこちらを本格的に食べ始めるのは来年からになりそうだ。

 しかし問題は紫蘇巻梅の方である。
 普通の梅干し、しかも常温保存を前提にした塩分濃度のものに慣れ切った自分の舌では「こんなもんだろう」程度だったのだが、リクエストした家族に食べてもらったところ「流石に塩辛すぎる」とのことであった。
 柔らかさや甘さは問題ないとのことだったが、結局リクエストした家族は一旦水に漬けて塩抜きした上で再び砂糖と酢をまぶして食べていた。

 ここから味付けし直すことはできなくもないだろうが、味と保存性を両立した上での作り方が思いつかずに詰んでいるのが現状である。
 来年のアンズのシーズンまでに詳細なレシピを手に入れられれば作った結果を公開したい。

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