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水瀬神奈
2022年12月28日 23:33
2022年12月23日 23:49
「あまりネット上でマウント取らないほうが良くないっすか?李涼姐(ねえ)さん。」某デパートの前で涼やかな顔をして人を待っていると背後から声をかけられた。「すいません、お待たせしちゃって。」と軽く会釈したこの男は、待ち合わせをしていた当人である安治郎。通称は銀次で通っていて銀さん、と呼ばれている。名前がいくつもあるとややこしいが、夜の商売では本名を勿体ぶって明かさない人が多い。安治郎という本名は
2022年12月16日 21:10
地下鉄の車内は生温い温度に満たされている。取り付けられた扇風機もぬるま湯のような酸素の少ない空気を無駄に攪拌するにすぎなかった。定期的に吹き付ける押しつけがましい風が苦手で、思わず扇風機を睨みつける。外界の灼熱地獄を汗をかきながら必死になって通り抜けて来たうえに、芋を洗うようにごったがえす人ごみの中。ホームで苛立ちながら列車が到着するのを待ってやっとの事で車内に押し込まれるように滑り込んだ。しか
2022年12月10日 08:50
七瀬は弁護士だ。相続や家庭問題や離婚や調査などを得意としている。「先生。今朝は9時より土元さんの予約が入っております。」事務員の玲奈は学生だけどなかなかしっかりしていて言われたこと以上に気がきく。仕事はがんばってくれていた。5分前、コンコンとノックされ、玲奈がどうぞと言い開ける前に太った女性が大きなハンカチで額を抑えながら入ってきた。玲奈が中へ案内する。「お待ちしておりました。土元様です
2022年12月5日 17:40
鏡を覗く。そこに毛のない猿がいた。ギョッとして身体が反射的に硬直する。心臓に痛みが走った。全身が凍りつくというありふれた表現はこういう場合に使うのだろう。猿は背中を丸めて真っ白な冷たい皮膚を晒していた。そして暗く落ち窪んだ眼窩からのぞく虚ろで大きな眼球が、じっとこちらを捉えたまま様子を伺っている。それが自分だと気づくまでに時間はそれほどかからなかった。十二畳の広さの和室の隅に置かれた古い三面
2022年12月19日 14:52
「まだなのか?」「すみません、もうすぐです。」「もうすぐもうすぐって!いつになったら産まれるんですか!」「もう出口までは来ているんですがその…」「なんです?」「子供が生まれたくないって言うんですよ。」「それはまたなんで。」「自分は出来の悪い子供だから世の中に適合できるかどうかもわからない、だから生まれるのをやめようと思うと申しております。」「そんなことは気にするな、適合できなくても