古川柳八篇① 雛の箱まだ文も見ず開けたがり 柄井川柳の誹風柳多留
世に川柳愛好家は多い。このnoteにも川柳のページが多くある。そんな川柳を広めたのが江戸時代の柄井川柳(1718~1790)。彼の名前から「川柳」という言葉が生まれた。江戸の川柳を古川柳という。
柄井川柳が名もなき一般人の作品から選んだ川柳を集めた「誹風柳多留八篇」の紹介。全5回の①。
読みやすい表記にし、次に、記載番号と原本の表記、そして七七の前句をつける。前句が題材となり、それにあわせた句を創る大喜利のようなものが古川柳。自己流の意訳と、七七のコメントをつけているものもある。
雛の箱まだ文も見ず開けたがり
1 雛の箱まだふみも見ず明けたがり ねんごろな事ねんごろな事
江戸の人は百人一首でよく遊び、歌の意味も知っていた。そのパロディーも創られた。
大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天橋立 小式部内侍
大江山を越えて母のいる生野へ行く道は遠いので、まだ天橋立の地を踏んでいません。まだ母(和泉式部)の手紙(=文)も見ていません。
百人一首のこの歌を踏まえている。
女の子の初節句に箱に入った雛人形が届いた。一緒に届いた手紙(文)も見ないで人形の方を先に開けたがっている情景。七七の前句は「ねんごろな」=丁寧な、だから、丁寧に手紙までつけて贈り物をしているのに、って意味かな。前句で、「丁寧なもの、なあに?」と聞いているのが問題となり、それに合わせた川柳を考え、人々は応募した。その中から優秀作を柄井川柳が選んでいた。
我が好いた男の前を駆け抜ける
31 我すいた男の前をかけぬける きのついた事きのついた事
好きな男の前だと照れて、パッパッと駆けて行ってしまう恋する女性。
好きなのにわざと無視して駆け抜ける
そんな時代も昔はあったね
純情娘の時代もあって人は成長していく。
見つかって椎の実ほどにして逃げる
84 見つかつてしいのみ程にして逃る もつともな事もつともな事
ドングリといわれるものにはいろいろな種類がある。ドングリの仲間の中では、椎の実はとても小さい。大きなドングリが、小さな椎の実ほどに縮んでしまう。うん、浮気の最中に見つかって逃げ出す男の逸物の状態だろう。「もっともなこと」だなあ、という下ネタの句。
得心の娘うふふんと笑ふなり
175 とく心のむすうふふんと笑ふ也 うかれこそすれうかれこそすれ
告白してOKを出す(得心)娘の態度は「うふふん」との笑い顔。そりゃあ男は「うかれる」(うかれこそすれ)ことだろう。
告白の返事はあの娘の笑顔かな
男と女の関係は今も江戸の昔も変わらない。異性の反応がどちらにとられるかわからないから恋はおもしろい。微妙な反応をしない二次元の世界の異性もいいけど、どう反応するかわからない三次元の異性ともつきあっていないと人生楽しくない。人は、人の中で生きているから、人との関係を大事にしなければ自分を見失ってしまう。そんなことを考えさせる川柳を、そんなことも考えず、ただただ笑って読むのもまた楽し。
今までの古川柳をまとめたものはこちら。