古川柳つれづれ ほととぎす聞かぬと言へば恥のやう 柄井川柳の誹風柳多留二篇⑤
江戸時代に柄井川柳が選んだ誹風柳多留二篇の古川柳作品紹介の最終回。
読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、前句を記す。自己流の意訳を載せているものもあり。
穴蔵へ気強い嫁は一人降り
232 あなぐらへ気づよい嫁は一人おり にくひ事かなにくひ事かな
前句の「にくい(にくひ事かな)」は、「あっぱれだ」「たいしたもんだ」という意味の言葉。穴蔵は地下室のことで、大きな商人の家では地下室に味噌や漬けものを置いていた。
お化け屋敷気強い彼女一人行き
ってなものかな。
姑の嫁には氷 孫に溶け
240 姑の嫁には氷 孫にとけ やわらかな事やわらかな事
姑は嫁には氷のように冷たい態度だが、孫に対しては「やわらかく」氷が溶けてしまう。まあ、そんなもんだよっていう皮肉の句。
そば切りの明かりをかする夜はまぐり
250 そば切のあかりをかする夜はまぐり よいかげんなりよいかげんなり
「そば切り」は屋台のそば屋。屋台といっても今のイメージの屋台ではなく、背中に担いで運ぶ屋台(下イラスト)。夜遅くまで商売をしており、呼ばれるとそこでソバを作る。夜はあんどんの明かりで商売をしている。「夜はまぐり」は、昼間とれたハマグリを売る商売で、売れなければ夜になるので「夜はまぐり」。そば屋の明かりをかすり取って、うまい具合に(「よいかげん」)商売ができている。江戸の町ではいろんな商売があり、いろんなものが消費されていた。
夜屋台の明かりを借りて商売し
手の筋を見ると一筋けちをつけ
597 手の筋を見ると一と筋けちをつけ すすめこそすれすすめこそすれ
手相を見る占い、手相見のこと。「おっ、この筋は」と言いながら、もっと見るのでお金を払えと「すすめる(すすめこそすれ)」。「これは家相が悪い」とか「先祖の霊が」と言ってお金をせしめる詐欺と同じようなことをする。占いが詐欺ではない。ケチをつけるだけでなく、脅して商売することがだめだ。
占い師最初はケチをつけてみる
ほととぎす「聞かぬ」と言へば恥のやう
621 ほととぎす聞かぬといへば恥のやう われもわれもとわれもわれもと
目には青葉山ほととぎす初鰹 山口素堂
江戸時代の有名な句にあるように、初夏を告げるのがほととぎすの鳴き声と初がつおだった。
青葉の新緑の季節。初がつおを食べるために高い金を払っていた江戸庶民。初がつおと同じようにほととぎすの初音を聞くことも流行していた。テッペンカケタカと鳴くほととぎすの初音をまだ聞いていないと言うのは恥のようだった。「我も我もと(われもわれもと)」流行に追われていた。
ホトトギス初音聞かぬは恥のよう
今も昔も流行を追う人はいる。
江戸の人が、ホトトギスや初がつおにはまっていたように、私は「ファイト」から、うぴ子にはまってしまった。(今回は唐突にうぴ子が出てきてばかり)
心に響くものがあるから、江戸時代に川柳が流行った。心に響く歌があるからみんなに紹介したくなってしまう。
江戸時代の人の生活も、現代の我々と共通する部分が多くある。江戸の川柳を知ることは、今の自分たちの姿を知ることでもある。
「誹風柳多留二篇」はここまで。