薬膳に救われた話
薬膳に救われた話。
私は、子どものころから台所が好きだった、らしい。
母に聞くと、2歳のころから台所に立って、もちろん踏み台のうえに乗って、お皿洗いを手伝っていた、という。
父がビデオカメラに撮った映像も残っていた(笑)
せっせと、小さな手でお皿を流水ですすいでは、重ね、またすすいでは、重ね。横に積みあがったお茶碗はバランスを取りながら不安定にぐらついている。そんな映像だった。
私が記憶している、一番古い台所での記憶は、小学2、3年生のころ祖母の料理を手伝っているところだ。
キュウリを包丁で縦に切ろうとして、うっかり手を滑らせて、左手の親指の腹を切ってしまった。
血が出て、少し痛くて、びっくりして。やってしまった、と思ったけれど、祖母は優しく絆創膏を貼ってくれた。
それからも、共働きの両親に代わって、平日はほぼ毎日夕ご飯をこしらえてくれる祖母のそばに立って、何かしらの手伝いをしていた。
和え物を混ぜる、とか。お皿を並べる、とか。お皿にトマトを盛り付ける、とか。洗い物をする、とか。
そんな簡単なことから、味付けだったり、食材を切ることだったり、食材を一緒に買いに行ったり、何を食べたいか献立を考えたり、だんだんと家庭の料理を覚えていった。
もちろん、母の味は覚えていなくて、私が覚えたのは祖母の味だ。
高校を卒業するころには、すっかり夕ご飯の支度は私がメインでするようになった。
自然と、志すようになったのは、調理の仕事。
なぜか、高校卒業後の進路に調理師の専門学校へという選択肢がなかった私は、それでも紆余曲折へて、厨房の仕事へ就くことになった。
2年の実務を経て、独学で調理師の勉強をして、試験を受けて、見事一発合格を果たした。
けれど、私は調理師の試験の前に、大きな手術をしていた。
せっかく調理師の資格を取ったのに、術後の経過というか、投薬治療の薬が合わずに、もがき苦しんで、結局厨房の仕事を辞めてしまった。
大好きな調理の仕事が、大嫌いになってしまった。
大嫌いになってしまうくらいに、心も体もボロボロだった。
食べ物も見たくない。
料理の匂いも気持ちが悪い。
なんとか、朝晩に食パン半分を飲み物で流し込む食事。
56㎏あった体重は46㎏に。
あまりのみずぼらしさに、悲しくなった。死すら過って、ただただ光を探した。
そこで見つけたのが、漢方だった。
でも、仕事を辞めて、手当で生活する私に漢方は金額が高かった。
効果があるのはわかった。でも続けられない。
続けていくことが大事なはずの漢方を、ケチりながら服薬しても効果は半減する。
けれど、漢方を知ったことで中医学を知ることとなり、そこから「薬膳」なるものを知って、私はこれだ!と思った。
薬に頼らずに、普段の食事が食療になる。
それもスーパーで売っている食材で!
もちろん中薬を使うこともあるし、使えば効果は高くなるけれど、家庭料理に落とし込むことができる薬膳は、料理が大好きな私にとって、とてもうってつけだった。
中医薬膳学を必死になって学び、実践し、少しずつ体が回復していく。
ご飯がおいしい。
料理が楽しい。
それが、ものすごくうれしかった。
薬膳の知識を得たことで、ただ作っておいしい、で終わらない。
この食材はこの体質の人に良い。
この食材はこういう症状のある人に良い。
これを知っているといないとでは、選択肢の幅が大きく変わってくる。
季節に合わせた食事。
いまの体調に合わせた食事。
自分の体を見つめ、診ることができる。
ストレス社会と言われて久しい現代で、自分の体を向き合うことを忘れている人は多いと思う。
もちろん、私もそうだった。
仕事に忙殺されて、欲するままに暴飲暴食をしていた。
好きな仕事ができなくなって、ようやく気がついた。
そして、知ることができた。
食事は生きていくための根幹で、その1日3食の食事をおろそかにしていたこと。
薬膳の知識があることで、その1日3食の食事を丁寧に、自分の体に合った、食事にすることができる。きちんと選び取ることができる。不要な、取り入れたくないものは、捨てることができる。
それができずに、苦しんでいる人が、いまもなお大勢いるはずだ。
情報社会、ネット社会になって、さまざまな健康情報を簡単に手に入れることができるようになったけれど、はたしてどれだけの人が正しく日常生活に、普段の食事に、取り入れることができているだろう。
日々の習慣として定着させることができているだろう。
ゆるぎない体、健康を得られたと実感している人がどれほどいるだろう。
一過性の元気、一過性の成果、一過性の効果ではなく。
昨日も、今日も、明日も、恒常的な健康を体感している人はどれほどいるだろう。
風邪を引いても長引かない。
ダイエットをしてもリバウンドしない。
季節の変化、天候の変化に、左右されない。
芯が1本、すっと通った健康を維持しつづけられている人はどれほどいるだろう。
私は、最小限の投薬を続けているけれど、ときどき体調が揺らぐことがあるけれど、それでもあの時の最悪な私から比べれば、今の私は自分史上一番元気だ。
こうして思い返すと、あの最悪な状態の私を救ってくれたのは、薬膳だった。
今もこうして、元気でいられるのは、薬膳があるからだ。
風邪をほとんど引かなくなった。
頑固な便秘もしなくなった。
片頭痛もなくなった。
暴飲暴食もしたいと思わなくなった。
ジャンクな食べ物も欲しなくなった。
過剰な感情の起伏もなくなった。
自然体な喜怒哀楽と、四季の巡りに合った健やかな体がある。
これはとても尊いことだと痛感している。
もしあなたが、空腹を満たすだけの食事をしているのなら、一度立ち止まって省みてほしい。
この食事を、少し変えるだけで、自分の体が健やかになるのだとしたら。
そんな食事を摂ることができる知識があり、その「薬膳」を知り、実践することで、体が変わったと体感したとしたら。
あなたは、「薬膳」をもっと早く知りたかったと思うはず。
この文章をここまで読んだ、あなただからこそ、1歩を踏み出してほしい。
どこからでもいい。「薬膳」を知ることを始めていきましょう。
私は、体の不調を抱え込んで悩んでいる人が、少しでも減ることを願っています。
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